第51話 絶対絶命!?闇に染まる惑星ドール
アレリアはマジェスタリアの残した黒い気配を追っていた。
星々を渡り、闇を切り裂くように飛ぶその姿は、まさに“勇者”の名にふさわしかった。
ラブリーの魔力がブレイブへと変わり、
柔らかな光は鋭く金色に輝く刃となって全身を包む。
胸の奥に宿る決意が、鼓動のように魔力を脈打たせていた。
やがて――長い航行の果てに、アレリアはついに惑星ドールへと辿り着く。
「ここが……チュチュ、君の故郷か。」
「あ、ああ……うわあああ!!ひ、酷いのだぁ!!」
目の前に広がるのは、チュチュやクナギが語っていた希望の星の面影など一切ない、荒廃した世界。
空は煤け、黒い瘴気が雲のように渦を巻き、
人々や使い魔たちはまるで魂を抜かれたように、虚ろな目で立ち尽くしていた。
「みんな!しっかりするのだ!!」
叫ぶチュチュの声も虚空に溶けていく。
アレリアは聖剣を構え、周囲に目を配る。
「マジェスタリアを探すぞ。
彼女さえ止めれば、この闇もきっと解けるはずだ。」
そう言い、剣を強く握ったその時――
どこからか嗚咽まじりの声が聞こえた。
「ああ……私のせいだ……私が悪いのだ……」
アレリアが声の方へ振り向くと、そこには、
ぼろぼろのローブをまとった初老の魔法使いが膝をつき、杖を握ったまま震えていた。
「……魔女……?いや、違う……男……」
「ま、魔法使い様なのだ!!ご無事で!!」
チュチュの叫びに、アレリアは警戒を解き、静かに近づく。
光を帯びた手で男の肩に触れると、その身体から微かに光が溢れ、濁った瞳に一瞬の理性が戻った。
「……夢か……?いや……違う……
マジェスタリアの侵略を……止められなかった……私は……」
アレリアは静かにその手を握り返す。
「あなたは誰だ?」
「……私は、この惑星の魔法使いだ。
正気に戻してくれて……ありがとう……だが、もう手遅れだ。」
「何やら訳ありのようだが、簡潔に話してくれ。
マジェスタリアと関係があるのか?」
魔法使いは、深く息を吐きながら語り始めた。
マジェスタリアの正体。
ゾーイという魔人の存在。
そして、なぜトーキョーに“魔法少女”が生まれたのか
その真実を。
アレリアは一言も挟まず、黙って聞き続けた。
その瞳には、理解と怒り、そしてわずかな哀しみが滲んでいた。
「……そうか……つまり、
全ては抑止力としての魔法少女計画……」
アレリアの声は低く震えていた。
魔法使いはうなずき、かすれた声で答える。
「……ああ……君が、その選ばれし者か。
よくぞここまで辿り着いてくれた……本当に、ありがとう……」
だが、その言葉が終わるよりも早く――
ガッ!!
アレリアは男の襟元を掴み、そのまま持ち上げた。
「貴様らが……!欲をかいてマジェスタリアを酷使し、
その結果がこの惨状だろうが!!」
男は目を見開き、息を詰まらせる。
「封印だの、計画だの……!
そんな小細工で解決した気になって……
何一つ、救えていない!!
マジェスタリアに申し訳ないと思わなかったのか!?
お前たちは!!」
「ア、アレリア!落ち着くのだ!!」
慌ててチュチュが止めに入る。
魔法使いは苦しげに咳き込みながら、それでも答えた。
「す……すまない……彼女は、人々に讃えられ……
喜んでいるように見えたのだ。
私たちは……てっきり、彼女がそれを望んでいるのだと……」
「アレリア……この人は悪くないのだ……」
アレリアは目を閉じ、拳をゆっくり下ろす。
「……それでも。過ぎた欲は、いずれ身を滅ぼす。」
その瞬間――
『……まったく。その通りだわ。』
空気が凍りついた。
「!?」
振り向いたアレリアの背後――
いつの間にか、黒い霧が形を取り、
その中心にマジェスタリアが立っていた。
しかし、以前のような巨大な魔神の姿ではない。
今は人間ほどの背丈。
漆黒のドレスに包まれた肢体、冷たく笑う唇。
『ようこそ……惑星ドールへ。』
ゆっくりと歩み寄るマジェスタリアの瞳が、妖しく光る
「マ…マジェスタリア……すまない……!仕方なかったんだ……!」
震える声で魔法使いが懇願する。
だが、それを聞いたマジェスタリアの瞳は、氷のように冷たかった。
『クソジジイ……何十年も……閉じ込めておいて……よく言うわね。』
ひらりと手をかざす。
ズバンッ!!
赤黒い鎖が空間から生まれ、魔法使いの身体に巻きつき、締めつける。
「ぐっ……あ……!」
「マジェスタリア!やめろ!!」
「そうなのだ!!やめるのだ!!」
『よく見ておきなさい、クソジジイ。
お前が長年かけて“仕込んだ”魔法少女が、
どう絶望に沈むかを……この目でね。』
「くっ……!ま、魔法少女の……者よ……どうか……」
「言われなくとも分かっている。」
アレリアが一歩踏み出す。
彼女のオーラは、金色の焔のようにゆらめいていた。
マジェスタリアの視線が、チュチュに向く。
『懐かしい場所でしょう? ねぇ、チュチュ。』
「…………」
『あら……無視?悲しいわねぇ……』
チュチュの震える背を見て、アレリアが静かに口を開く。
「マジェスタリア。話をさせてくれ。
君と、理解したいことがある。」
キィィィィィンッ!!
返事代わりに襲いかかる強烈な精神攻撃。
アレリアの脳裏に
仲間達が罵倒し
裏切り
剣を向けてくる悪夢が再び押し寄せる。
だがアレリアは、
「フッ!!」
その場で魔力を爆ぜさせ、悪夢を吹き飛ばした。
『……へぇ。随分と強くなったじゃない。』
「魔法少女は“感情”で強くなる。メテオマンとやらに色々と学ばせて貰った。」
アレリアの胸から放たれる魔力がさらに濃くなる。
勇気の炎が、金色の光を強めていた。
マジェスタリアも笑う。
『ふふ……そうね
こちらも同じよ。』
彼女は両手を地面へつけた。
ズズズズズ……
「……!?何をするつもりだ……」
『魔法少女の力も、私の魔法も……この惑星が源。
せっかくここまで来てくれたんだもの……
“本気”を出すわ。』
「やめろ、マジェスタリア!!
つばきも言っていた!君は……寂しかったんだろう!!」
『その裏切り者の名前を……ここで出すなぁあああああ!!!』
瞬間、地面全体が黒く染まる。
そこから――
ズババババッ!!
無数の巨大な“黒い手”が一斉に飛び出した。
「くそッ!!マジェスタリア!!」
「うぐっ……た、助け……!」
魔法使いは手に掴まれ、そのまま地面へ吸い込まれていく。
それは魔法使いだけではなかった。
街の建物。
怯えていた住民たち。
絶望に伏していた使い魔たち。
そのすべてが――
黒い手に捕らえられ、地面の闇へ飲み込まれていく。
「ここは危ないのだ!!」
「分かってる!!」
アレリアはチュチュを抱え、
凄まじい勢いで空へと飛び上がった。
ギュオォォォン!!
真っ黒な大地を眼下に、
アレリアは歯を噛み締める。
舞台は――再び、宇宙へ。
惑星ドールが黒い霧に覆われていく。
しかし今は違う。
「………惑星と一体になったか。
これは……魔王以上の脅威だな。」
アレリアが呟く声は、宇宙空間に沈むほど低く重かった。
惑星ドール全体が禍々しい黒に染まり、
表面には巨大な“顔”が浮かび上がっていた。
――マジェスタリアの、絶望と狂気が混じった顔だ。
瞳は赤黒く輝き、笑みが広がっている。
『アハハハハハ!!
惑星どころか……この宇宙すべてを支配してやる!!!
誰も私を止められない!!!』
チュチュはすくみ上がり、アレリアの肩にしがみついた。
「ひッ……!あ、アレリア……か、勝てるのかのだ……?!!」
アレリアは、惑星規模となったマジェスタリアを見据えたまま言った。
「勝てるかどうか……じゃない。」
「えっ……?」
「そもそも――私は勝つつもりはない。
救うつもりだ。……つばきとの約束だからな。」
アレリアの声は、揺るぎがなかった。
惑星ひとつ飲み込んでなお飢える絶望。
宇宙にまで広がろうとする狂気。
その中心に、まだ、誰かを求めて泣いている少女がいる。
「そ、そうなのだ……!
でも……でも、あれは……!」
チュチュは震えが止まらない。
あの規模の魔力は、惑星ドールの魔力そのものを逆流させている。
普通なら近づくだけで破裂しかねない。
しかしアレリアは一切迷わなかった。
「チュチュ……つばきはあの化け物と精神ひとつで戦っていたんだ。
……大丈夫だ。私なら必ず辿り着ける。」
自分を――仲間を――世界を――裏切りたくない。
その一心で、アレリアは聖剣を握り直す。
ブレイブの魔力が、金色の炎となって全身にまとわりつく。
宇宙空間すら震わせるほどの力。
「待っていろ……マジェスタリア。
君の涙も、私が拾う」
アレリアが宇宙に向かって飛び出した瞬間。
惑星ドール全体が彼女に気づき、
巨大な目がゆっくり動いて向けられる。
『……来たわね、アレリア。
勇者……私の絶望の世界へようこそ……!』
次の瞬間、惑星全体が咆哮をあげた。
宇宙戦争のような激震が広がる。
それでもアレリアは迷わず突っ込んでいった。




