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藍―AI―  作者: 葉月瞬
7/10

能書き垂れてんじゃねーよ。

「来る頃だと思っていたよ」

 初老の男――それも銀鼠族ネズミが二人を出迎えた。まるで事前に二人が来ることを知っているかのような素振りだった。ハーベイは不審に思った。なぜこんなところに人、否獣人がたった一人でいるのか。町の人々との親交は? 生活が成り立っているのか、ということよりもなぜ自分達のような追われる者を受け入れてくれるのか、その疑問が先にたつ。

「おじさん、お久しぶりです。またお世話になります」

 ハーベイの疑念をインディゴの一言が解決した。

 昔、彼は研究所で働いていたのだという。そこでインディゴを見て、インディゴの力にも触れ、インディゴの危険性を実感したのだ。しかし、その時は何とも思っていなかったのだが、研究所内にいた子供が死んでから研究所を辞めたのだという。しかし、彼は研究所を辞めた後も研究所から逃げてきたインディゴを匿った事があるのだった。匿ったといえど、ご飯を与え、たった一晩泊めてやっただけだが。翌日にはもう研究所からの追っ手が迫っていて、インディゴは再び捕らえられてしまった。

 今も昔の面影を残して白衣を着ているおじさんに、インディゴはほっとしたのか笑顔を取り戻していた。

「インディゴ…………本当にインディゴか?」

 おじさんは二人を即座に屋内に入れると、感慨深そうにインディゴを抱きしめた。その言葉には「本当にインディゴなのか?」というニュアンスが含まれていた。昔自分が助け切れなかった子供が、今こうして目の前にいることが信じられないようだ。

「インディゴ。見違えたなぁ」

 しかし、藍色の毛色は珍しいので、すぐにそれと気付いたようだ。

「おじさん! おじさん!」

 インディゴは自然と涙が頬を伝った。そして直ぐと初老の男を抱きしめる。久しぶりに会う恩人に感動したのだ。

 インディゴのかつての恩人である男は、獣人だった。げっ歯類であるネズミ科の知的な雰囲気をまとった人だ。眼鏡をかけている。この人なら安心だろうとハーベイはそれまで目深に被っていたフードを取った。

「ほう! 人間か。こりゃ珍しい。いや、失敬。私はコムリという名だ。君は?」

「……ハーベイラス・エコーだ。ハーベイでいい」

「よろしく」

 不思議なことにコムリは人間であるハーベイを見ても驚かなかった。それどころか排除する意思もなく、むしろ歓迎していた。インディゴの連れ合いということで信用したのだろうか。それにしては獣人と人間との確執というものに疎いようにも見える。ともあれ、コムリが二人を信じ、厄介者扱いしないというのは都合が良かった。

「おじさん。私たち、研究所に捕らわれている子供たちを助けに来たの」

 インディゴは突然本題を切り出した。

「やめておけ」

 その答えは、インディゴにとっては想定外だった。てっきり手伝ってもらえるものと思っていたのだ。だが、彼は違った。彼自身インディゴのことを考えての言動なのだが、インディゴにそれが伝わらなかった。

「どうして! 彼等は私たちが来るのを待ってる! それを見捨てろということ!」

「私だってあの子達を何とかしたいと思っているさ! だけど、……だけどそれで何がどうなるって言うんだ! あの子達が例え研究所を脱出するのに成功したとしよう。しかし、彼等はまたどこかから色主達を連れて来るんだ! それを止められるのか!」

 色主とはインディゴのような、力を持った子供たちのことである。色によって使える力は様々なので、総称してそう呼ばれている。

 しかし、と反論しようとして言葉が詰まるインディゴ。そこへ割り込んだのはハーベイだった。

「ならばその研究所を壊してしまえばいい」

 単純明快な答えだった。誰もがそれがしっくり来ると思った。だが、一瞬の出来事だった。

「どうやって壊す?」

 当然出るであろう、必疑だった。

「進入だけなら、私が何とかしよう」

 コムリが発案した。だが、中の者達に関しては何も感知しない、と言い置いた。

「そこまで言ってくれるなら……何とかするしかない、か」

 ハーベイが舌打ちする。自分たちの力で研究所を無力化せよ、ということだ。その話を横で聞いていたインディゴの表情が、次第に無表情になっていく。覚悟を決めたのだ。

「私が力を使う。そうすれば――」

「――力を使っちゃ、だめだ! 君が力を使うと……」

「制御できなきゃ、町が滅びる」

 コムリの放ったその言葉は冷徹な色を持っていた。

「それでも、それでも私にはそうするだけの義務があるから」

「君じゃだめだ。俺がやる」

 ハーベイが自身の銃を確かめながら言った。

「話はそれだけか?」

 コムリが突然話を打ち切った。これ以上の議論は不要との圧力が掛かったその言葉は、同時に研究所への案内を受けるとの了承の意味でもあった。

 コムリとハーベイとインディゴの三人は、コムリの小屋を出た。出来れば今日中に研究所に着きたいところだが、村から一日かかる場所にあるので今から出発したとしても夜になってしまうだろう。夜に行動するのは危険だ。だが、相手に悟らせないつもりなら、夜陰にまぎれて襲撃するのも手である。何れにせよ、今から出発するしか手は無いのだが。

 出発準備を整えると、三人は小屋を後にした。

 荒野を歩く三人。白い綿のようなものが積もっている。その厚さが次第に増えていった。雪だ。ここは極寒の地。雪が年中降っているわけではないが、今は冬なので溶けることは無い。今は晴れているが、雪道は続いている。コムリの案内で、獣道をつかっていた。コムリがいなければ迷っていただろう。そのことに関しては、インディゴは感謝していた。

 目の前に白い建物がある。コンクリートの二階建てだ。インディゴやコムリにとっては見慣れた建物だ。五キロ先のその建物内に侵入する方法を、三人は思案していた。

「やはり私が行くしかないな」

 コムリが口走る。

「おじさん! 大丈夫なの!」

 インディゴがコムリの行動を否定しようとしている。そんな危険なことはさせない。大体コムリ自身、彼等と未だ仲間でいられるという保障はどこにも無いのだ。それなのに、危険な任務につこうとしている。それを止めずして、何を止めろというのか。

「なあに。大丈夫さ。彼等なら良く知っているからな」

 インディゴの心を知ってか、コムリは笑顔で彼女の頭を撫でた。

「上手くいったら、紫の煙を上げる」

 コムリはそういって、研究員時代の服を身にまとい一人建物に近付いていった。

あとがき文化なんて消えてしまえ。

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