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シガー・ダンディ

理子と沢森の出会い編です

 今日の合コンハズレだわと、作り笑顔をしながら理子は思った。給料の低い出版業界人だからたいして期待していなかったんだけど、マスコミ関係とのコネクションは美味しいかと思ったのよね。

 でも今回の集団は文芸誌なんて堅い雑誌の編集部の集まりらしく、うま味がなかった。

 しかも隣でしつこく話しかけてくる男がウザイ。私狙いなのは分かるけど、ガツガツしすぎて面倒だった。


「ねえねえ。理子ちゃんはどんな男がタイプ?」

「……ええと、優しさ(ワガママを聞いてくれる)と包容力(豊かな経済力)と気遣い(空気読める)のある人かな」


「俺こう見えて、優しくて包容力あるし気遣いできるよ。どう?」

「……」


 すでに空気読めてないしと心の中で毒づきながら、どう逃げようか考えていた。


「井口。調子に乗るな。彼女嫌がってるだろう」


 急に救いの手が遠くから聞こえてきた。一番隅の席に座って、会話に参加していなかった男からの声だった。


「沢森先輩。すいません」


 大人しすぎて気づかなかったが、沢森という男は意外に悪くない顔立ちをしていた。好意的にみれば優男と言えるかもしれない。ただ童顔すぎるのと、頼りなさげな感じが、男としての魅力を落としてる。

 井口が先輩と呼んで恐れてはいるが、まったく迫力の欠片もなかった。

 理子の中の好奇心がうずいた。大人しそうでいて後輩から恐れられる先輩というのは面白いかもしれない。


「あの沢森さんっていう人、先輩なんですか?」

「そうそう大先輩。なんとあの葛城優吾とも親しいんだから」


 井口は虎の威を借る狐のように、無駄に威張っていた。しかしあの葛城優吾と親しいというのは大きな魅力だ。会社内でも葛城ファンは多い。サイン一つでも手に入れば、取引の材料に使える。


「こら!井口。何勝手に話してるんだ。しめるぞ」

「すみません!」


 頼りなさげな男ぶりで、叱ってもまったくしまらない。そんな沢森に話しかけようかと思った直後、沢森は席を立って部屋を出て行ってしまった。

 これはチャンスか?追いかけて話しかけるか、どうしようか?しばらく迷ってから、私も席を立った。さてどこに行ったのだろう。トイレかな?とうろうろしていたら、廊下の片隅に立つ沢森の姿を見つけた。

 タバコをくわえ、ぼんやりとしている姿は、ぐっと大人っぽくセクシーでドキドキした。ふと沢森の視線と目があった。


「ごめんね。井口が迷惑かけて」

「いえ……。ありがとうございます。助けていただいて」


「まあ今日の私の役割は監督役みたいなもんだから。一人だけ年寄りがいて、水をさして怒る。嫌な役回りだよね」

「そんな……年寄りだなんて」


「君より10才ぐらいは年上だよ」

「ええ!」


 思わず素で驚いてしまった。見えない。Tシャツ、ジーンズなら学生に見えるかもしれないぐらいだ。沢森はポケットからタバコを取り出して1本私に差し出した。


「君もどう?」

「私タバコ吸わないんで」


「チョコだよ」


 そういいながら沢森はにやりと笑った。タバコの銘柄にはシガレット・チョコと書いてあった。思わず私は笑いながら、タバコを受け取った。


「チョコなんて可愛いですね」

「禁煙中でね。でも酒飲むと吸いたくなるから、これで我慢してるんだ」


 タバコは美容に悪いという理由で一度も吸った事はないが、本物を吸ってる気分になってシガレットチョコを口にくわえた。


「もうこのまま帰っちゃおうか、二人で」


 突然の口説き文句にチョコが口からこぼれ落ちた。これって二人で抜け出してデートしようって事よね?なんというか頼りない外見に反して意外と肉食系?


「なんか君ずっとつまらなそうな顔してたから、帰りたいのかなと思って」


 顔に出してたつもりはなかったのだが、この男意外と観察力あるのね。さて乗るか?断るか?

 計算はすぐに出た。つまらない合コンより、葛城優吾とコネのある男の方が断然お得よね。


「じゃあ、帰っちゃいましょうか」



 二人で店を出て、さて沢森がどんなアプローチしてくるのか?と身構える。


「帰りは何線?」


 意外な問いに思わず正直に京王線と答えてしまった。


「ああ。同じだ。じゃあ途中まで一緒に乗って行こうか」


 え?帰るの?本当に?この後二人で飲み直すとかじゃなくて?それともこっちから仕掛けてくるのを待ってる?

 ぐるぐる疑心暗鬼になっているうちに電車の中まできてしまった。どうやら本気で帰る気らしい。この草食男!少しは根性出しなさいよね。

 しかしこのまま終わってしまうのは惜しいと思った。このコネを生かさなきゃ、何の為に合コンに参加したのかわからなくなる。私は思いきった。

 快速から各駅に乗り換えて、車内が空いたタイミングを狙って話しかけた。


「沢森さん。今度また飲みに行きましょう。アドレス交換しませんか?」


 沢森は本気で驚いて固まっていた。どうやら本人口説く気0だったようだ。まあ10も年離れてたら、恋愛対象と思ってないのも無理ないか。でも女として認識されていなかったのは悔しい。


「いいよ」


 やっとしぼり出したというような感じの声で、機械的に携帯を取り出す。すぐにアドレス交換を終えた。

 沢森の方が降りる駅は先だった。降りる頃には沢森も衝撃から立ち直っていた。もしかしたら社交辞令と思われたかもしれない。

 今はそれでいい。どんなコネが後になって役立つかわからないもの。私は一人くすりと笑った。

理子の目線から、沢森のかっこよさを描きたいなと思います

本編ではあまりに可愛そうな役回りですからね

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