1話スキル【温泉】
ハズレスキルを引いたと思った。
【温泉】――戦えない、攻撃力ゼロ。
なのに後で知ることになる。
このスキルが、世界の常識を壊すことを。
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拝啓。転生しました。
異世界転生。剣と魔法。冒険者。
テンプレな単語が頭をよぎる。
「まずはスキル確認だよね。剣?魔法?それとも俺TUEEE系?」
胸元を押した瞬間、青い半透明の画面が浮かび上がった。
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クリハラ ナツ
Lv 1
HP 100 / MP 100
スキル【温泉】Lv 1
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「……温泉?」
目を擦ってもう一度見る。
「……温泉?!」
膝から崩れ落ち、頭を抱えた。
「戦えないじゃん!回復ですら怪しいじゃん!
温泉って!観光地かよ!!」
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その日は宿を取り、部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ。
「落ち着こう。温泉……温泉……」
再びスキルを確認するが、詳細は表示されない。
「発動方法も不明?完全にハズレ……」
半ばヤケになり、ウエストポーチを漁った瞬間、今度は緑のウィンドウが現れた。
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アイテムボックス
・石造りの浴槽
・回復ポーション×5
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「……浴槽?」
タップすると、床から光が溢れ、
宿の一室に不釣り合いな石造りの浴槽が現れた。
「いや、なんで浴槽」
蛇口に触れた瞬間。
ドドドドド……。
「……え?」
湯が溢れ出した。
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湯気とともに立ち上る、懐かしい匂い。
手を浸せば、ちょうどいい熱さ。
『スキル【温泉鑑定】が解放されました』
頭に直接響く声と共に、青い画面が浮かぶ。
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【温泉 Lv1】
炭酸水素塩を含む湯。
入浴者のHPを徐々に回復し、疲労を癒す
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炭酸水素塩。
血行促進、美肌効果――美人の湯。
「……当たりじゃない?」
服を脱ぎ、恐る恐る湯に浸かる。
「あ゛〜……」
全身の力が抜け、
疲労が溶けるように消えていく。
「これは……確かに戦えないけど」
湯船に身を沈め、私は呟いた。
「温泉があれば、なんとかなる気がする」
こうして、
ハズレスキル【温泉】を手にした私の異世界生活が始まった。
――まだ、この温泉が
冒険者や魔獣を呼び寄せることも知らずに。




