第49話 マジェスタリアに負けるなつばき!怒りの抵抗!
抵抗するつばき。
マジェスタリアと精神を釣り合わせるように、強く引き合っていた。
「ぐぬぬぬぬぬぬ!!」
『くっ……しつこいっ!!』
「アンタこそ……っ!!」
二人の精神がぶつかり合う。
『つばきちゃん……貴方は私に身を委ねておけばいいのよ。
だって貴方は、私。私が貴方。ひとつになれば楽になれるのよ……』
「……そうね、確かに似た者同士だわ……アンタの記憶、
ゴリゴリ頭に流れ込んできてるから!」
つばきの眉が震えた。
その光景――
誰にも頼らず、必死に頑張る少女の姿。
マジェスタリアの過去だった。
「なんで……辛かったのに、誰にも助けを求めなかったのよ!!
最初は頼れそうな人たち、いたじゃない!!
この“承認欲求女”!! ……私そっくりよ!!」
『ぐっ……ぐぐぐぐっ……!! 貴様ぁぁぁああ!!』
マジェスタリアの中には、確かにかつての友はいた。
心配してくれる仲間もいた。
それでも――彼女は言えなかった。
みんなが褒めてくれる。
特別な存在になれる。
だから自分ひとりでやり遂げたい――
若き日のマジェスタリアは、その欲に溺れていった。
「特別な存在になれて……嬉しかったんでしょ?
でも、途中で怖くなったのよね。
もう助けを求められない……
引くに引けなくなっただけじゃない!」
つばきは叫ぶ。
「情けないわね!!だったらこの私が――!!」
『黙れぇっ!!貴様に何がわかる!!
今度こそ取り込んでやる!!!』
「ぐうぅぅぅぅっ!!」
つばきの精神に、黒い鎖が絡みつく。
意識の内側から声が聞こえてくる
それは洗脳というより強制に近い。
『つばきちゃん……貴方は結局ひとりぼっちなの。
皆、貴方のことなんてどうでもいい。
見なさい、この世界に誰が助けに来てくれるっていうの?
貴方は…私だけいればいいの。』
「私は……一人……?」
視界がぐにゃりと歪む。
心が押しつぶされそうになる。
その時――
惑星の方向から、まぶしい光が射した。
ギュウウウウウウウウンッ!!
「私は……一人じゃない!!!」
眩い光の中、アレリアが一直線に飛来する。
彼女の背中には、チュチュとクナギがしがみついていた。
「つばき!!! 今行くぞ!!!」
「たたたた助けにきたのだぁぁ!!」
「おおお待ちさせましたぞぉぉ!!!」
「……アレリア!アンタ達……っ!」
つばきが震える声をあげた、その瞬間――
マジェスタリアの冷たい声が再び心を侵食する。
『怒りなさい……!皆、貴方を裏切ったのよ……!!』
黒い感情が血のように脈打ち、全身を巡っていく。
吐息すら熱く、心の奥が煮えたぎる。
つばきの瞳が、妖しく輝いた。
無理やり憎しみや怒りを呼び覚まされ
再び取り込まれようとしていた。
(許せない……!)
(陽翔を奪った、ひよりが……!!)
(許せない……!助けてやってるのに、讃えるだけの街の人々が!!)
(許せない……! 散々私を利用した使い魔たちが!!)
(許せない……!!私の気持ちも知らず、帰ろうとするアレリアが……!!!)
ズズズズズズッ――!!
怒りのオーラが、つばきの体を飲み込む。
「つばき!!!」
アレリアが叫び、一直線に彼女の元へと飛び込む。
しかし――
「黙れぇぇぇぇぇえっ!!!」
つばきの手が閃く。
「アンガー☆ダークネス!!」
漆黒の魔力が弾けた。
紫電を帯びた暗黒の奔流が、夜空を裂くようにアレリアへと襲いかかる。
「やばいのだっ!!」
「チュチュ、クナギ!! 私に捕まれ!!」
アレリアは二匹を抱き寄せ、全身に魔力を集中させる。
「ブレイブ☆バリヤー!!」
黄金の光が弾け、巨大なエネルギーの盾が展開される。
ギィィィィィン――!!!
黒と金、二つのエネルギーが衝突。
空が震え、光と闇が渦を巻く。
「ほっといてよ!!さっさと帰って!!!」
叫びながら、つばきの頬を一筋の涙が伝った。
その涙が光となって弾け、彼女の攻撃と共に――
アレリアの胸へ、つばきの感情が流れ込む。
(……やだ……淋しい……)
(せっかく、一緒にいられるようになったのに……)
(やっぱり……私、一人なの……?)
「……つばき……」
アレリアの瞳が揺れる。
つばきは、名家の娘として厳しく育てられた。
両親は多忙で、甘えたい時にそばにはいなかった。
姉も家を継ぐために常に忙しく、
つばきとゆっくり過ごせる日など、指折り数えるほどしかなかった。
だから――
つばきは「強くあらねば」と自分に言い聞かせた。
誰にも頼らず、完璧でいなければならない。
周囲がそう望むから。
そうしなければ、誰からも認めてもらえないと思っていた。
けれど、本当は違った。
本当は、誰かに甘えたかった。
自分よりも優しく、温かく、
心の底から「頑張ったね」と言ってくれる存在に。
皮肉なことに、異界から来たアレリアの転移は
つばきにとって救いとなっていた。
誰よりもまっすぐで、誰よりも他人を思える存在。
彼女と出会って、初めて“心の拠り所”ができたのだ。
「アレリア……どうして……行っちゃうの……」
その声は、戦いの喧騒の中でかすかに震えていた。
アレリアの胸に、温かな痛みが広がる。
『そうよ……アレリアは酷い奴よね? 彼女が帰れば、再び貴方は独り。
助けを求めても、誰も来ない。
私以外、誰も貴方を理解しない――』
「う……ううっ……!!」
胸の奥を掴まれるような痛み。
強烈な孤独感がつばきを締めつけ、
同時にマジェスタリアの声だけが
どこか安心できるものに感じ始めていた。
まるで、冷たい闇に差し出された唯一の手のように。
『だから――つばきちゃん。
貴方は、私のものになりなさい……!』
黒い触手のような魔力が蠢き、つばきの身体をゆっくりと包み込む。
肌を這うその闇は、まるで心の奥の不安や絶望を形にしたかのようだった。
意識が沈んでいく。
瞳から光が薄れ、唇が震える。
(……誰も……いない……)
最後の一筋の理性が、かすれた声となって漏れる。
「アレリア……助けて……」
その声は――
弱々しく、けれど確かに、闇の中を貫いた。
ガシッ!!
「――ああ、もちろんだ。」
アンガー☆ダークネスの奔流を切り裂き、
アレリアは全身でつばきを抱きしめた。
黄金と紅、二つの光が重なり合う。
それは、勇者の勇気と、少女の怒りが共鳴する瞬間だった。
「アレリア……クナギ……チュチュ……」
虚ろな目で、つばきはゆっくりとアレリアを見た。
その瞳には、戦いの疲労と、心の傷の深さが滲んでいた。
「つばき……君は、私が来るまで……ずっと一人で戦ってきたのだな
本当にすまない……君の気持ちが、ここまで辛いものだったとは……
つばき……君が望むなら、私はここに残る!!
君のそばにいる……だから、それ以上堕ちてはだめだ!」
「わ、わたしもいますぞ!!」
「ぼ、僕もなのだ!!一緒にいるのだっ!!」
アレリアの言葉に、チュチュとクナギも声を重ねた。
マジェスタリアによって押し込められた負の感情が、
少しずつほぐれていく。
「よく…頑張ったな。つばき…」
アレリアは手を差し出し、つばきの手をそっと包み込む。
その瞬間、彼女の心の中へ
温もりが流れ込んでいった。
「う…うわあああああんんん!!!」
「もうっ…まっだぐ!!…おぞいんだがらぁ……っ!!」
「ざみじがっだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
大声で泣きじゃくるつばき。
溜め込んでいた怒りも悲しみも、
涙と一緒に溶けていくようだった。
負のオーラは次第に薄れ、
禍々しかった衣装も、
いつもの魔法少女の服へと戻っていく。
アレリアは彼女をしっかり抱きとめ、
その背を優しく撫でながら、静かに言った。
「……良かった……本当に……」
チュチュは涙をぬぐいながら叫んだ。
「よがっだのだぁぁぁ!!つばきちゃぁぁぁぁん!!」
クナギも鼻をすすりながら頷く。
「お、お帰りなさいませ…!!つばき様……!!」
惑星を覆い尽くしてた霧が、ゆっくりと晴れていく。
まるで、つばきの心の中に光が差し込むかのように――。
『裏切ったなぁ!!つばきぃ!!』
ジュワッ!!
「うっ!」
つばきの身体から勢いよく飛び出すマジェスタリア
魔女の姿は瞬く間に再び巨大化し、周囲を覆い尽くした。
『貴様だけは分かってくれると思ってた…!もういい!私一人で十分だ!!
この惑星も、惑星ドールも、絶望の淵へ叩き落としてやる!』
「しつこい奴だな……」
『威勢がいいのも今のうちだ』
マジェスタリアが目をギラリと光らせる。
アレリアは直感で察知した。
「何をしたんだ!」
『お前らの惑星、トーキョー周辺に、ドール怪人をより強力にして解き放った。
数は500以上になっているだろう』
「!? 何だと……!」
『まずは私は惑星ドールへ戻る。そこで徹底的に絶望をまき散らす。
お前たちも二度と復活できないよう、徹底的に叩き潰してやる』
ブワッ!!
目にも留まらぬ速さで、マジェスタリアは飛び去っていった。
「二つの惑星が……しかし、まずはトーキョーからだ!」
アレリアがトーキョーへ向かおうとしたそのとき、つばきとクナギが叫んだ。
「アレリア!トーキョーは私とクナギに任せなさい!」
「ですぞ!」
「つばき……!」
アレリアが名を呼ぶと、つばきはきっぱりと振り返った。
「怪人は魔法少女の仕事よ!アンタは勇者でしょ、マジェスタリアを頼むわ!」
「……任せろ。」
アレリアは短く応じたが、その表情にはまだ迷いがあった。
すると、つばきは少しだけ優しい声で続けた。
「それと……できれば、マジェスタリアも助けてあげて。
あの子もずっと一人で頑張ってたのに、報われなくて、封印されてたんだから。
お願い!私を助けたように、彼女も救ってあげて!」
アレリアは一瞬だけ目を閉じ、静かに頷く。
「なるほどな……大丈夫だ、必ず救う。
つばき、この戦いが終わったら――」
「そんなベタなフラグみたいなセリフ言うやつがどこにいるのよ!
私は大丈夫よ!アンタはこの戦いが終わったら、ちゃんと自分の世界を救ってあげなさい!そっちに帰らなきゃ困るんでしょ!まったくもう!」
「……ふふ、君には敵わないな。」
「当たり前でしょ!きーーっ!こうなったら憂さ晴らししてやるわ!!行くわよ、クナギ!!」
「どこまでもお供しますぞ!!」
ギュオォン――!
つばきとクナギはトーキョーの方角へ飛び立った。
アレリアはその姿を見送り、静かに聖剣を握りしめる。
「チュチュ……私たちも行くぞ。マジェスタリアを…救いに。」
「もちろんなのだ!!」
ギュオンッ!
それぞれの目的を胸に、二つの光が別々の方向へ飛び立つ。
トーキョーと惑星ドール。
二つの世界を救うための、最後の戦いが始まろうとしていた。




