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夜、家に帰ると予想通り飛び出していった奴がリビングに居た。
「はい、シー」
「……うん、うんまい。あっ。ニックお帰り~」
口元に差し出されたケーキを恥ずかしげもなく口に含み、だらしない顔で感想を述べてからこちらを向く。
手元には携帯ゲーム機が握られているが、余所見をしても大丈夫なタイプのゲームようだ。
(今あるゲーム機の中でも最新のもので前に見たものとは少し形が違うのだが、そういったものに疎いニックには違いが分からない)
テーブルの上には平らげられた後の残骸(空っぽの皿たち)が積み上げられていた。
確かに時間は経っているが、お前泣きながら出て行ったんじゃなかったか? と突っ込みを入れたくなる。
が、コレもいつもの光景でニックは額を抑えるだけにとどめた。
リーウェンの健康法のせいで自分以外の血がトラウマなシーファは、大抵こうやって家に来てはくつろいでいく。
多分今日も『ひどい目にあったんだ~』と家の者に泣きつき、何時ものように甘やかされているのだろう。
「ただいま。リーティル。元気にしていたか?」
シーファに返事をして、そのままもう一人に声をかける。
雛鳥にえさを与えるが如く行動をしていたもう一つの黒い頭がこちらを向き、こっくりと頷いた。
リーティル。ニックの小さな弟。
生まれた頃からずっと従兄弟達と一緒に過ごしたせいかすっかり懐き、特にシーファにはべったりだ。
普段は学びと芸術の都市の学園の寮に住んでいるが、実家のあるこの治安と行政の都市など大都市間は魔方陣で楽に行き来でき、こまめに戻っては来ているものの接触率では負けていて、実の姉より奴の味方をする。
「もうすぐ御飯」
簡潔にそれだけ言うとストローの刺さったジュースのカップを(もちろんストローを支えるというオプション付きで)シーファに差出した。
またそれを当然のようにそのストローを咥える様を見て……まぁいつものことなんだが無性に腹が立つ。
私だってしてもらったことがないのにっ!!
「ゆうは?」
弟の見ていない所で絞めることを心に決め、姿の見えない妹の確認をする。
「ライナんトコに泊りだってさ」
「……そうか、残念だな」
家に帰る一番の目的は可愛い妹弟に会う事なんだが、少し淋しいが仕方ない。友人は大事だしな。
今日はこのまま泊まるつもりだから、明日は会えるかも知れないし。
「ニック聞いたよ!? 恋人が出来たんだって?」
気持ちを切り替え、バッグを部屋に置きに行こうと体の向きを変えたところで、シーファを甘やかすもう一人がキッチンから料理を片手に顔を覗かせた。
淡い緑の髪のシンプルなエプロンをした見た目は少年だ。
奴に必要ないことを教えただろう根源をぎろりと睨みつけてやったら、慌ててリーティルの後ろに隠れやがった。
なに庇われているんだ!? お前は!
「シーは悪くないよ。ニックあんまり教えてくれないんだもん。どうしてるかなって聞いてたんだよぅ」
「そーだ、そーだ」
「だもんとか言うなっ。シーファ! お前もだっ」
「ひぃ~~、おたすけ~~」
三児の父親の癖にロリロリしやがって、私より若く見えるってなんだ!?
自分の年齢の半分しかない弟の後からこそこそ小さな声で同意をする奴を引きずり出し、拳で頭を挟み力一杯ぐりぐりと捻ってやった。