起こった日
目を開けると、目の前には始まりの街<アリア>が見えていた。
「なあタケル。お前は……」
タケルが寝そべっていた場所を見たが、そこにはタケルの姿は無かった。周囲を見渡すと、ちらほら人の姿はあったのだが、先ほどまでとは比べものにならないほど少ない。
俺はメニュー画面を開きカウントを確認した。
『0:00』
確かに0になっている。
「バグか? それともエラー? いや、もしかしたら……」
色々と考えてはみたものの考えがまとまらず、どうすることも出来ずにその場で立ちすくんだ。すると、その時空から音が聞こえてきた。
『私の作った<アンリアリティ・デイズ>をプレイしてくれてありがとう。私はこのソフトを開発した樫村創一だ。今ここに残っているプレイヤーの諸君は、現実に帰れないことを不思議に思っているだろう。しかし、これは君達が望んだ結果だ。私はなにもしていない』
俺が望んだ? そんはこと一言も言ってないないし、何かに書いた記憶もない。
「ふざけんな! 何もしてないわけないだろうが! 元の世界に返せ!」
近くにいた一人が空に向かって叫んだ。
『返せ? それは本心かな?』
「な、何が言いたい?」
『ちょっと待ってくれ。えーっと、君は佐藤一君だね。学校でイジメられているそうだが、それでも元の現実に戻りたいかい?』
「……」
彼はうつむき、悔しそうに唇を噛み締めていた。
『ここに残った人間はなにかしら現実での不満がある。その不満を抱えたまま現実にいたって楽しくもなんともないだろ? 君達は現実世界にいたくない。私は仮想世界で生きる人間のデータが欲しい。お互いの利害関係は一致しているんだ』
俺は数ヶ月前の悔しさを思い出した。確かにAOSが突然の終了を告げてから今日まで楽しいと思った日は一日としてなかった。でも、この仮想世界を数時間しか体験していないはずなのに、1万時間以上遊んだAOSよりも心が躍っている。
『この仮想世界で普通に暮らしていても楽しくないだろう。私は小さい頃からゲームが好きでね。なので、この仮想世界<アンリアリティ・デイズ>はMMORPGっぽく作ってあるから自由に楽しんでくれたまえ』
この世界に残っている人達はどういう考えなのだろうか。
俺は現実世界に戻ってもやりたいことなんてないし夢もない。ただ、毎日学校へ行って同じ日を繰り返すだけ。それなら仮想世界に居たほうが楽しいのではないだろうか……。
『そうそう。大切なことを言い忘れていた。このゲームには膨大な情報量を脳に直接流し込んでいる。普通ならば脳の容量をパンクするほどの量だ。そこで私は君達の一番使っている容量の部分。各々が持つ大切な記憶の部分を丸ごと別の場所に保管することにして脳の容量を確保している。
正規の方法で帰還すれば、仮想世界で使用している容量を安全にシャットダウンし、大切な記憶部分はスムーズに戻されるので何も問題はない。だが、HPが0の状態で強制帰還してしまうと、機械の処理が追いつかなくなってしまい、大切な記憶を失って戻ってきてしまうので注意してくれ。では検討を祈る』
このアナウンスが終了の合図だったのか、先ほどまではこちらが攻撃した時だけ襲ってくる敵が次々に、自らの意思でプレイヤーに襲い掛かり、辺りは騒然となった。
「……面白い」
現実世界にはこんなリスクを負う機会なんて無い。ゲームならではの緊張感、興奮が直接肌で感じとれる。
「今度こそ……今度こそ俺がトッププレイヤーになってやる」