表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

1

「別れたんだって?」


挨拶代わりにそう声をかけると、精悍な顔があからさまに情けない表情になった。

答えをみなまで聞かずとも分かりそうなものだが、とりあえずまだとっていなかった昼食に誘う。

奴、黒狼は大人しくついて来た。


時間がピークを過ぎているからか食堂の人影はまばらで、ほとんどの席が空いていた。

今日の日替わりランチ定食は白身魚のソテーにきのこのポタージュ、サラダ。ブレッドは選べるようになっているので、その中からクロワッサンを取る。

奴は、と見るとガッツリ系定番ランチの厚切りハムのホットサンドのセットだった。

グラスにたっぷりの水を注いで隅のテーブルに席を取る。


「それで?」


サラダをつつきながら話の続きを促す。

奴は肩をすくめ溜息をついた。

まっすぐな黒く長い髪が揺れる。


「振られたんだ」

「……そうなのか?」


システィナに聞いた話と違う。

彼女は『振られたー!』と自棄酒ならぬ自棄ジュースに走っていたのだが。


「うん、『私のコト、本気じゃないんでしょ。さよなら』だってさ」

泣いていたから追いかけようとしたんだけど、ついて来ないでって言われるし。一体何が悪かったんだか。


ぼやく奴を眺めながら、ちぎったクロワッサンを口に運ぶ。

まぁそれなら確かに黒狼が振られているな。

彼女が『追いかけて来なかった』って言っていたのがそこにかかってるんだろう。

(本当に)追いかけてこなかった。ってことだろう。

女心は複雑だ。


「何人目だっけ?」


傷をえぐるような真似をする私に恨みがましそうな視線を向けてくる。


「それを聞くなよ」


私が知っているだけでも四人。

もてる割に続かない。

それだけ付き合っているんだからそろそろ、そういった乙女心に精通しても良い頃だが……こいつには無理か。

私の一言でさらに落ち込んだ黒狼を一瞥する。

大きな図体で微妙にうっとうしい。

講義で隣になって以来の友人だが、普通に顔はいいし、力も強くて頼りになる。爽やか系で明るい性格。背が高く体格が良いだけではなく、回転も速い。


「俺はいつだって本気なのにな」


その、眼差しを伏せるような表情にしゅんと悲しげな大型犬を彷彿とさせて。


「付き合ってみようか?」


私は何をとち狂ったのか。気が付けば、そう口走っていた。

ただ彼の、それこそ本当に不意打ちを食らったのだと判るような、ぽかんとした表情に私は満足した。


「……ニックと俺が?」


ほかに誰がいるんだ。


「そうだよ」


多少の戸惑いはあるものの『まぁ良いか』と思っている自分もいる。


「い、いいの?」


いきなりで混乱しているのは分かるけど、聞き直されると私も困る。

今頃になって熱が顔に上がってきたような気がする。

だから、つい


「あーいや、その、お試し、だよ。ほら、私はそういうお付き合いをしたことないからさ。えと、なんだ、お前が相手ならいいかなって。あ、嫌ならいいんだ」


早口にまくし立てる私に。


「嫌だなんて、それはないよ」


さっきまで呆けた風だったくせに急に穏やかにさらりと言ってのけた奴に、今度は私が絶句した。


その直後、黒狼の携帯通信機(ディ・ラ)が鳴り、冒険科教授によるネコ捕獲作戦(単位付き)の実施に伴い、話は中断されうやむやになった。


初めて投稿します。

読んでくれてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ