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うやむやになったつもりだったが、彼の方ではそうでもなく暫くしてニックのディ・ラに所謂デートのお誘いメールが届き、付き合うことになっていたことに驚いた。



その日、ニックは神殿の儀式に出ていた。

実家の関係上、時々行事にアルバイトとして参加をする。

学園卒業後は巫女としての就職も選択肢に入っているため、こういった仕事もしておくにこしたことはなく、ありていに言えば都合が良かった。

今回はもうすぐ行われる祭りに向けての舞奉納で、ニックは三人の舞姫を引きつれ、柔らかな曲にあわせ舞う。

舞台の奥に祭壇があり代々の神が祭られている。


神話と称されるほど昔、月に現れた魔王を倒した勇者は現人神となり世界を一つにした。


そのとき世界中にあった諸々の宗教、信仰が一つにまとめられ今の神を祭る神殿となった。

しかし主義主張の違うものたちが完全に一つになれるわけも無く、内部で幾度となく割れ吸収をくり返し、今は十二の家系と五つの派閥に分かれている。

中身は能力主義で一番魔力の強いものが長になり神殿を治める。

表向きには現人神を崇め奉り、儀式や魔法による浄化を行う組織であるはずだが、元々がまったく違った系統の魔術を扱う組織であり、統制された当時はともかく現状は海面下で反発していた。


神の一族とそれを盲信し仕える神の従者たちとは、既に袂は分かたれているのだ。

神の住む城と神殿は間に森を挟んではいるが(神の城は森に囲まれていて箇所ごとに守人が居る)ほぼ隣り合わせであるにもかかわらずに、現人神を人々に信仰させながら自分たちは裏で嘲笑っている。

 

ニック――ニコラ・E・ガヴォード――は今の長の一人目の娘だ。

能力の強い家との交配で強い浄化と水系(特に氷系)、さらに癒しの力を持っている。

まさにサラブレッドの血を引いているといえるだろう。

何かあれば次にと望まれるか邪魔とされるかするだろうが、長は若く今のところそんな予定は無いし、彼女自身もそのつもりはこれっぽっちもなかった。


ゆっくりとその場でくるりと回る。

それから祭壇に向けて伏せるように頭下げれば舞は終わり。

ほんのりにじんだ汗のせいで、本来ならふわりと纏う薄絹が身体に張り付きそうだ。

薄く点けられた魔灯の下、顔を伏せ次を待つ。

立ち並ぶ神官たちの中から進み出た一人に手を引かれ静かに舞台を下りた。

しゃらりと足首の飾りが私には似合わない可愛らしい音を立てる。

控え室へ出たところで彼から手を離し、そのまま廊下へ進む。

他の舞姫たちはうちとは敵対している家系で一緒になるもの面倒だ。

子供の頃、ぐちぐちとうるさい奴を『凍らすぞ』と脅していたせいで氷姫といらない渾名をつけられ、いまだにそれで陰口を目の前で言われるのだ。

スルーするスキルはとっくに身につけたものの、わざわざ甘んじるつもりはない。


「ニコラ様」


呼ばれたような気がしたが放っておくことにした。

早く着替えたい。

結い上げられた銀の髪を止めるコームや簪をはずし、落ちてきた長い髪をかきあげる。

足音を立てさせないために足の裏にまぶされた粉のせいで滑りそうになっていたのは過去の話だったが、幼い頃に比べると舞う回数は減り、気を抜くと危ない。

あちこちに付けられたアクセサリーを外しながら歩く。

こういった衣装や飾りは神殿の所有物で落として壊すわけにはいかないから、肩から外したベールに包んでいく。

さっきの奴を連れて来ればよかっただろうか。

そうすれば外したものを渡し、さっさと身軽になれたのに。

神殿内の自室に戻る前に禊の場に行く。

更衣の間ですべての衣装を脱ぎ捨て、その冷たい清らかな水に身体を沈めていく。

通常であれば儀式の前に行うものだが、ニックにとって神殿内で一番気に入っている場所で、まるで専用のシャワー室のように使用するのに『穢れを嫌う乙女』と揶揄する者もいる。

実際、聖水を『創り出す』のが得意でいつでも清らかになれる自信がある。


禊場の底は深く、所によっては足もつかない。

凍えるほど冷えたそこは気を引き締めるための場所だろうがニックにとっては心安らぐ場所だった。

頭だけを水面の上に出し跳ねるように進む。

薄暗い魔灯の中、その奥にたどり着いたニックはゆっくり仰向けに身体を浮かせた。


……落ち着く。


妙なことになったとため息をこぼし昨日のことを思った。


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