8話 魔獣ギッシリ温泉
木の実を拾いまくり、気づけば夕暮れ時。
「疲れた〜金貨1枚くらいにはなるかなぁ」
「おうよ〜……ヘトヘトだぜぇ。早く温泉に浸かりてぇ」
「ラーちゃんすっかり温泉の虜だね」
「うるせ〜」
「そだ、入ってから街に戻らない?露天風呂気持ちよかったし」
「お前なぁ、この間は天空の剣パーティが見張ってたから外で入れたんだぞ。素っ裸でゴブリン来たらどうすんだ?」
「ちょっとだけちょっとだけ。ラーちゃんも汗、流したくない?」
浴槽を設置し、スキルでお湯を溜める。
「う……しょ、しょうがねぇな」
ラーウェルは小さな両手を広げ水の膜を発生させた。膜は私とラーちゃんをすっぽり包む大きさだ。
「結界だ。周りから見えなくなるしここらの低級魔物は近づけねぇ」
「さすがラーちゃん!ではでは〜おっ先〜」
服を脱ぎ捨て湯船へダイブ。
「わっ……ナツ、お前もう少し恥じらいを持てよ」
「だって外から見えないんでしょ〜?あ〜気持ちい〜」
「俺には丸見えだけどな。はぁ、俺も、っと……あ〜……いい湯だぜ〜」
「今日の労働が報われた気がするよ〜」
ガサッガサササッ
蠢く草木。
もしかして魔獣?!ラーちゃんの言葉通り全裸で逃げるしか……
ギギ、とロボットのように振り返る。姿を現したのはライオンのような顔と胴体に巨大な鷲の翼を備えた魔獣。
しかも一体ではない。大きなのが二匹と、小柄なのが三匹。家族かな、等と微笑ましく思えない程の形相とサイズ感だ。
「グリフォン?!なんでこんな初級の森にいんだよ?!」
「ええっ?!結界は?!」
「効く相手じゃねぇ!」
ヤバい!全裸のまま死ぬのは嫌すぎる!
「女」
「喋った?!は、はいっ!なんでございましょうか?!」
「温泉、とやらに入りたいのだが」
「……え?お、温泉?」
「貴様が今しがた入っているものだ」
「温泉!温泉!」
「ニンゲンの女の子……おいしそう」
「父様の言うことを聞かないと噛み付いちゃいますよ」
父様……やっぱり家族なんだ。子どもってサイズ感じゃないし明らかに一匹ヤバいやついるけど、私を襲いに来た訳じゃなさそう……
「えっと……温泉に入りたいって事で、いいんですかね?」
「そう申しておる。もっと端に寄ってくれ」
「え?!い、一緒に入るの?!ちょっとまっ」
「ふむ……」
ザブザブ
五匹のグリフォン達が温泉に入ってくる。
「ヒェ……」
私とラーウェルは悲鳴をあげながら、グリフォンの巨体によって浴槽の端に追いやられた。
せ、狭っ!おおおグリフォンの羽がめっちゃ当たってる!猿が温泉浸かってるのは見たことあるけど、まさか強面の珍獣と一緒に入ることになるとは……
「おぉ……なんという心地良さ!全身に力が漲るようだ!」
「アナタ、ご覧になって。私のくたびれた羽が潤いを取り戻しましたわ」
「温泉熱ィ!狭い!」
「つまんない。ニンゲン食べたい」
「ねぇもう上がろうよ父様ぁ」
ぎゅう、ぎゅう
「なにこの状況……」
「 狭ぇ……昨晩は天空の剣パーティが居たから近づいてこなかったんだな」
「あぁそっか。あの人たちめちゃくちゃ強いもんね」
「おぃ、聞こえておるぞ。人間如きに我が遅れをとるものか。人間には人情、というものがあるらしいからな。貴様の仲間を殺した時、温泉を出さず自死する等という頭の悪い行動をとられたら困る」
「父様昨日からずっとソワソワしてたもんね!」
「温泉ンンン!って吠えてうるさかった……」
プッ
思わず吹き出してしまった。
「お、お前達いらぬ事を言うな!」
雄雌の区別はパッと見分からないが、奥さんグリフォンもクスクス笑っている。
思ってたより怖い魔獣じゃ無いのかも
「聞けば貴様の温泉に浸かればレベルアップするらしいじゃないか!そのような都合のいい湯、我が逃すわけ無かろう!」
「それで実際どうですか?温泉」
「フン!悪くないが少し狭いな。人間は小さきことよ」
そう言いながらも全身浸かりきって、浴槽の縁に顎を乗せている。
動物園にいる野生を失ったライオンみたい……ちょっと可愛いかも
◾︎◾︎◾︎
「まことにいい気分だ」
ホコホコ、湯気の立つ毛並み。広げた羽は草むらに潜んでいた時より艶めいて見える。
グリフォンと裸の付き合いをしてしまった……
「気持ちよかったー!」
「温泉終わった……この女食べていい?」
「父様喉が乾きました〜」
「ふむ、我はグリフォンのレオクシス。妻のミーナ。左からブレイズ、エルザ、ミアだ」
うん、全部同じ顔に見える。
「私はナツ。こっちは使い魔のラーウェル」
「ナツよ。その温泉とやら、また入ってやらんでもない」
素直じゃないなぁ……
「だから明日も明後日もここへ来て我に温泉を振舞え。これは栄誉なことなるぞ」
「えっ?ま、毎日?」
「そうだ。日暮れ頃に参る。もし来なかったら貴様を見つけるまで街を潰して回れば済むことよ。忘れるなよ?」
「ちょっ毎日は……」
「さらばだ!」
グリフォン達は大きな羽を広げ飛んでいってしまった。
「ええ……毎日って、ホントに?」
「困ったことになりましたね。ナツ様……」
『レベルがアップしました』
レベルアップの音を聞きながらも疲労感と困惑から抜け出せない。
毎日かぁ……変なのに目つけられちゃったなぁ
「とりあえず街に戻って、温泉入り直そっか……?」
◾︎◾︎◾︎
(補足)
街と魔獣、魔物の住む土地はくっきり分けられています。街の区画はすべて魔道士達により結界が張られ、魔獣は踏み入ることができません。レベルの高い魔物達も、襲えばSランク討伐隊に始末されるため近づかないようになっています。




