25話転売ヤー確保。連行と温泉
アリスは猫のような赤い瞳で周囲を見渡し、王都の中心部から路地へ路地へと進んでいく。
結構賑わってる国だと思ってたけど、一本路地に入ると薄暗いし静かだし治安悪そう……
「近いぞ……」
アリスの言葉に全員が身構える。
ガランッ
けたたましい音と共に空き缶が転がってきて、次いで走り抜ける人影が。
「奴だ!」
「えっでも黒髪……」
「忘れたのか温泉馬鹿女。奴は変化の達人だつったろ」
「あ、そっか!ソラお願い!」
「あいあいさ〜」
ソラは身軽に飛び上がり、壁を交互に蹴りながら建物の上へ。パルクールの如く屋上を走り抜ければあっという間に豆粒大だ。
「うわ……ソラって身体能力高いなぁ」
「お猿さんみたいだな」
「ラーちゃんも追いかけなよ……」
「必要ねぇかと思って」
ラーウェルがそう言うと同時にソラが屋上から飛び降り、次いで「ぎゃっ」という悲痛な声が路地裏に響いた。
「ほらな」
「流石ソラ!」
駆けつけてみれば、なんの変哲もない男がソラに組み敷かれていた。
「え……誰?」
「スキルは【変幻】つってただろ?コイツがシャルナだな!」
「は、離せ!なんスかアンタ達!」
「なんだはこっちのセリフだよ!私の温泉、盗んだでしょ!」
「はぁ?アンタ朝にアタイの商売邪魔してきた女ッスね……盗んだって証拠があるなら出してみろってんだ!」
「う……あ、あの小瓶の中身。【温泉鑑定】したら炭酸水素塩泉だったよ!私のスキルでしか出せないヤツ!」
「ハッ!アンタのスキルがポンコツすぎて井戸水も泥水もその訳わかんねぇ名前で表示されるんじゃないッスかぁ?」
ドッ
シャルナの首ギリギリに突き立てられた勇者の剣。柄を持つソラの手はビキビキと血脈が浮き上がり今にもシャルナの首を切り落としてしまいそうだ。
「この国ではさぁ、盗みを働くと指を一本ずつ切り落とされるらしいよねぇ。二度と盗みができないように……首切り落としたら、一回で済むかなぁ……」
低い声と威圧感。Aランク勇者の本気の殺気にシャルナの顔が歪み、ぐにゃぐにゃ、形を変えて女の顔へと変化する。
「ぁ、あ……アタイ、は……金が、必要なんだ」
「ならその身で稼ぎなよ。ナツちゃんの努力踏みにじって、オイシイとこ取りとか、許されないよ」
シャルナは言い返すことが出来ないようで唇を噛み締める。
グライス君もだったけど、何か理由があるのかも……だからといって、盗みを許せるわけ無いけど……
私はシャルナの眼前へとしゃがみこんだ。
「ねぇ、なんでお金が必要なの?」
「そんなもん、金さえあればクソみたいな生活から抜け出せるからッス!」
「…………ソラ、ラーちゃん。私この子と温泉に入ろうと思う」
「は?!なんでだよ?!この流れで温泉入るの意味わかんねぇぞ!」
「うーん確かに……このまま衛兵に突き出して罪を償わせるのが正しいとは思うんだけど、それじゃあシャルナはずっとクソみたいな生活を送ることになって、きっとまた、盗みをする」
「ハ!アタイを公正させるつもりッスか?!何様のつもり――」
ズドンッ
鈍い音がして今度はシャルナの首の反対側に剣が突き刺さった。少しでも身じろいだり、ソラの手元が狂っていれば首と胴は亡き別れだろう。
「……は、はいるッス……温泉……楽しみだ、なー」
ソラのことはあまり怒らせないようにしよう。
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「縛らなくても逃げねッスよ」
念の為シャルナの腕を縛り、その縄はソラに持って貰うとする。アリスにはお礼を述べ、街で別れた。
「計り知れん温泉馬鹿。とシュタイン様に報告しておく」とか言われちゃったなぁ……後でシュタインさんになんて言われるか……いや、そんなに暇じゃないか、あの人
私達はシャルナを不戦湯へと連行した。不戦湯に近づくにつれ、入口に佇む巨大な魔獣の姿が見えてくる。
「ン?あれってさ……」
「あぁ。レオクシスだな?久しぶりに見たぜ」
私が不在時。不戦湯にはリンファとキラ。
なんとなくデジャブというか、嫌な予感がして早足になる。
またトラブって無いよね?!
「おぉナツ!久しぶりに湯を浴びさせて貰ったぞ」
「はぁ、はぁ……そ、そっか。それは、よかったよ何事もなくて」
「む、貴様、我を問題扱いするな」
「だってレオクシスさん来る時いっつも何かしらトラブってんだもん……」
「失敬なヤツめ……今しがた怪力女に持たせた供物も没収してやろうか」
「誰が怪力女じゃ。ナツ、ええもん貰ったぞ」
リンファが広げた包みの中には茶色い大きな豆。見た目は明らかに珈琲豆であるが――
「お、大っきい……」
自分の顔ほどもある大きさだ。異世界版、珈琲豆と言ったところか。
「あ、アンタそれ!」
シャルナが身を乗り出す。
「クァンの実じゃないッスか!!」
「クァンの実?」
「Sランクダンジョンに生える大樹にしか実らない、伝説級の実ッス。まさかお目にかかれる日が来るなんて……これを採ってきた魔獣はグリフォンッスよね?!アンタの手下ッスか?!」
「小娘!我は――」
「ううん、銭湯常連客」
「ナツ貴様!」
「ダンジョン入ってたから最近銭湯来なかったんだ」
「フン。あのようなダンジョン、子供騙しにすぎん」
「ナツって言ったか?!頼む!!」
シャルナは床に膝をつき頭を下げる。
「アタイにクァンの実、譲ってくれないか?!」
盗みをしていた時とは違う、真っ直ぐで懸命な瞳。
その瞳を前に、私はシャルナのことをもっと知りたい。そう思ったのだ。
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次回はシャルナちゃんと温泉〜
クァンの実は巨大な珈琲豆!ということはクックック、温泉上がりに飲むアレが作れますね!!




