第十八話 再び登録
「それでは薫、行ってきます。」
紫苑は口では言ってきます。と言っているけれど顔には行きたくない。と不安そうな表情が見えた。
「行ってらっしゃい。」
でも本人が行かなければ、意味が無いので私にはそうして笑顔で送り出すことしかできなかった。その間に私は魔物の作成に取り掛かることにした。
今回はエルフをつくろうと思う。ギルドのマスターを見て思いついた奴。外見は金髪で緑の目の美少女、そして身に着ける服も明るい緑色をメインにする。もう何度も作っているから、手慣れて来たのか、時間もあまりかからず、ものの数分で作り終えた。
「初めまして早速だけどあなたの名前は、マドロンよ。早速だけどあなたには畑の作業をしてもらうわ。」
「はい、マスター。」
マドロンはニコリとほほ笑むと、直ぐに命令を実行した。
「向こうは今頃如何してるかしら?」
あのメンバーで仲良くなんて出来ないだろうから、いったいどんな問題を起こしているのだろう。と考えていた。
一方その頃
「何故こっちのメンバーにも、人間界の地理を把握しているものが、1人もいないんですか!?」
迷子になっていた。
「俺は覚えていた!けどッこの愚昧が、愚かなことをしでかしたから、こんなことになってるんだろうっ!」
「愚かと言われても、確かに転生の儀式をしたのは私ですけど、転生して時間が経過して、こっちの人間界の建物が変わったのは私のせいじゃないですよ。」
冷静に答えるラルムに対して怒りを感じたのかアンジュはラルムに剣で切りかかる。
「痛いっ酷いですよ!お姉さま!」
「お姉さまと呼ぶな!薄気味悪い!」
何故か剣で切られても無傷なラルム。
「そんな茶番を繰り広げていないで、どうやってギルドまで行くか、考えてください。」
「このままギルドにもたどり着けずに、魔界へ帰るなんて恥ずかしい真似、私は御免ですわ。」
主にラルムに対して、紫苑と月夜の冷たい視線が降り注ぐ。
「道を知っている人に、聞いてみるしかないですね。」
ため息をつき、紫苑が提案する。
「ですが、そんな都合よく教えてくれる人物が、いるのでしょうか?」
「迷っていてもしょうがないでしょう。」
「あそこにいる人に、聞いてきます。すいません、ギルドまでの道を教えてください。」
そこには細身の剣を腰に差した、若い女性がいた。
「いいわよ。でも昨日も、迷子の子をギルドまで案内したのよね。」
若い女性は、ついてきてね。というと歩き出した。それに続く様に、紫苑たちも歩き出す。
「はい、ギルドに到着。それじゃあ頑張ってね。」
そう言うとにこやかに手を振り、歩き出していった。
「目的地には着いたようですから、入りますか。」
「ああ。」
「じゃあ、ドア開けますね。」
ラルムは扉を開ける。中を覗くと、中には人が全然いなかった。奥を見ると辛うじて人が1人いるのが見えた。その異様な雰囲気に、このまま中に入っていいものか迷っていた。
「もしかしてギルドの登録に来た方達ですか?」
奥に居た男性はニコリとほほ笑むと、中へ入ってくるように促してくる。このまま登録もしないで戻ることをしたくなかったから、そのまま全員中へと入った。
「ああそうだ。登録をしてもらえるか。」
警戒しながら早口にアンジュが話す。
「それでは少しお待ちください。今水晶を、持ってきます。その前に一つ済ませたいことがあります。」
「済ませたいこと?」
「ルイスの…かたき討ちです!」
そう言うと男性は、近くに居た、アンジュに隠し持っていたナイフで切りかかる。アンジュは驚きながらも難なくナイフを剣で受け止める。
「貴様、何者だ!何故その名を知っている!?」
「それは私とルイスが友人だったからですよ!」
男性のその言葉にアンジュとラルムと月夜が驚く。
「嘘です!魔王様にそんな奴がいたなんて聞いたことないです。」
「薫に関係があるんですか?」
1人意味の分からない紫苑は、ラルムに問いかける。
「ルイスという名は薫様の前世の名前です。」
「それ、本当なんですか!?」
前世の記憶が無い紫苑は、驚いている。
「貴方達が全員魔女だったことは知っています。だからこそ、私は貴方達魔女が嫌いです。自分勝手な感情でルイスを殺して、しかも無理やりに転生させて結婚まで迫るなんて、最低です!」
殺意の籠った視線に、全員が思わず身構えた。
「安心してください。誰が魔女だったのか把握してますから、残りの二人も始末してあげます。天国でも地獄でも、好きな方で争っていてください。ただし魔王のいないところで!」
男性はそう言うと、近くに居たアンジュに切りかかる。素早く重い一撃に、アンジュの膝が床に着く。
「くっ!」
「ふんっ殺すならどうぞご勝手に、ですが、私あなたには殺されたくないですわ!」
月夜は、猛毒の体液を出すと、男性に向けて噴射する。
「貴方の毒は、少々厄介ですね。」
男性は魔法を唱えると全員の体が重くなり、その場に押しつぶされるように、床に崩れ落ちる。
「お姉さま、ご自慢の剣でどうにかなりませんか!?」
「出来ればとっくにやっている!」
「だったらこれならどうですか!」
紫苑は床に伏せたまま、氷の魔法を唱え男性に上手く直撃させた。男性が自分の額から血が流れるのを確認すると、ニコリと笑うと、
「合格です。」
と一言いったのだった。
もう男性の魔法は解除され、動けるにも拘らず、全員は床に伏せた状態のまま、無言で目の前の男性を睨み付けたのだった。