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私は自分が美しいと知っている。
細くまっすぐな銀の髪も日に焼けない白い肌も、整っていると言われる顔立ちをさらに引き立て精霊族にだって引けをとらない……らしい。
だが、あの壊れそうなほど繊細な美は、どうやったって足元にも及ばないだろう。
化粧はしない。神殿での規定でそういうのはしないことになっているし、一度してみたがすることが多く面倒になってやめた。
薄く香油をなじませるだけでいつも終わらせる。
「超美人さんってば」
十五にしては背が高いほうでモデルにでもなれるんじゃないかとか、友人に言われたりする。
スレンダーなのが少しばかり気になるぐらいで自分でも満足はしている。
「そっちに行くの? じゃぁ俺もついて行くよ」
どちらかというときつめの性格で、口が悪いのも自覚している。饒舌なほうではない。
だからか、大概はクールビューティだの高嶺の花だの勝手に言って遠巻きに眺めるだけにされているのが常だ。
そのせいで奇しくも『氷姫』と呼ばれることもある。
一応学園内ではああいう脅しをしたことはないはずなんだが……。
「ね? デートしようよ!」
たまにはやっかみもあって、美人であることをひけらかしてとか家柄について妬まれることもあるが、言いたい奴には言わせておけばいいし、同じレベルに落とすなんて馬鹿らしい。
というか、どうやったらひけらかせたことになるのか分からない。
「そこでお茶にしようよ!ちゃんと奢るからさ」
……。
「あ、その気になってくれた?」
とうとう立ち止まった私に、ショッピングモールに入ったところから付いてきた男は一度断ったにもかかわらず、諦める色がない。
「いい加減にしろ。付いてくるな。っていうか、さっき断ったはずだ。さっさと他を当たれ」
向き直って文句をつける。
相手の方が背が高く下から睨み上げるが気にした風も無く、逆に喜んでるように見える。
心の中で舌打ちをする。相手をしたせいで喜ばせてしまった。
ここまでしつこいのは初めてだ。
これだけ無視していれば大抵は、捨て台詞の一つや二つ吐いて去っていくんだが。
「俺と付き合わない? 超美人さん。とりあえず名前教えてよ!」
銀の髪は短い。水色の瞳を嬉しそうに細める。
黒の皮ジャケットに銀のアクセサリーをジャラリと付け、だが、センスはよさそうだ。見た目はそこそこ悪くないのにものすごく残念だと思った。
これ以上は無駄だとくるりと踵を返す。
その、ナンパ男はいつまでも後について来た。
どれだけ自分が美人が好きだとか、どれだけニックが美人なのかだとか、自分と付き合えばどれだけ楽しいかを延々、そう、延々と語られ続ける。
いい加減うっとうしい。
だいたい『超』をつければ何でもすごくなるわけじゃないだろう。
それに私は確かに美人だが、私より美人は他にもたくさん居るのだから。
「ケーキ買うんだ? 甘いもの好きなの?」
目当ての店にまで着いてこられてしまったがさらに無視を決め込む。
ふとディ・ラの着信に気付いた。
従兄弟のシルフィーからだ。
普段あまり連絡をよこさない彼からのメールは高確率で良くないことの前触れだ。
【馬鹿がいつもの馬鹿なコトしたから来て。新作のミルククリームのケーキがいいな】
簡潔に書かれたそのメールはいつものようにいろいろ突っ込みどころが満載だったが、返信している暇はなさそうだ。
大急ぎでケーキを買う(もちろんミルククリームのだ)と、まだついて来そうなナンパ男を「凍らせるぞ」脅しをかけ帰路に向かった。