27話お風呂上がりにはコーヒー牛乳
「アタイが10の時のことッス。ウチは大きなケーキ屋で、お袋の作るケーキは貴族や王様にだって献上したことのある有名店だったんス。だけど親父が――」
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『貴様の夫、ダナクは数十回の盗みを繰り返し、この度は国庫に忍び込んだ。これは重罪である!よって、本人は指切りと鞭打ちの刑とし、罰金金貨5000枚を言い渡す!』
『お、夫はもう二ヶ月間帰ってきて居ません。何処にいるのかも……』
『ならば刑法に定められている通り、身内が罪を負うこととする!指切りは本人のみだから、鞭打ちと罰金だ』
『そんな……』
その日シャルナの母とシャルナは、全てを失った。必死で繁盛させたケーキ屋も、店を大きくするための蓄えも、信頼も。
そして母は鞭打ちの傷が原因で体を病み、精神的ショックも重なったことにより、一月後。息絶えた。
『お袋……待ってろ。アタイが絶対に、お袋の大好きだったケーキ屋、取り戻してやる』
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「――だからアタイは、金が必要なんス。でも、犯罪者の娘って記録のせいでどこも雇っちゃくれねッスよ」
「だから盗みを?」
「……あぁ。アタイのスキルは親父譲りのクソスキル。人を謀るスキルなんてあったところで犯罪にしか役ただないッス」
シャルナは湯船の中で膝を抱える。
きっと今日まで、たった一人で生きてきたんだなぁ……私とそんなに変わらないのに、苦労人だ
「それに今はクソ親父が帰ってきてるッス。数日おきに金をせびられて、お金を貯めるどころか、明日も危うい。アンタの温泉で稼いだお金も、全部取られちゃったッス」
「うわ、酷いね……だからクァンの実が欲しいの?でも"お金払う"って言ってたよね?売ってお金稼ぎたい訳じゃなくて」
「クァンの実でケーキを作る。それがお袋の夢だったんス。アタイはケーキ屋を復興し、お袋の夢だったクァンの実ケーキを作ってみてぇんスよ。ま、商人は地道にコツコツッスよね。さっきはがめつく欲しがって悪かったッス」
「……」
「おぃナツ。お人好しも程々にしとくんじゃぞ。困ってる奴なんて、そこら中におる。それに、そいつは他のやつを困らせて利を得ていた悪党じゃ」
「うん。そうだね。私は許せるけど、許せない人も居るだろうね……でも、ここでシャルナを突き放したら、今後も困る人は増えるしシャルナも困り続ける。
という訳で、シャルナ。コーヒー牛乳作ってくれない?」
温泉内が静まり返った。私の脳内はあろうことかシャルナの過去話より、"クァンの実=コーヒー牛乳"でいっぱいなのである。
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「おぃおぃリンファ。何がどうやったらシャルナを不戦湯で雇うって流れになるんだよ?……やっぱり俺も女湯入った方が良かったかぁ?」
「無駄じゃな。どう足掻いてもこの結論に辿り着いとったじゃろう。ナツのアホさ加減には着いて行けん」
「み〜んなそんなこと言って〜シャルナに頼んだ例のブツを飲んだら、絶対納得するよ!」
「か、解放してやったのですか?!また盗みに来るかもしれないのに!」
「まぁ一回目だしね。二回目は容赦しない。私の酸性泉に沈めてやるから」
静まり返る不戦湯メンバー。私の期待と闘志は静かに燃えるのだった。
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次の日
「頼まれたもの、作ってみたっス!」
「おぉっ!早い!」
朝イチで飛び込んできたシャルナ。番台の上に茶色い液体が入った牛乳瓶が置かれ、私の胸が大きくときめいた。
銭湯のお供!甘く冷たい、コーヒー牛乳!
「うわぁ!凄い!注文通りだよ!」
「レシピを聞いた時は簡単すぎると思ったッス。でも牛乳との比率や温め方によって味が変わるから、一晩中試作したッスよ」
「こ、これ、味見してみてもいい?」
「あぁ。腰抜かすほど美味いッスよ!」
「なになに〜?ってうわ、泥棒さんじゃん」
「貴様、よくもぬけぬけと。何をしに来た?」
「お、双子勇者!たった今湯上りにピッタリな飲み物が完成したとこだよ!飲んで飲んで!」
瓶の中身を湯のみに分け、キラとソラに手渡す。
「変わった色……というか、泥水?」
「な、ナツ様。この盗賊。俺たちを騙して泥水を飲ませる気じゃ……」
ゴクゴク
「もう飲んでる――?!え、ええぃっナツ様だけに身体を張らせる訳にはっ」
キラもソラもコーヒー牛乳を煽る。
舌を撫でる柔らかい甘味と微かな苦味。喉を撫で落ちる冷たい液体。キラとソラが目を見開く。
かつての世界で一気飲みした、懐かしのコーヒー牛乳に違いなかった。
「っは――!!最高!」
コーヒー牛乳に浮かれる私はまだ知らなかったのだ。シャルナが引き連れてきた、とんでもない客の正体を――




