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藍―AI―  作者: 葉月瞬
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 研究所のある付近の森の一角。案内されなければ気がつかないような、ひっそりと秘められた盛り土の前にいる。周囲にはラベンダーが植わっていた。初夏になれば紫色に近い青い原となるだろう。塚は一つだけではない。十数個の塚が付近に点在していた。

 あれから直ぐに行動したので、追っ手はまだいない。暫く、黙祷を捧げるくらいの時間ならばある。カーマインをはじめ、インディゴたちは黙祷を捧げた。

「何だって、こいつは死んだんだ?」

 最初に口火を切ったのは、カーマインだった。少し怒気をはらんだ詰問だった。

「この子が死んだのは私のせいじゃない。……だが、私のせいのようなものだ」

 コムリは悲痛な面持ちで語った。

「いったい! どんな、実験を、したんだ!」

 怒気が次第にエスカレートしていく。カーマインは無意識のうちにコムリに掴み掛かっていた。

「……実験でこの子が死んだわけじゃない。しかし、実験がこの子を死なせたようなものだ。私はこの子が死んだことにより、嫌気が差したんだ。こんな実験に何の必要性がある。こんな、子供を……殺してまで、なんでこんな実験をしなければ成らないのか。私はずっと、自問して来た。だから私は君たちに協力しているんだよ。こんなことで償えるとは思っていないけれど」

 コムリの睫は伏せ気味で、悲しみを内備していた。同時に辛さや苦しみといった感情も内包していた。インディゴは、そんなコムリのやるせなさが伝わってくるようで辛かった。

「償いだなんて……。コムリ……あなたのせいじゃないわ。私たちにだってどうすることも出来なかったんだし。気を落とさずに――」

 インディゴの慰めに、コムリの怒号が重なった。

「慰めなんて要らないんだ! 私が、私が殺したんだ……」

「死因はどうであれ、あんたがやっていないならそれでいいんだ。何も無理に悔いることも無い。あいつらが…………あいつらが、殺したんだ。そうだろ?」

 カーマインがフォローする。その言葉で幾分か心が安らいだのか、コムリの表情が明るくなってきた。

「ありがとう。カーマイン君。それから、インディゴ君」

 弱々しい笑顔で、コムリが二人に礼を言った。

 インディゴたちは墓場の前から移動することにした。このままここにいても、見付かるだけだし、とにかくここから移動したかった。移動せずにはいられなかったのだ。一つは追っ手に追いつかれる、という危険もある。一つはその場に留まることによって、空気が重くなるということだ。

 沈滞した気持ちを振り払うため、インディゴは先頭を切ってその場から立ち去った。バーベイたちも後に続く。ともかく一刻も早くこの研究所の敷地内から立ち去りたかったのだ。


 見付かった。インディゴはそう思った。

 見付かったと思うと同時に、遮蔽を取った。ハーベイたちもそれに続く。

「何者だ?」

 ハーベイが疑問を口に乗せる。インディゴは手短に、彼等がこの研究所で働いている研究員であることを継げる。コムリも頷いた。

「研究員なら、戦闘力は無いんじゃないか?」

 ハーベイが再び質疑した。それは当然だ。だが、彼等の内一人でも生き残れば戦闘員を連れてくる可能性が高い。そのこともインディゴは伝えた。研究員を殺すならば、一瞬で片をつけないと厄介なことになる。しかしこちらには射撃の天才ハーベイとカーマインがいる。カーマインも当然色主なので、赤にまつわる何らかの力が使える。何とか成るだろうという思いはあった。何とかしなければいけないのだが。

 作戦は決まった。ターゲットは二人いる。ハーベイが片方を狙撃し、もう一人をカーマインが炎の玉で撃つ。時間差を置く訳にはいかない。時間差が起きるとその隙に逃げてしまうからだ。これは、ハーベイとカーマインの息が統合していなければならない。

「まかせろ!」

 ハーベイのその言葉に、「こんな奴で大丈夫なのか?」とカーマインが疑惑を挟む。その瞬間、ハーベイは狙撃した。腕で見せたのだ。カーマインはすかさず念じ、炎の玉でもう一人の方を燃やした。あっという間に赤とオレンジ色の玉に包まれたその男は、酸素を求めて数歩彷徨ったが息絶えた。後には焼け焦げた死体と頭を撃ち抜かれた死体しか残らなかった。見事な連係プレイだった。

「今だ!」

 コムリの合図で一向は走り出した。先頭はコムリとインディゴだ。インディゴにしてもコムリにしても、入り口までの道順は頭に入っている。そこまで一気に走れば誰にも気付かれずに逃げ出すことは容易いだろう。

 と、そこで警報が鳴った。

「ちっ、もう気付かれたか」

 カーマインの呟きが全てを物語っていた。

 二つ目の角を曲がったところで、ちょうど警備のゲリラと遭遇した。ここの施設における戦闘員である。

「見つけたぞ!」

 その声が追いかけてくる前に、角を戻って遮蔽を取る。予想通り撃ち合いになった。

 通路の奥の方から撃ってきた弾は、壁の角にぶつかってあらぬ方向に跳ね返る。遮蔽を取っているハーベイはその弾に当たることはない。反対にハーベイの方は慎重に相手の様子を覗い、一弾一弾銃に込めながら冷静に打ち抜いていく。その様は神がかっていた。

「ハーベイさんって、凄いんですね」

 セルリアンが後ろで頬を薄紅色に染めながら見詰めている。

 全ての戦闘員を殺したところで、その場から素早く移動した。しかし戦闘員が来た方向は危険なので、そちらを抜かした方へと移動することにした。まず真っ直ぐ行って、右に曲がって、少し行ったところを左に曲がった。だが足音が響くのもさることながら、通路の要所要所に監視カメラが設置されているので、敵には筒抜けだ。それを防ぐために、コムリが指差したところをカーマインが炎で燃やす。炎で燃やすことにより物理的な負荷が掛かり、カメラは壊れる、ということだ。普段は首にリングを付けられていて力が使えないのだ。だからここぞとばかりに使っている。それを見てインディゴは複雑だった。自身の力は使えない力だからだ。使ってしまえば、少なくとも半径百キロメートルは吹き飛んでしまうだろう。そんなことは出来ない。だから力は使えない。自分の無力さにインディゴは落胆した。

 それ以後もカーマインとハーベイとの連携は続いた。

 右に左に、通路を折れる。後ろから追っ手が来るのが気配でわかる。

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