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出会った日

 始まりの街<アリア>

 この仮想世界<ワールドウェル>の全プレイヤーにあたる1万5千人が最初に訪れる。

 ここでは初期の町らしく、酒場・宿屋・道具屋・武器屋・防具屋・雑貨屋などありとあらゆる店が並んでおり。人工知能が備わっているNPCノンプレイヤーキャラクターも約5百人ほどいて日々賑わってる。

 この町の中を少しでも知ろうと散策していたが、周囲が暗くなってきたので、一旦酒場に向かうことにした。一応この仮想世界にも現実世界と同じ時間の概念があり太陽も月も星も存在する。

 プレイヤー達は、最初の方こそ動揺していたものの、すぐにこの環境に適応しているように感じた。

 俺は目的の酒場に入り、いつも座るカウンターの端に座った。

 今は7月14日午後7時。

 俺らがこの<アンチリアリティ・デイズ>に来てから今日でちょうど一週間。

 この時間帯になると日が暮れ建物に明かりが灯る。

「おお。ノエルか。昼もここに来てたし他に行くとこないのか?」

 カウンター越しにマスターが話しかけてきた。ここのマスターは56歳。グレーシャツにワインレッドのネクタイ。黒いベストを着こなしている。白髪交じりの頭髪に口ひげまで生やしており、いかにもマスターという風貌だ。

「またとは随分な言い草だな。ここの酒場が一番人が少ないから選んでるんだ。万が一ここが繁盛してたら別の場所を探すよ」

「言ってくれたな若造め」

 マスターは笑いながらコップを拭いている。

 ここの店のマスターはNPCではなく本物のマスターが存在している。現実世界でも喫茶店をマスターしてたみたいで、この世界でも同じ職業で生きていくことを選んだらしい。

「またいつものやつ食べるのか? 食べ過ぎると体壊すぞ」

「食べ物に毒が入ってないかぎり壊れることはないさ」

 目の前に置かれているメニュー表を持ちページを捲る。欲しい物をタッチすると、目の前にバーチャルディスプレイが出現し個数を指定したあとにOKボタンを押すだけで注文できる。

「お待たせしました。ハンバーガーとポテトとコーラです!」

 ほんの数秒で酒場のNPCが注文した商品を持ってきてくれた。

 まずはポテトを一本食べようとした時だった。背後から木製の扉がガンガン叩かれる音が聞こえてきたので、何かと思い振り向いた瞬間、木製の扉が光の粒子に変化し飛散すると同時に、銀色の物体が店に入ってきた。

「なんだアレ」

 マスターが俺に質問する。よく見てみるとその銀色の物体には見覚えがあった。

「わからないけど、重装備を着た誰かだと思う」

「なんじゃそら」

 五十代のマスターには少し難しかったようだ。

「重さと防御力を重視した鎧だよ。西洋の鎧を分厚くしたやつと思っていい」

「なるほど。それで誰だ?」

「知るかよ」

 普通は顔が見える作りになっているけど、装備と着ている人間のサイズが合ってないから顔が隠れてしまってる。しかし、ゲームでは幾度となく見た重装備だけど、こうやってまじかで見ると凄い迫力だ。一歩踏み出す毎にドスンと響き床が軋む。本人の筋力が足りてないのか一歩足を前に出すのに数秒掛かってるうえにパーツがグラついてる。

 やっとのことで椅子に座ったのだが、あろうことか俺の横に座られた。

「ふひまへん」

「えっ?」

 何か言ったようだが分からなかった。

「ふぉれ、取ってふらさい」

「装備を取れって?」

 重装備が頷いた。

「取るも何も自分で脱げるだろ?」

「ふぇ?」

「ピンチアウトって知ってるだろ? スマホでいう拡大とか縮小する時に指を開いたり閉じたりするあれだ。拡大すると時の動きをやって、メニュー画面開いてみろ」

 重装備の指先が少し動いた。

「そしたら装備画面をタッチして、右下の解除ボタン押せば装備が外れる。くれぐれも、全装備解除は……」

「ふぇっ?」

 横にいた重装備の鎧が解除されると、そこには下着姿の女性が座っていた。

 俺の視線に気づいた彼女は「きゃあああああああああああああ」と叫び、両手で胸を隠しその場で座り込んでしまった。

「ご、ごめん。先に言えば良かったよな。まさか女の子とは知らなくて、で、でも……」

「いいから服の着方教えてよ!」

「さっきの装備画面で装備一覧画面があるから、そこから着たい服をタッチして着せる項目にドラッグさせれば大丈夫」

 女の子は左手で胸を隠しながら右手で操作した。顔を赤らめさせ、不機嫌そうな顔をしてる。

 そんな時間のかかる操作でもないので一分もしないうちにピンクのTシャツとデニムのホットパンツ

姿になった。

「えーっと……大丈夫?」

「レディーの下着姿を見て大丈夫? と声をかける前に言うことあるんじゃない?」

「ご、ごめん。別にわざとじゃないから……」

「謝ればいいわ」

 彼女は立ち上がり、さっき座っていた椅子に腰掛け周囲を見渡し始めた。

 少しホッとした。しかし、驚いた。こんな細い子があんな重装備を着ていたなんて。

「それにしても人が少ないのね。酒場なのに」

 マスターが口を開く。

「いやぁー。こんな可愛い子がウチの店で働いてくれたら繁盛するのにな。いつも来るのは、この冴えない野郎だけだ」

「もう来ないぞ」

 マスターのいうように確かにニーナの容姿は素晴らしかった。サラサラと輝いてる金髪は肩より少し長いぐらいで、青色のピンでサイドに留めてある。目は透き通るようなブルー。唇はほんのり赤い。先ほどの重装備を纏っていたのが嘘のような白い肌に細身の体。その周囲の目を惹く容姿は天性のものなんだろう。長くゲームをプレイしてきた俺でも、このような容姿キャラクリで作るのは無理だなと感じた。

「どうだいお嬢ちゃん。ウチで働くなら給料多くだすよ?」

 どうやらマスターは本気で彼女を働かせようと試みてるらしい。

「決めた」

 マスターの口元が緩む。

「お? 働いてくれるのかい?」

 彼女は俺の方を向いた。

「ねぇ君」

「ん?」

「私と勝負しましょ」

 これが彼女とのファーストコンタクト。

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