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第61話 帰ってきたひより!でも元気がない!?

ひよりが転移してから――それからの出来事。

つばきとクナギの口から、

陽翔はようやくひよりが帰還したという事実を知らされていた。


「ひ……ひよりが……?

それは本当なのか!? つばきちゃん……! クナギ……!」


「ええ、本当よ。でもね……」


言いよどむように、クナギが申し訳なさそうに言葉を継ぐ。


「どうも……あちらの世界で、かなり疲れていたようで……

今は部屋に引きこもっていまして……」


「ほんっっとに!!

自分勝手なんだから!

転移してきた時は、一緒にわんわん泣いてたんだからね!!

向こうで何があったか知らないけど!!」


「つ……つばき様……その辺で……

ひより殿にも、きっと事情があるはずです」


「知らないわよ!!

無事に帰ってきたんだから、それでいいでしょ!!」


八つ当たりのように叫んだあと、

つばきはふっと声を落とし、静かに――どこか寂しそうに陽翔を見た。


「……陽翔くんが、お見舞いに行ったら……

きっと喜ぶわよ。行ってあげてね」


「あ……うん……ありがとう、つばきちゃん」


そう答えると同時に、

つばきとクナギはその場を後にする。


「……つばき様……」 


「クナギ……うるさい……!」


背中越しに、絞り出すような声だけが残った。


ーーーー



ピンポーン。


陽翔は、ひよりの家のインターホンを鳴らした。

ガチャ。


「はーい……って、あら〜?

陽翔くんじゃないの!」


「あ、ひよりのお母さん……お久しぶりです。

ひよりが帰ったと聞いて……少し、挨拶をと思って……」


「はいはい! ちょっと待っててね〜」


そう言って、階段を上る足音が聞こえる。

……しかし、ほどなくして戻ってきたひよりの母は、

少し困ったような笑顔を浮かべていた。


「ごめんなさいね……

ひより、今は誰にも会いたくないって……

海外留学から帰ってきて、ちょっと疲れてるみたいなのよ」


「……? …………!?」

(そうか……!チュチュの……呪文……!)


「いえ……こちらこそ、ありがとうございます。

それでは、また……」


深く頭を下げ、

陽翔はひよりの家を後にした。

静かな道を、一人歩く。


「ひより……よっぽど、辛い思いをしたのかな……

帰ってきたっていうのに……俺は……」


言葉は、最後まで形にならなかった。



ーーーー



場面は変わり――ひよりの部屋。


「……ひより……本当に、いいのだか……?」


チュチュの小さな声。


「うん……今は、ちょっとだけね……」


ひよりはベッドに座り、

窓の外を見つめながら、静かに答えた。


「ひより……どうしたのだ……そろそろ、話してほしいのだ……」


「…………」


(帰ってこれた…こんなにも、あっさりと)


(嬉しかった。

チュチュに会えて、つばきちゃんに会えて、クナギに会えて。

お父さんとお母さんに会えて……

それに、陽翔くんにも会えたはずだった)


(なのに……)


(なんだか……あっけなかったな……)

(ガロスさんに……ちゃんとお別れ、言いたかったな……)

(コーさん……セリアさんのお墓参り……

できなかったな……)


胸の奥が、きゅっと締めつけられる。 



(アレリアさんは仲間を失って辛いだろうな

聖剣教会は……どうなるんだろう……)


(アレリアさん……本当に、ごめんなさい……)

(たくさんの犠牲者を出して……それなのに、私は……)


ぐずっ……

ぐずっ……

ひよりは、ウェルミールで数々の苦難を乗り越え、

魔術を学び、肉体的にも精神的にも、確かに強くなっていた。


――けれど

元の世界に戻り、

「自分は女子中学生だった」という現実を思い出した瞬間、

心は、年相応の柔らかさへと戻っていた。


今のひよりの胸を満たしているのは、

後悔と、罪悪感それだけだった。


「ひより……」


チュチュは、何も言えず、

ただひたすら心配そうにその姿を見つめていた。


「…………あ!!!!忘れてたのだ!!」


「……え?」


唐突に声を上げるチュチュ。

「アレリアが、もし……お互いに帰れたらって……

手紙を書いてたのだ!!」


そう言って、チュチュは机の引き出しから一通の手紙を取り出し、そっとひよりに差し出した。


「……うそ……私と……おんなじこと……」


ひよりの指先が、わずかに震える。


ひよりは、慌てるように手紙を開き、読み始めた。


『ひよりへ。

私はアレリア・ブラッドリィという者だ。

君には、どうしても謝らなければならないことがある。

まず――おそらく、私と君はお互いの世界を転移してしまった。

その原因を作ったのは、私だ。

そして、私の個人的な理由により、

願魔神ゾーイの力を使わせてもらった。

帰還できたことを前提に書くが、

その願いは――

ウェルミールで、魔物に殺された者たちの蘇生だった。

本当に、申し訳ない。

だが、君の願いをチュチュから聞いた。

私が思うに――

その願いは、もうゾーイに叶えてもらう必要はない。

なぜなら、

すでに叶っていたからだ。

どうか、帰還した君に

幸福と平穏が訪れることを。

そして――

いつか、また会える日が来ることを願っている。』


ぽろ……

ぽろ……


ひよりは、再び涙を流し始めた。

けれどそれは、先ほどまでの後悔と罪悪感の涙ではない。

胸の奥がほどけていくような――

安堵と、嬉しさの涙だった。


「アレリアさん……ありがとう……!」


声が震れる。


「ってことは……みんな……みんな……そんな事が!」


ぎゅっと拳を握りしめる。


「良かった……!!本当に……!!

アレリアさん……ありがとう……!!」


「ひより……大丈夫かのだ?」


「うん……!もう大丈夫!」


ひよりは、涙を拭い、顔を上げた。


「心残りが……全部なくなった!

私、これから陽翔くんに会いに行ってくるね!」


ガラッ!


「了解なのだ!……って、え?窓からなのだ!?」


その声を背に、ひよりは迷いなく窓から飛び出した。



次の瞬間――

ウェルミールで学んだ滲身が、地面を蹴る。


ギュイン!!



「ひよりーー!!なんて速さなのだ!

アレリアみたいなのだ!!」


慌てて追いかけるチュチュ。


「陽翔くん……ごめんね……!ずっと、心配かけて……!」



風を切りながら、ひよりは前を見据える。


「今…会いに行くから!!」




陽翔は、一人、家路を歩いていた。


「……何か……

俺に、できることはなかったのかな……」


足取りは重く、視線は地面に落ちたまま。

ひよりが帰ってきたと聞いてから、

彼はずっとそのことばかりを考えていた。


そんな思考を引きずるように歩いていると――

背後から、聞き慣れた声が届いた。


「……陽翔くん……陽翔くん……!」


心臓が跳ねる。

ゆっくりと、振り向く。


そこに立っていたのは――

間違えようのない、彼女だった。


「……ひより……?ひよりなのか……?」


息が詰まり、声が震える。

ひよりは、小さく頷き、ぎこちなく笑った。


「陽翔くん……その……ただいま……」


一瞬、言葉が見つからなかった。

けれど、自然と口をついて出たのは―

ずっと言いたかった、その一言だった。

「…………ひより。お帰り……」


「……ごめんね。ずっと……心配、かけて……」


「大丈夫だよ」

陽翔は、首を横に振る。

「君が……無事で帰ってきてくれただけで……

それで、十分だから」


言いたいことは、山ほどあった。

聞きたいことも、伝えたい想いも、全部。

けれど――

今は、ただそこにいるだけでよかった。

視線が合ったまま、

どちらからともなく、涙が溢れる。


ぐずっ……

ぐずっ……


次の瞬間、二人は、強く抱きしめ合っていた。

離れていた時間を埋めるように。

確かめ合うように。

まるで、初恋の続きをやり直すかのように。




少し遅れて、チュチュが駆け込んでくる。

「はぁ……はぁ……

やっと……追いついたのだーー!!」


そして、目の前の光景に気づき――


「……あ……」


一瞬、言葉を失ったあと、

そのまま感情が決壊した。


「う……ううううううう!!

よがっだのだぁぁぁぁぁ〜〜!!」


大粒の涙をぽろぽろこぼしながら、

チュチュはその場で大号泣する。

再会。

それだけで、すべてが報われた瞬間だった。


陽翔と過ごした大切な時間のあと。

ひよりは、もう一人と――そして一匹に、会いに行った。




「はぁ……ほんと、貧乏くじだわ」


不機嫌そうに歩くつばきの隣で、チュチュがついて行く。


「しかし、つばき様がいなければ……

アレリア殿も、ひより殿も帰れなかったでございますぞ。

影のMVPですぞ……!」


「そんなの、全然うれしくないわよ」


吐き捨てるように言い、つばきは前を向いたまま歩く。

その背中に――

遠慮がちな声がかかった。


「つ……つばきちゃん……!」

足が止まる。


「……ひより?」


「おお、元気になったようで何よりですな」


再会。

けれど、あの時のように泣き崩れることはなかった。

つばきの表情は、どこか冷えている。


「つばきちゃん……

チュチュから、いろいろ聞いたよ……。

本当にありがとう。

私を……アレリアさんを、助けてくれて……!」


ひよりは、深く頭を下げる。

だが――


「……で?」


つばきは、感情のこもらない声で言った。


「……それだけ?」


「……え?」


空気が張りつめる。


「……つばき様……」

クナギが制止するように声をかけるが、つばきは止まらない。


「アンタはさ、無事に帰ってきて、

愛しの陽翔くんとも再会できて、万々歳じゃない」


言葉が鋭くなる。

「でも私は?

ドールはアレリアに渡して、ゾーイも使えなくなって、

アレリアとは、ろくにお別れも言えず……」


自嘲気味に笑う。


「踏んだり蹴ったりよ」


「そ……そんな……」


チュチュが慌てて口を挟む。

「ひよりは……そんなつもりじゃ……」


ひよりも必死に言葉を探す。

「つばきちゃん……!

これからは、ドール集め……私も協力するよ!

二人で集めれば、きっとすぐ――」


「いいわよ、もう」


つばきは、きっぱりと言い切った。


「必要なくなったし。

私、これからはマジェスタリアのお世話で忙しいの」


背を向け、歩き出そうとする。


「じゃ、帰るわね」


ひよりは、引き留めるように声を上げた。

「……うん……わかった。

迷惑かけて、ごめんね……」


一瞬、言葉を選び――

ひよりは、封筒を差し出す。


「……あと、これ。

アレリアさんの手紙なんだけど……

こっちは、つばきちゃん宛てのものがあって……」


「……!?!なによ、それ!」

「もう!そういう大事なことは、先に言いなさいよ!!」


勢いよく、ひよりの手から手紙をひったくる。


「わ!ごめん!…」


「強くなって帰ってきても、相変わらずドジなんだから!」


そう言いながらも、

つばきの指先は、微かに震えていた。

封を切り、慌てるように文字を追う。


『つばきへ。

この手紙は、私が帰還した時に君へ渡すよう、チュチュに託した。

もし君がこれを読んでいるなら――私はもう、この世界にはいないのだろう。

君には、本当に世話になった。

この世界のことを何も知らなかった私を迎え入れ、

多くの知識を教えてくれた。

感謝という言葉では、到底足りない。

君は不思議な人だった。

年下なのに強気で、どこか不器用で……

しかし私は、君から多くを学んだ。

それに比べ、私は君に何かを返せただろうか。

ここからは、今まで黙っていた本音を書く。

つばき、君と二度と会えないという未来は、私には耐え難い。

勇者として非常に情けないが

帰還できたとしても、私はやはり君に会いたい。

だから、ウェルミールへ戻ったら異次元魔術の研究を始める。

転移を確立し、必ず君に会いに行く。

それがどれほど長い年月になるとしても

どうか、待っていてくれ。

アレリア・ブラッドリィ』


手紙を読み終えたつばきの胸に、

じんわりと温かなものが広がっていく。


「……何よ……」 



「アレリアったら……

やっぱり、私がいなきゃダメじゃない……!」


「つばきちゃん……大丈夫……?」


ひよりが心配そうに声をかける。

だが、つばきは顔を上げた。


「……!思いついたわ」


「……へ?」


「“待ってろ”ですって?“長い年月”ですって?」


にやりと笑う。

「こっちから行ってやるのよ」


「……えええ?」


「ひより!アンタ言ったわよね?

ドール集め、今度は私のために協力するって!」


「え、うん……!」


「だったら決まりよ!

ドールを集めて、今度は私達がウェルミールへ行く!」



「アレリアを、びっくりさせてやるんだから!

“待つ側”なんて、私の性に合わないのよ!」


「……!うん!つばきちゃん!

私もいっぱい協力する!」


「また会えるんだ……

ガロスさんに、セリアさんに、コーさんに……

そして、アレリアさんに!」


「僕も協力するのだ!!」


「やはり、つばき様は……

どんな困難も乗り越える、立派な魔法少女ですぞ!」


つばきは大きく腕を振り上げた。


「そうと決まれば、さっそくよ!

来なさい怪人――!」


その声は、以前よりもずっと強かった。

トーキョーでも

新たな目標が、始まろうとしていた。

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