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布できつく巻かれた手に唇を押し付ける。
ところどころに滲む変色しきっていない血のせいか、においがきつい。
血の痕で張り付いても面倒なのでゆっくりはがしながら、何度も口付ける。
やはり片づけを後にしたほうが良かったか。
「なんだかエロいね」
低い声でくすりと耳そばで笑われる。
治癒中に何をと睨みつけてやったが、さらにくすくすと笑みを増すばかりだ。
私の癒しの力は接触型で、この触れ方がさらに発揮しやすいのを知っているのに、時々こういうことを言う。
手をかざすだけでも良いのだが、治るように祈るような想いを込めて触れる。布越しより素肌の方が。さらに言えば口付けるように触れるほうがずっとずっと発動する癒しの力は大きくなる。私自身の気分によって少しぐらい左右されることもあるが。
どちらにしろ、そういうことが言えるなら大丈夫だろう。
事実、布を取り去った彼の左手は桃色の肉が盛り上がり傷を塞いでいる。
さらに唇を寄せるとそれすら見えなくなり赤い筋が残るのみになった。
ほっとすると同時にイタズラ心がわき上がる。
「そんなこと言ってると、こうだぞ」
そのまま指先を咥え、舌先でちろりと舐めた。
リーウェンがびくりと震えるのを密着した身体で感じると、自然と笑みがこぼれる。
反対の手で脇腹を撫でてやると私の意図を読み取ったのか、捕まれていない方の手が私の後ろに回り背中を撫で返された。
あがりそうになった声を抑える。
いつもの遊びで、お互い弱いところは確認済み(実のところ奴の方が有利だが)、だけどリーウェンの方が敏感だ。
続けざまに攻め立ててやれば落ちるのは早い。
ひとしきり喘がせて満足した。
こちらもあられもない格好になったが、先にイかせたもの勝ちだろう。
微妙なけだるさに身をゆだねながら今日のことを思い出す。
「まぁ、こう言ったら可笑しいかもしれないけれど、でも。今回は助かったかもしれない」
不謹慎なことを言うようだが、リーウェンは自分を傷つけるときには死なないよう調節している。
本当に倒れたわけじゃないから(元々病弱で本当に倒れるときもある)、多少は心配してもおざなりになりつつある今日この頃。
しつこいナンパ男を思い浮かべ、良いタイミングだったとごちる。
「ああ、あの白い駄犬のことか。それなら彼氏を呼び出せば良いのに」
あるものは使わないとな。
と、まるでアイテムのような言い草をされた。
この兄弟ときたらどうしてこう、何処から突っ込んだらいいのか分からないものの言い方をするんだ。
白い駄犬はナンパ男のこととして、彼氏が居ると言いふらしたわけじゃないのに、こう知られているとうんざりする。
リーウェンには何を言っても無駄かもしれないが文句だけはつけておいた。