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最終回 交差する2つの世界

ウェルミールに、魔王なき平和が戻ってから

解散した勇者一行は、それぞれの場所へと帰っていった。

そして今日も、世界は静かに動いている。




――とある村。

「ガロスさーん! 届けものです!」


「おお、ウーリスか。悪いな、今日も」


「いえいえ。今はどこも人手不足ですから、これくらいは全然」


「人手が足りねぇどころかよ……一気に増えすぎて、逆に手が回らねぇんだ。そこに置いといてくれ」


「了解っす」


荷を下ろしたウーリスは、ふと思い出したように声を弾ませた。

「あ、そうだ。よかったらこれ、牛型の魔獣の肉どうです?

かなりいい品種らしいですよ」


「おお! 分かってるじゃねぇか!

よし、今夜は一杯やるか!」


――その瞬間。


「何が“一杯”だってぇ!? アンタ!!」


「げぇ……面倒なのに、見つかっちまったか……」


現れたのは、腕を組んだガロスの妻だった。


「アンタ、飲んだら一日中寝てるだろうが!」


「まだまだやること山積みだってのに、何言ってんだい!」


「へいへい……蘇生しても相変わらずだな……

ゼルハザより恐ろしいやつめ」


「何か言ったかい?」


「なんでもねぇ!」


ウーリスは苦笑しながら一礼する。


「それじゃ、また落ち着いたらマーキスクへ来てください」


「ロベルトも、会いたがってましたよ」


「おう、悪いな。必ず顔出す」


荷を抱えて去っていくウーリスの背を見送りながら、

ガロスは村の喧騒に耳を傾けた。

怒鳴り声も、笑い声も、文句も――

すべてが、確かに“生きている”音だった。


「……平和ってのも、忙しいもんだな」


そう呟きながら、

ガロスは再び、日常の中へと戻っていった。




とある集落


「きゃああああっ!!」


「!?どうした、ルーリー!」


「お父様! く、蜘蛛が!!」


「……蜘、蜘蛛ぉ?」


足元を見て、コーは眉をひそめる。

小さな蜘蛛が一匹、壁際を這っているだけだった。


「……はぁ」


軽く指先で払って追い払う。


「ルーリー。お前ももう16だろう

蜘蛛ごときで、そんな悲鳴を上げるものじゃない」


「お父様、厳しいよ…だって、まだ16だよ?」

「アレリア様みたいに、私、勇敢じゃないもん」


コーは頭をかき、短く息を吐いた。

そして、ふっと表情を緩め、娘の目をまっすぐ見つめる。


「……そうだな。16か」


少し間を置いてから、静かに言う。


「なら、特別だ。君とそう年も変わらないのに、世界を救った少女の話をしてやろう」


「……え?」 ルーリーの目が輝く。

「それって……ヨーレ様のこと?本当に、いたの……?」


「ああ、いたさ。俺の目の前に、確かにな」


「臆病で、不器用で……それでも、逃げずに前に進んだ」


ルーリーは少し考え込み、やがて顔を上げた。


「……じゃあさ今度、お母様のところで、その話して!」


「ああ、そうだな最近は体調も良くなってきてる。

ちょうどいい土産話になるだろう」


夕暮れの集落に、穏やかな風が吹く。

蜘蛛に怯えた少女は、

まだ知らない“勇気の物語”に胸を躍らせながら、

父の隣を歩いていった。


世界を救った奇跡は、

こうして静かに、次の世代へと語り継がれていく。



そして――

マーキスク国、城下から少し離れた研究所。

魔導炉の低い駆動音が遠くに響く実験区画とは対照的に、

小さな休憩室は甘い香りに満たされていた。


白い器に盛られた、色とりどりの層。

「……お、美味しい……!」

スプーンを口に運んだ瞬間、セリアの目が見開かれる。


「これが……パフェ……?」


「うむ、トーキョーの技術を応用したものだ。まだ試作品だがな」


ガラス越しに差し込む光が、クリームと果実をきらきらと照らす。


「牛乳って……こんなに変化しがいがあるなんて……

飲むだけのものだと思ってたのに……」


「それだけじゃない、植物から甘味成分を抽出する技術もある。果物に頼らずとも、甘さは作れる」 


「素敵……そんな場所に行ってたなんて……うらやましいわ!」


「……ところで、セリア。最近、恋人とはどうなんだ?」


「それがね、聞いてよアレリア!

アシュレイったら、蘇生してから私と話すたびに、ずっと照れちゃって……!」


「……照れる?」


「そう!“年上のお姉さんが……”とか、もごもご言って!

私は気にしてないって言い続けてるし

同い年だった頃は、そんな素振り、全然なかったのに!」


「……なるほど、苦労しているのだな」


「そういうアレリアはどうなのよ」


「聖剣教会に研究にって忙しいけど……

そろそろ、恋人とか考えてもいいんじゃない?」


「ふむ……向こうの世界で……価値観は、それなりに見直された」


「ええっ!?」


「ちち、ちなみに……好みはあるの?」


「…………」


一瞬の沈黙。


「……あえて言うなら……年下、だ」


「年下!?」



「そ…そうだ」


「わかる!!年下、可愛いのよね!」

「つい甘やかしたくなるというか!年不相応なのに、背伸びしてくるところとか!」


「!!」


「……分かってくれるのか、セリア!いいよな……年下……!」


「ええ!まさかアレリアと、こんな話ができる日が来るなんて!」


研究所の静かな午後。

世界を救った英雄たちは、今この瞬間だけは、

肩書きを脱ぎ捨てた“普通の少女”として、甘い時間を共有していた。

――ウェルミールで初めてのスイーツ女子会。

そして、誰にも邪魔されない、ささやかな恋バナ。

戦いの後に訪れた、確かな平和の証だった。




そして世界は変わり…トーキョー。


「キャーッ! 怪人よ!!」


悲鳴が街中に響き渡る。

ビルの谷間を埋め尽くすように、

透き通った身体を持つスライム状の怪人たちが、

どろどろと流動しながら地面や壁を這い回っていた。

それは一体ではない。

二体、五体、十体と数を増やし、

街路を、建物を、人々の逃げ道を覆い尽くしていく。


「ドロロロロ……!俺はアメンバー!!

この街をスライムで埋め尽くしてやるぜぇ!!」


下卑た笑い声が、街に反響した。

その瞬間――


「ラブリー☆ガール!ひより、参上!」


「チュチュなのだ!」


軽やかに着地したのは、

久しくこの世界に姿を見せていなかった魔法少女。

しかし、その佇まいはかつてよりも落ち着き、凛としていた。


「来たなぁ〜、魔法少女!だがな、お前はもう対策済みだ!」


ぬるり、と粘液がうごめく。


「いけ!アメンバー・ダイヤモンド!!」


「おう!任せろ!」


ズズズズズ……!!


一体のスライムが膨張し、

その身体が一気に巨大化する。

次の瞬間――

全身が結晶化し、まばゆく光を反射した。


「どうだ!俺の身体はダイヤモンド以上の硬度!

ビームなんて――」


「ラブリー☆ビーム!!」


カッ――――!!


一条の閃光が放たれる。


ジュアッ……!!

光が触れた瞬間、

“アメンバー・ダイヤモンド”は音もなく崩れ、

跡形も残さず消滅した。


「……え?うそ……?マジで?ダイヤモンドが……?」


ひよりは一歩、前へ出る。

杖を向けたまま、

声を荒げることもなく、穏やかに告げた。


「怪人さん、これ以上、街の人に危害を加えるなら――」



「容赦しないよ?」



「……ひより、ちょっと怖いのだ」


「ドロロロ……なめるなよ!!いくぞ、お前らぁ!!」


「「おおお!!」」


号令とともに、街中に散らばっていたアメンバーたちが一斉に動き出す。

四方八方から、波のように押し寄せるスライム怪人。


しかもその姿は一様ではない。

液体のまま高速で滑る個体、

全身を氷結させ刃のように尖らせた個体、

硬質化し、凶器の塊と化した個体――。


「わ、わああああ!!数が多すぎるのだ!!」


「チュチュ、大丈夫だよ」


ひよりは一歩前に出て、杖を構える。

(……この数なら、ラブリー☆フラッシュで一掃できる……

でも問題は全個体に同じ効果が通るか……)


魔力を集中し、発動の瞬間を見極めたその時。


「ひより!!どきなさい!!」


その声に、ひよりがはっと振り向く。


「……その声は……!」


直後――

「アンガー☆デルタビーム!!」


轟音とともに、

電撃・炎・氷を纏った三角形のビームが、

ひよりのすぐ横をかすめて解き放たれた。

黄、赤、青のウェルミールの魔術体系を応用した、

三属性同時解放。


バチィィィ!!

ゴォォッ!!

パキィィン!!


ビームは直進せず、空中で分裂し、拡散する。



「「「ぎゃああああああ!!!」」」


アメンバーたちは一体一体、

感電し、焼かれ、凍結し、硬度を失い

それぞれの特性に合わせ、正確に無力化されていく。

数秒前まで街を埋め尽くしていた怪人の群れは、

瞬く間に沈黙した。


「……え?」


唖然と立ち尽くすひよりとチュチュの前に、

遅れて二つの影が着地する。


「アンガー☆ガールつばき!……もう終わっちゃったわね!」


「はい。私が名乗る間もなく、でございますな」




ポトッ……

砕け散った怪人の残滓が、

いつものように小さなドールとなって地面に転がった。


「今回は私の勝ちね!ひより!」


つばきは胸を張り、勝ち誇ったようにひよりへ振り向く。

その瞬間。


プルプル……プルプル……


「……? なによ?」


ひよりは両手を握りしめ、震えながら目を輝かせていた。


「す、すごい!!つばきちゃん、すごいよ!!

ウェルミールに行ってないのに、色の解放が使えるなんて!!」



つばきは照れ隠しのように腕を組む。


「アレリアに直々に叩き込まれたんだから当然でしょ!

それにアンタだって、これくらい出来るんじゃないの?」


「それがね……」


ひよりは少し困ったように笑う。


「私、どうも色がないらしくて……」


その言葉を聞いた瞬間、

つばきの口元がゆっくりと吊り上がる。


「…………へぇ~~~?つまり?

魔術の才能は私のほうが上ってことじゃない?

ほっほっほ~~!!」


「あー!!ひどい!!」


ひよりがすぐさま反論する。


「総量は私の方があるし!つばきちゃん、

滲身も結界も使えないじゃん!!」


「うるさいわね!!

今は解放の話してんの!!」


追いかけるひより、逃げるつばき。

いつもの、変わらないやり取り。

その様子を少し離れたところで眺めながら――


「……またこの光景が見られるとはいいものですなぁ」


「本当なのだ!」


ーーーー


「――ってことがあったわけ!

つまり、ひよりより私のほうが才能あるってことよ!」


「え、えっと……あはは……そうなのかな……」


「つばきちゃん……まだ言ってる……!」 

ひよりは頬を膨らませて、むすっとする。


三人は並んで、いつもの通学路を歩いていた。


「でもさ、つばきちゃん。

あれからずっと調子良さそうだよね」


「言いどころか絶好調よ!

ドール集めだって、もうひよりより多いはずよ!」


「私の怪人、横取りしただけじゃん!」


「倒した者勝ちよ!

勝負の世界は厳しいって、アレリアが言ってたわ!」


「もー!つばきちゃん!」


そんな二人のやり取りを、少し後ろから見ながら、

陽翔は小さく息をついた。


「……二人とも、元気そうだな」


その瞬間――


「陽翔くーん♡今なら惚れ直してもいいのよ?」


つばきが肘で、軽く陽翔をつつく。


「わっ!?そ、それとこれは別だよ!」


と、その時。

二人は気づいていなかった。 

すぐ目の前が、横断歩道だということを。



ブオオオオオオッ――!!!


「……っ!!」


耳をつんざくエンジン音。

猛スピードで迫る中型トラック。 


「あ、危ないのだ!!」


「つばき様ぁ!!」


――ドォォンッ!!


鈍い衝撃音。

しかし、次の瞬間。


「……う……って……あれ?」


「ひ、ひより……?」


目を開けた二人の前にあったのは――

トラックを片手で押さえ込んでいる、ひよりの姿だった。

アスファルトに深く沈み込んだ足元。

びくとも動かない車体。


「二人とも!!

大丈夫!? 急に飛び出しちゃだめだよ!!」


陽翔とつばきは、言葉を失ったまま固まる。


「ご……ごめん……き、気をつけます……」


「あ、あわわ……」


つばきは引きつった笑顔を浮かべながら、ひよりを見る。


「さ、流石ね……ひより……

それでこそ……私のライバルよ……!」


ひよりは苦笑いしつつ、トラックをそっと地面に戻した。

滲身によって強化された身体。

トラックを止めるくらい、

今のひよりにとっては造作もないことだった。

何事もなかったかのように、

朝の通学路に、少しだけ強い変化を残し再び日常が戻っていく。



数カ月後


研究所にて――


机の上に置かれた一本の剣が、かすかに震えていた。


「……アレリア、見て。反応が……いつもよりおかしいわ」


「気まぐれな魔術だからな……だが、この聖剣にはウィール様の術式と……チュチュの魔術が組み込まれている

異次元への“痕跡”が、完全に消えたとは思えん」 


淡く光る刃が、呼吸するように脈動していた。

アレリアは、そっと柄を握る。


「セリア……やってみる

根拠はない。だが……なぜか、できそうな気がするんだ」


「……ええ、お願いするわ」


――研究所の隣。 魔術実験用に設けられた、天井の高い開放空間。


そこでは、遊びに来た

ガロスとコーがのんびりと腰を下ろしていた。


「しかしよ……あの時のアレリアの格好は傑作だったぜ

桃色のヒラヒラしたやつ着ててよ!」


「……想像したくないな」


そこへ、アレリアとセリアが合流する。


「二人共!これより、異次元の魔術を実行する!

少し……見ていてくれ!」


「おうよ。向こう行って、またイカした格好で帰ってくんなよ?魔法少女アレリアさんよ」


「ぐっ……!あれは……必要な格好だったんだ!」


「はいはい、もう、始めちゃって」


「成功するといいな。ルーリーも……礼を言いたがっていた」



アレリアは深く息を吸い、聖剣を高く掲げた。

刃が、確かな光を帯び始める。

三度目の異次元の魔術。

「Velmyr……Þarnveil……Sevnith………Aetherforc!」


詠唱が終わった瞬間

聖剣は、これまでにない強さで輝きを放った。



そして同時刻。


「やった!!ついに、100体目!!」


最後のドールを手にしたひよりが、両手を挙げ喜ぶ。


「おめでとうなのだ!

!本当に、本当によく頑張ったのだ!!」


「はぁ〜……長かったわ………頼んだわよ、クナギ!」


「はい。つばき様、お疲れ様でございました」


クナギは静かに頷き、願いの箱を両手で捧げる。



「“願いの箱よ、いま開かれよ。

ゾーイ様、目覚めの時!”」


モコ……モコモコモコモコ……!!



箱から立ちのぼる、白く揺らめく煙。



「願魔神・ギジゾーイの登場ゾイ!!

よくぞ100体のドールを集めたな。

約束通り、願いを一つだけ叶えてやるゾイ!」


威厳ある声が、空間に響き渡る。


「つばきちゃん……」



「ええ……わかってるわよ」


つばきは一度、深く息を吸い

迷いなく顔を上げた。


「私の願いは…かつて、この世界に来た

アレリアという人物がいる世界へと

繋がる“扉”を作ってちょうだい!」


ギジゾーイは、ふむ……と顎を撫でる。


「……なるほど。異界への接続か……」


「わかったゾイ!その願い、確かに受け取ったゾイ!!」


光が溢れ、空間が歪み始める。

世界と世界が、

再び交わろうとしていた。

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