2話使い魔とスキルの謎
生活費確保はマスト。そして温泉は——
翌日。
まず考えたのは、生活費のことだった。
「……お金、どうしよう」
昨日泊まったホテルにはちゃんとした浴場がある。
つまり――
「スキル【温泉】でお金稼ぎは、無理だよね……」
知らぬは恥、聞かぬは一生の恥。
「あの、お金ってどうやって稼げるんですか?」
ホテルのオーナーは、身なりの良いスーツ姿。
胡散臭い話じゃないといいけど。
「おや。お客さんは転生者ですか。でしたら冒険者ギルドで登録し、依頼をこなすのが一般的ですね。スキル次第では鍛冶屋や解体屋もできますが……どんなスキルを?」
「……スキル、温泉です」
「はい?」
一瞬の沈黙。
私はそっと視線を逸らした。
◾︎◾︎◾︎
冒険者ギルドの中は、朝から喧騒に包まれていた。受付のクラシカルメイドさんの前へ。
「あの、冒険者登録を」
「承りました。ではお名前とスキルを……
……温泉?」
「はい、温泉です」
「……では続いて、使い魔をお選びください」
スルーされた。
どうやらこの世界に“温泉”という概念はないらしい。
「使い魔?」
「冒険者のサポート役です。属性は火・水・風・雷から選べます」
「じゃあ、水で!」
◾︎◾︎◾︎
「ナツ様。こちらが使い魔のピクシードラゴンです」
籠から現れたのは、青い小さなドラゴン。
クリクリの目でこちらを睨んでくる。
「俺はラーウェルだ。ったく、よりにもよって弱そうな女がマスターかよ」
「うへぇ、口悪っ。私はナツ。よろしくね、ラーちゃん」
「その呼び方やめろ」
登録を終え、Eランク依頼を眺める。
「……回復ポーションの素材、薬草集め。報酬、銀貨2枚」
「現実見ろよ。最初はそんなもんだ」
世知辛い。
◾︎◾︎◾︎
薬草採取は、想像以上に重労働だった。
歩き回り、掘り起こし、気づけば夕方。
「勇者の剣をスコップ代わりにする日が来るとは……」
「経験値は入っただろ」
「あ、ほんとだ。レベル2」
「ちなみに俺も上がってる。今30だ」
「……え?」
一緒にレベルアップ?
まあ、使い魔だし……?
◾︎◾︎◾︎
ホテルの部屋に戻ると、私は迷わず言った。
「汗かいたし温泉入ろ!」
「温泉?」
「私のスキルだよ。【温泉】!」
浴槽を出し、湯を張る。
昨日と同じ即席温泉。
「ふーん……これが、ナツのスキル……」
ハズレスキル自覚はあるが失敬な使い魔だ。
「よし、浸かろ!」
「おい!女が簡単に脱ぐな!」
「大丈夫大丈夫、ラーちゃんペットみたいなもんだから」
「誰がだ!」
無理やり湯に浸ける。
――次の瞬間。
「……なんだ、これ」
ラーウェルの声が変わった。
「体が……軽い。魔力が、溢れてくる……」
青い光が、ラーウェルを包む。
「ちょ、光ってる?!温泉ダメだった?!」
ステータスウィンドウが弾けるように開いた。
◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎
ラーウェル
Lv 30
HP 1000 → 1400
MP 4800 → 5600
◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎
「……俺のレベルが上がってる?」
同時に、私の頭にも声が響いた。
『レベル、スキルレベルがアップしました』
「……え」
湯船を見下ろす。
これ、回復だけじゃない。
ラーウェルが、真剣な顔で呟く。
「ナツ。この温泉……普通じゃねぇぞ」
私はごくりと喉を鳴らした。
もしかして。
もしかしなくても。
「……ハズレスキルじゃ、ない?」
湯気の向こうで、温泉が静かに揺れていた。




