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思い知った日

 ニーナとPTパーティーを組んでから3日。この<アンリアリティ・デイズ>に閉じ込められてから10日が経過した。

 始まりの街<アリア>は初期レベルに適した場所になっており2km圏内は雑魚敵しかいない。西にいくと川が流れており、その付近から敵のレベルが上がる。ニーナの目の前に二足歩行するトカゲ<リザードマン>

 お互いに出方を伺っていたが、先に動き出したのはリザードマン。剣を頭上に構え、目の前の獲物目掛けて振り下ろす。とっさに片手剣を両手で持ち、刀身でリザードマンの攻撃を防御した。

「くっ!」

 リザードマンの腕力は相当なもの。敵とのレベル差が3ぐらいにもかかわらず、剣と剣がぶつかる瞬間、肘と膝を曲げて攻撃力を緩和させた。なんとか防御出来たものの、始まりの街<アリア>では上位強さを誇るリザードマン。隙ができた胴体を長く太い尻尾が襲い掛かる。

「きゃっ!」

 ニーナの体が宙を舞い、HPが4分の1程度減った。

「助けようか?」

 俺は腰に携えていたレイピアを抜いた。

「こ、これぐらい大丈夫よ」

 攻撃を食らったにも関わらず笑いながら答えるニーナ。この仮想世界において感覚というものは失われると思っていたが、五感全部が再現されている。しかし、各々の感覚には上限みたいなものが決まっており、痛みも動けないほどの激痛とまではいかない。それでも女性にはこの痛みは辛いだろう。

 この三日間で戦闘技術を教え込んだが、乾いたスポンジの用に次々に与えられた課題を吸収していく。

「はぁっ!!!」

 それは一瞬だった。

 リザードマンの懐に踏み込んだニーナは剣を両手でも持ち変え一気に切り上げた。

 武器を破壊し、同時に急所の心臓をも破壊されたリザードマンは光の粒子と共に消え去った。

『レベル9→レベル10』

「おめでとう」

「ありがとう。なんとなくコツはわかってきた。でも……」

「でも?」

「私がこんなに頑張ってやっと10レベルに達したわけだけど、指導員様はいったい今のレベルはいくつなのかしら?」

 ニーナが詰め寄ってきた。

「あ、え、えーっと……。17……かな」

「はぁー」

 腰に手をあて大きく溜息を吐かれた。

「どんだけ戦ってるのよ。私のレベルがノエルに追いつくまでレベル上げ禁止ね!」

「それは困るよ……」

 穏やかな時間が流れこの世界での生き方にも慣れてきた時、あいつからの声が聞こえてきた。

『プレイヤーの皆さんお久しぶり。樫村創一だ。<アンリアリティ・デイズ>は楽しんでもらえているようでなによりだ。そんな君たちに水をさすようなことするが、まず先に詫びておこう。とりあえず、これを見てくれ』

 先ほどまで青空だった空に巨大なスクリーンが映し出された。そこには病院のベッドに座りながら紙とペンを持ってる白衣を着た男が映っていた。

『おいっ! なんで文字が書けねーんだよ! 言葉は理解出来るし話すことも出来る……なのに、なのに何がどうなっちまったんだよっ!!!』

 悲痛な叫びを延々と繰り返しながら映像は途切れた。

『彼は君たちのいる<アンリアリティ・デイズ>の元住人だ。彼にはどうやら君達がいる世界に合わなかったらしい。自ら高レベルの敵に挑み、わざとHPを0にした。HPが0になればどうなるかは憶えているかな?』

「大切な記憶が消えて、現実世界に戻る……」

 ニーナがつぶやく。

『HPを0にして念願の現実に戻ってこれたわけだが、彼の大切な記憶。それは、文字を書くこと。

 彼は書道家として活躍していたが、スランプに陥り周囲からのプレッシャーにも耐え切れなくなり、仮想世界に逃げた。そして、仮想世界からも逃げた彼は書くことを失って戻ってきた。

 10日も経ったんだ。君達の中にも現実世界に戻りたいと思ってる人間が現れてもおかしくない。しかし、忘れないでほしい。大切な記憶が消えてしまうのは事実だ。私が君達を仮想世界に留めておく為の嘘ではない。そのことを肝に銘じて<アンリアリティ・デイズ>をプレイしてくれ』

 樫村創一の言葉はこれで終わった。

「許せない……」

 何もない空を見続けるニーナにかける言葉が見つからない。確かに許せない行為ではあるが死ぬわけではない。あの書道家だって、もしかしたら別の道のほうが向いている可能性だってある。

 こんな雰囲気の中レベル上げなんて出来ないな。

「ちょうど昼だし、酒場に戻って昼食にしよう」

 眉間に皺を寄せつつ、黙って頷くニーナ。

 俺はアイテムメニューからテレポートクリスタルを選択し、別ウィンドウで開いたマップメニューから行きたい場所をテレポートクリスタルにドラッグすると手元に拳程の大きさのブルーのクリスタルが出現した。このアイテムは道具屋で売ってるがそこそこ値が張る為持っているプレイヤーはまだ少ないだろう。買えば一生使えるしPTを組んだ全員に反映される便利アイテム。

 テレポートクリスタルを右手で潰し青白い光が俺らを包む。

 一瞬視界は暗転するが、すぐさま見慣れた酒場の入り口が目の前にやってきた。

 扉を開けるといつもよりも人が多く、皆心なしか不安げな表情をしている。きっと、さっきの映像を見た連中なのだろう。

「おお! 昼飯か? いつもの席空いてるぞ」

 カウンターからマスターが声をかけてきた。

 ニーナと俺がいつものカウンター席につくと、何も頼んでいないのにハンバーガーのセットが二つ置かれた。

「これは?」

「今日は特別に奢りだ」

 優しく微笑むマスターの表情を見て少し気持ちが落ち着いた。ニーナの顔を伺うと先ほどまであった眉間の皺が消えている。

 マスターと俺とニーナで少し談笑しながら昼食を食べていると、後ろのほうから気になる情報が飛び込んできた。

「噂で聞いたんだけどよ、さっき映っていた男いるだろ? あいつのレベルは11だったらしいんだが、例の場所の敵に挑んで負けたらしいぞ」

 向かいに座っている女が疑問を投げかける。

「例の場所?」

 男は得意顔をして答える。

「この街唯一の教会。そこの地下にある<忘れられた教会>だよ」

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