青春の1ページ
理子とタケの青春時代の物語
ショート・ショートです
『アイス』
梅雨明けの暑い夏。タケは理子と学校帰りに一緒に歩いていた。
「あちーな。アイスでも食わねぇ?」
「いいわねえ。奢ってくれる?」
「奢るか。バーカ」
「ケチ」
なんだかんだいいつつ二人は、コンビニに入ってクーラーの涼しさに一息つく。アイスのコーナーで理子ははしゃいだ声を出した。
「アプリコット味だって。食べた事ない。美味しそう」
「俺はソーダ」
「あんたいつもそればかりよね。たまにはチャレンジ精神を持ちなさいよ」
「いいだろ。好きなんだから」
コンビニを出てすぐ、日陰で二人は棒アイスを食べ始めた。
「アプリコット味美味しい!我ながらナイスチョイス」
「人が美味そうに食ってると、美味そうにみえるな」
「いいでしょう」
「一口くれ」
そう言ったかと思うと、タケは理子の持つアイスにかじりついた。その瞬間理子は驚きとかすかなときめきで、胸がドキドキした。
「……な、なにすんのよ」
「ん。アプリコットも美味いな」
「そうじゃなくて!」
「ああ、勝手に食って悪い。俺のソーダ味も一口食うか?」
まるで事態が飲み込めてない、鈍感なタケの言動に理子はため息をついた。そして心の中で『こいつは外見はでかくても、中身は子供』と何度も唱えて心を落ち着かせた。
そして子供に説明するように優しく言った。
「私が口付けた所に、齧り付くなんて、間接キスじゃない?」
そう言いながら、わざとタケが囓ったところに口づけた。その瞬間タケの動きが固まった、かと思うとみるみる顔が赤くなった。顔が赤いのは夏の暑さのせいではないだろう。
鈍感男もやっと理解したか。しかも耳まで赤くしちゃって可愛い。
タケは火照った頭を冷やすように、残ったソーダ味のアイスを一気食いした。
「いてー。頭キーンとする」
「バーカ。何やってんのよ」
『自転車』
タケは自転車通学だった。その日もいつものように乗って帰ろうとペダルに足をかけたら、後ろから衝撃がきた。慌てて振り向くと理子がいた。
「危ねーな!一声かけろよ」
「ごめーん。駅まで乗せてって」
まったく悪びれてない理子は、荷台があるにも関わらず、座らずに車軸に足を乗せて立ち乗りしていた。俺の両肩に手を置いて高らかに宣言した。
「出発進行!はいよぅ、シルバー!」
「俺は馬じゃねぇ」
文句を言いつつタケはペダルをゆっくりこぎ始めた。本当にいつも理子の無茶振りに振り回されっぱなしで悔しい。たまにはこちらが振り回してみたい。そんなイタズラ心がわいてきた。
そこでわざと蛇行運転したり、自転車を傾けてみた。そのたびに理子が後ろできゃーきゃー、わーわー言ってる。それが無性に楽しかった。
「ちょっと、危ないわよ。安全運転してよ」
「文句があるなら乗るなよ。ほら次はウイリーしてやろうか?」
もっと理子を怖がらせてやろうと、ハンドルを持ち上げて前輪をわずかに浮かせてみた。その瞬間やべぇと思った。さすがに悪のりしすぎて自転車が制御出来なくなったのだ。気づけば自転車は横転し、地面に叩きつけられた。
「理子!大丈夫か!」
慌てて理子を見ると、足を抱えてうずくまっている。
「痛ーい。すりむいた」
確認してみると、足や手を少々すりむいた程度だったようだ。ほっとした。
「悪りぃ。調子に乗りすぎた」
「もう!乙女の柔肌傷つけた責任とってよね」
「責任って……」
「駅前の喫茶店の『ジャンボミラクルパフェ』奢りだからね」
「食べものかよ。単純なヤツだな〜」
「高いのよあれ。でも一度食べてみたかったのよね」
「高いっていくら?」
「1980円」
「ありえねー。デザートの価格じゃねぇ」
「だってゼリーとナタデココとタピオカをベースに、間にシフォンケーキとか挟んで、上には3種類のアイスと生クリームと白玉とチョコとベルギーワッフルがあって、さらにフルーツ10種類のっかったうえに、イチゴとチョコのダブルソースがけの、まさにミラクルなパフェなのよ」
「とんでもないカロリーだろ、それ。太るぞ」
「まあ一人じゃあ食べきれないから、タケも食べていいわよ」
「聞いただけで胸焼けしそうで、うれしくねー」
「さあてそうと決まれば喫茶店へGO」
自転車にまた立ち乗りしようとした理子を、俺は慌てて止めた。
「足怪我したんだろ。立ち乗りは辞めろ」
「それもそうね」
理子は荷台に横座りして俺の背にしがみついた。しっかり安定しているのを確認してから、今度は安全運転でこぎ始めた。
……しかし……すげぇ、気になる。背中に明らかに胸の感触が。しかも意外に大きい気がする。理子はスレンダーだと思ってたのに、まさかの隠れ巨乳?
「ちょっと、ふらふらするんだけど、タケ大丈夫?さっきどこか怪我した?」
「……大丈夫だ」
別の意味で大丈夫じゃないけどな。
理子に絶対言えないような妄想が、頭にちらついてしょうがないタケだった。