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うわぁーーん。


玄関を開けると同時に中から黒尽くめの少年、シーファが飛び出してきた。

驚きはしたがいつものことなので身体はすでに脇へと避けている。

一応走り去る方向を見れば、ちゃんと私のうちへ向かっているようなので放置決定。

珍しく入り口まで迎えに来ていたシルフィールにケーキを渡すと居間へ向かう。

女の子のような名前だがれっきとした男の子で、姿はさっき飛び出して行ったシーファを少し小さくしたような感じだが、あっちが騒がしい雰囲気でこっちはぱっと見大人しい。

ついて来る彼に視線で促す。


「そこのバカのせいでお茶の時間が台無しになったよ」


それだけ言うとキッチンに消える。新しいお茶の準備でもするんだろう。

視線を前に戻すとぐったりと三人がけのソファーに寝転ぶように沈む従兄弟の姿に安堵の溜息をついた。


「良かった。まだ死んでないな」

「……大丈夫だよ」

「全然大丈夫じゃないの間違いだろう」


思ったよりずっと大丈夫そうだったがそう返しておく。

いつもの軽口だ。

それから辺りに飛び散る血臭に顔を歪める。

今度は何したんだと睨みつけると彼は小さく肩をすくめた。

時々リーウェンは自らを傷つける。理由は分からない。まるで血抜きをする健康法でもしているかのように。

今回は普通に(コレを普通と言っていいかどうかはともかくとして)手の平をざっくり切ったようだ。

いつものように自分でしたのだろう、ぐるぐるに巻かれた布はきちんと止血込みのようだ。


ここの三兄弟は父方の遠い親戚だ。

だが、実家の二軒隣という近さに住んでいたから小さな頃から行き来して、ほとんど兄弟のような間柄だ。

特にほんの数ヶ月しか年の変わらないこの従兄弟達の長兄、リーウェンとはなんでも話せる―――どちらかというとニックが一方的に―――気の置けない仲で。


「……痛みは?」


とりあえず血のあとを片付ける。今のうちにしておかないと固まった後の方が面倒だ。

棚から古タオルを取り出す。

嫌なことだが、こんなことのために普段から常備されていることを思うと頻度が窺える。


「うーん、あんまり?」


自分で聞いてみたものの予想通りの返事に聞き流すことにする。

手早く片付け浄化の魔法をかける。仕上げに聖水を振り撒けば、何事もなかったようなリビングに戻った。

それから、するりと彼の横に滑り込む。

二人寝転ぶには少し狭いが落ちるほどでもない。

艶やかな黒髪の間を探りそっと頭部を持ち上げ、左腕を後に回す。コツリと額を合わせ熱を測った。


「少しあるな」

「……そうかな?」

いつもと変わらないんだけど。と、吐息まじりに囁く。


いつもの、青褪めるほど透けるような白いはずの肌はほんのり紅く染まっている。

……何処の美少女だ。

胸中で毒吐く。そう、彼は私よりもずっと美人だ。

身長は似たようなもので少しばかりニックより高く、その線の細さ儚さでより守ってやらねば的なオーラを醸し出してはいるが、その実中身は強かで身内以外にはとことんクールな男だ。

その身内の一人に入っているニックがそばで癒しを施す。

無防備な様に色気が漂い、見慣れたものとはいえ溜息がこぼれそうになった。

いぶかしむような視線に、首を横に振り、なんでもないと意思表示する。


親戚と言うのも彼らの両親が元々貴族の出で、大概の貴族とは血縁がある神殿うちからすればどの貴族も遠い親戚になるからだ。

貴族と言うのは始祖現人神が勇者であった頃、それにつき従っていた仲間や従者たちの血脈のことで、現代では各都市の市長トップや大企業の一族がそれだ。

貴族と言うとやはり能力が高いということで、昔から能力アップの為に見境なく嫁取りに励んだ結果こういうことになった。

もちろん人族だけでなく、今はあまり見かけない竜族や精霊族なんかにも節操なく手を出しており、もしかしたらそっちにも「遠い親戚」が居るかもしれない。

神殿と親戚関係であることにメリットを見出せる、なら。


実際に遠い親戚など他人も同然だが、彼らは二軒隣に住んでいる「近い」親戚で。

リーウェンとは年齢も近いし、お互い家にあまり親が帰ってこなかったこともあって、一緒にすごすようになった。

私の中では兄弟のようなものだ。

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