なんでもできる君
みんなそれぞれ努力をすれば成功する。
それが、学校の道徳の時間などで学ぶ常識のようなものである。しかし現実はそうではないと思う。
僕は、何をやっても中途半端で、人より優れていることは足の速さくらいで、あとは全部平均的だった。その唯一の足も、努力をしたのではなく、生まれつきのものだった。よく学校では、「努力に勝る天才なし」や「努力は裏切らない」という言葉が事あるごとにすぐに出てくる。僕は、はっきり言ってこの言葉が嫌いだ。
なぜなら、実際は努力のできる人が天才であり、努力を苦手とする人が普通なのであると僕は思っているからだ。そんなことを考えながら授業を受けていると名前を先生に急に呼ばれビクッとした。僕の、前の席の奴が発表して、順番的に問題を答えないといけなかったようだ。考え事をしていて気づきもしなかった。その様子を隣の席で一部始終をみていた元木恵莉は隣で目を細め、うすら笑いを浮かべている。少し、耳を赤くして素早く問題に答えると急いで席に座り、小さくホッとため息を吐いた。
「考え事?」
さっきまでとは、変わった様子で元木は真剣な眼差しで僕に聞いてくる。
「いや、昨日寝るの遅くて、眠かっただけだよ」
僕は、さっきまでの自信満々な考えを彼女には伝えずに軽くごまかした。
元木恵莉はとても努力家だ。つまり僕の言う天才というやつだ。成績は学年1位、運動神経は抜群。だが、この学年で彼女の努力に気づいているのはきっと僕だけだろう。元木は、毎日塾に通い休日もずっと机と向き合い勉強している。みんなが呑気に遊んでいる間に彼女はどんどん差をつけていくのだ。
運動に関しても彼女は、天才だ。
彼女は、小学生の時はずっと、走れば最下位、飛べば転んで、本当に運動神経のかけらもない少女だった。だが、そこから彼女は空いた時間にジョギングをしたり、筋トレをしたりしてできる限りのことを面倒くさがらずにたくさんやってきた。
やはり、天才だ、努力ができるは、天才なのだ。
彼女を見ると毎回思う。
午前の授業が終わり、お弁当の時間になった。
隣の彼女は、とてもお腹が減っていたらしく、カエルのようにぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいた。元木は料理もできるらしく、たまにお弁当のお裾分けをしてくれる。彼女の作る料理はとてもおいしくて毎回涙が出そうになる。
くだらない事を考えながら弁当を食べ終わり。昼休みが始まる。僕はいつものように、図書室で借りた文庫本を両手に広げ読み始める。元木は、いつも外へ遊びに行くのに、今日は教室にいる。僕はなぜ外へ行かないのか気になったが構わず文庫本に視線を落とす。
「悩み事があるなら、私に相談して…」
二人しかいない教室で彼女はひっそり僕に言った。
きっと授業中のことをまだ心配してくれていたのだろう。
「本当に寝不足で、頭回ってなかっただけだよ」
僕は、これ以上彼女を心配させないように優しく笑うように言った。
「ならよかった、」
そう言うと彼女は太陽のように眩しい笑顔で僕を見つめる。僕は心臓が勝手にどんどん早くなっていくのを感じた。元木は話が終わるとすぐに外へ遊びに行ってしまった。
「死ぬかと思った」
僕は、ボソッと独り言を言ってまた文庫本に視線を落とした。
元木恵莉は昔から、困っている人や元気のない人を見つけると、ほっとけない性格を持っていた。人の心を思いやれる元木の心は、僕からしたらとても綺麗で素敵なものだと思っている。
放課後いつもの帰り道を歩きながら再び考える。
やっぱり努力のできる人間は天才である。
元木恵莉は努力の天才でありながら、人を思いやる心も持ち合わせている。彼女は本当になんでもできるのである。




