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朝、いつものように目が覚めた。
今日は涼しくて気持ちがいい。属性に引きずられるのかニックは暑いのが苦手だ。
顔を洗ってさっぱりする。
だいたい講義のない休日は実家に戻り妹弟と過ごすのだが、黒狼と出掛けることもあって今回は寮に残った。
連絡は入れてあるし、昔に比べれば父親も家に居ることが多い上に小さな妹たちももう充分しっかりしているので寂しがることはない。が、少し寂しい。
ある意味お嬢様育ちで人に合わせるのが面倒なニックは一人部屋を使っている。
もう少しすれば妹が学園に入るので同室にするつもりだが、年が離れているので期間は短いだろう。
待ち合わせは昼前だから時間はある。
昨日のうちに買っておいたマフィンを二つに割り、チーズとハムを乗せトースターにセットする。
付添えの野菜スープはインスタントで。
グラスにフルーツジュースを注いだところでパンが焼きあがり、朝食が完成した。
今日のニュースが知りたくてテーブルの上に置きっぱなしにしていた二つ折りのシートを広げ、隅のボタンを押す。
小さい鈍い音とともに半透明のモニターが浮き上がって情報通信端末が開いた。
シートに描かれた文字をタッチして欲しい情報を引き出す。
学園から無料貸し出しされる端末は古いもので魔力充填型だが、少し値は張るものの周りの 自然にある魔力を吸収して 機械用の魔力に変換されるタイプのものを、自分用に購入し使っている。
ディ・ラやこういった端末には使われるようになった技術ではあるが、大きな力にはならないらしく家庭調理器具用にはまだまだ使えないらしい。
そうなったら魔力を売るバイトが減るだろうから(魔力持ちにとっては一番手っ取り早いお金を稼ぐ方法だ)困ると言えば困るのだが。
ここ、学びと芸術の都市の西側で広域に雨を降らせる予定があるらしい。
もしかしたら、こちらまで雨雲が流れてくるかもしれない。
雨も濡れるのも嫌いじゃないが、自分一人というわけではないので一応折畳み傘を鞄に入れた。
いくら初めてのデートだからといって特に気負わず、いつも通りがいいだろうと普段着にする。
パンツルックに膝丈のチュニックを合わせカーディガンを羽織った。
植物園に行くと言っていたし動きやすい方がいいだろう。
ローヒールのサンダルを履いて行こうと決め、姿見で乱れをチェックする。
微妙にいろいろあってどうしようかと悩みもしたが、こうなったらどうして黒狼が振られるのか確かめてやろうという気もしてきた。
(誰とも付き合ったことのない私が偉そうに言える事がないことに、このときは気づくことはなかった)