表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

フリーフォール

難攻不落彼女、第5章「朝比奈と共犯」の続きになる話です

タケが頑張ってる裏でこんな出来事がというわけです

 ヤバイ。カクテル飲みすぎた。口当たりいいからつい飲み過ぎたけど、結構アルコールキツイの混じってたのかも。足取りがふらつく私を見ても、隣の男は助けるどころかあざけるような笑みを浮かべた。


「『どれだけ飲んでも頭は冷静で記憶力もばっちり』じゃなかったのか?」

「うっさいわねー。頭ははっきりしてるわよ。ちょっと酔ってるだけ」


「じゃあ一人で帰れるな。僕こっちだから」


 1月の寒空の下、白い息吐きながら、この腹黒眼鏡男め!と睨んでいたら、足がよろけて体が傾いた。その時力強い腕が私を抱き留めた。私を助けたのはもちろん腹黒眼鏡朝比奈ではなかった。でも一瞬期待したタケでもなかった。


「沢森さん……」


 いつもこういうタイミングでばかり、どうしてこの人は現れるのだろう。沢森は朝比奈の後ろ姿を睨み付けて言った。


「今の彼氏?酔った君を置き去りにするなんてひどいね」

「違います!彼氏なんかじゃありません。不承不承手を組んでるだけで、むしろ嫌いな相手だし。友達の彼氏じゃなきゃとっくに縁切ってます」


「友達の彼氏と二人で飲んでても問題ないの?」


 傍から見ればそれは問題かもしれない。浮気してるみたいじゃないか。沢森も心配そうな表情で私の顔をのぞき込んでる。


「ありえません。あの男とどうにかなるなんて絶対ない。話せば色々長くなりますけど、沢森さんが心配するような関係じゃないですから」


 沢森は困った様な笑顔を浮かべていった。


「そうだね。彼と君の関係も心配だけど、それ以上に今の理子ちゃんの酔い方の方が心配だよ。酔い覚ましにどこかでお茶しよう」


 ああ、そうか。確かに今の私は心配されるような足取りかもしれない。近くのファミレスまで支えてもらいながら歩き、コーヒーを飲んだ。まだだいぶ酔っているが、コーヒーのお陰でだいぶ頭がすっきりした。

 その勢いで朝比奈の非道振りなど散々愚痴って、誤解は解いておいた。


「理子ちゃんはその彩花ちゃんって友達の事がそんなに大事なんだね」

「私好きなんです。上に向かってがむしゃらにがんばれる人が。最初から出来るわけないなんて諦めるより、ずっとかっこいいと思う」


「だから応援してるの?彩花ちゃんのことも、タケ君の事も」


 思わず吹き出しそうになったコーヒーを無理に飲み込んだ。


「どうしてそこでタケの話になるんですか」

「だって前に会った時愚痴ってたじゃない。会いたいけど、頑張ってる彼を邪魔したくないって。同じじゃない?」


 そうなのかもしれない。タケは理由がなんであれ、昔からずっと努力していた。高校受験、大学受験、今は国家試験。その原因は私なのが問題なんだけど。

 そうだ、今ヤツが大変なのは私のせいなんだ。私がアイツを追い詰めた。だから寂しいなんて思う資格なんてない。それでも思い出すだけで落ち込む。だから私は強引に話題を変えた。


「そういえば沢森さん。この前の靴捨てていいなんて言ってましたけど、大切なものだったんじゃないですか?すごい手入れされてる感じがしたんですけど」


 沢森はまた複雑な表情を浮かべた。靴を捨てていいと言ったあの時と同じ。


「大切というか、今まで捨てられずにずるずる使ってただけなんだ」

「何か思い入れでもあるんですか?」


「元彼女が就職祝いにくれた靴」


 地雷を踏んでしまったかもしれない。就職祝いって言う事はかなり昔の古傷を掘り返してしまったのだろうか?それでも好奇心の虫がうずいて聞かずにはいられなかった。


「まだ忘れられない人とかですか?」

「いや。未練があるとかそう言う事じゃないんだ。ただ別れ方がひどかったから後悔してるんだ。もう少しどうにか出来たんじゃないかって。靴を見るたびに苦い後悔を思い出して、いつのまにか自分じゃ捨てられなくなってた。だから理子ちゃんが捨ててくれたらなと思ったんだ」


 沢森の切ない表情が私の胸を貫いた。いけない。寂しいからって、アイツの代わりに側にいてくれる人をつくってしまったら、タケの戻ってくる場所がどこにも無くなってしまう。


「まだあの靴取ってあるんです。やっぱりあの靴返しますから沢森さんが捨てて下さい。そうしないといつまでも後悔を断ち切れなくなります」


 沢森はふわりと笑顔を浮かべて、私の頭を撫でた。


「そうだね。ありがとう。理子ちゃんはイイコだね」


 『イイコ』だなんて男から言われるの初めてだった。タケ以外はみんな計算で付き合ってきた男達だったし、タケにはいつもワガママばかりで振り回してた。

 タケと距離が離れていくのと反比例するように、沢森への気持が傾いていた。


 今だけ、タケが側にいない間だけ、この優しい男に甘えてもいいだろうか?


「沢森さん。今度二人で飲みに行きましょう。社交辞令じゃなく本気で」


 沢森は驚いた顔をしたけど頷いた。私は後ろめたさを感じながら、なぜこんな気持にならなければいけないのか自分でもわからなくなってしまった。

 タケも沢森も恋人じゃない。私の本命になる男はもっと条件のいい男じゃなきゃ。それなのにどうして私の気持ちが振り回されるのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ