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第四十六話 決戦前日

マーキスク教会にて


会議室の中央――

長い円卓を挟み、剣議卿たちが沈痛な面持ちで座している。


その中で、報告を受けたサマエルが呆然とつぶやいた。


「……い、今……なんと……?」


答えたのは、冷静な声のフリードリヒ。

「何度も言わせるな。――ゼルハザの襲撃だ。

我がドーツルの兵、数百名が戦死……そして、コー殿が討たれた。

お主が援軍を遅らせたことで、被害は拡大した可能性がある。」


「……っ!!」


サマエルの膝が砕けるように折れ、床に崩れ落ちた。

硬い大理石にぶつかる音が、静まり返った聖堂に響く。


「コー殿……?セリア殿に続いて……あの不屈の男が……なぜ……

なぜだ……聖剣の加護は……ウィール様……?」


沈黙が落ちたその場に、エドマールの冷静な声が響く。

「サマエル……教会内の対立はもはや限界に近い。

お前の派閥は追い詰められているぞ。」


「……そんなはずでは……私は……人類の信仰を守るために……!」


「だが結果として守れなかった。

お前が拒んだ援軍。その判断が、一人の英雄を殺したのだ。」


荘厳な会議堂。

円卓の中央には聖剣の紋章が刻まれ、

周囲には重厚な法衣をまとった剣議卿たちが並ぶ。


その中央、威厳と静寂を併せ持つ男――

大剣皇ロヴ・マグヌスが静かに座していた。


イザベラは今にも泣き出しそうな表情で口を開く。

「……ゼルハザの襲撃で、ドーツルの陣が壊滅……

コー殿が戦死されたのは……痛ましい限りです。」


フリードリヒが腕を組み、険しい表情で続けた。

「我が軍の損耗も甚大だ。最前線の兵たちは壊滅に近い。」


「……ッ」

サマエルは唇を噛みしめ、震える声を上げた。


「お言葉ですが、フリードリヒ卿!!

私は人類の信仰を守るために行動したのです!

聖剣を抜かぬ者が“代行人”を名乗るなど神への冒涜!!

それを許せば、聖剣教会そのものの理念が崩れ去るのです!!」


だが、イザベラは毅然とした声で返す。

「理念で民が救えますか?

代行人がいなければ、今ごろ人類は壊滅していたでしょう。」


場の空気が張り詰める。

フリードリヒが椅子を軋ませて立ち上がった。


「我々が論じているのは信仰ではなく現実だ。

ヨーレ殿がいなければ、信じる者すらもう残らなかったかもしれん」


サマエルは血走った目で立ち上がり、机を叩いた。

その声は、議場全体を震わせるほどの迫力を持っていた。


「では問おう!!

神なき希望に、いったいどんな価値がある!?


この絶望の時代に、家族すら信じられず、

隣人の死体が転がっていても誰も目を向けなかった……そんな時代に!


伝統!文化!信仰!

それらにすがり、誰かを、何かを“信じる力”がなければ――

人類など、魔王が現れる前にとっくに滅んでいたはずだ!!」


議場がざわめく。

その叫びには狂気ではなく、純粋な信仰と信念が混じっていた。


しかし、イザベラは目を伏せ、静かに言葉を紡ぐ。


「それでは、なぜソリアレスは滅んだのですか?」


「なに……?」


イザベラはゆっくりと顔を上げ、サマエルを真っ直ぐに見据えた。


「もし伝統や文化、信仰こそが絶対の支えならば、

かつての太陽神の教えは今も残っているはずです。

けれど……人々はそれを手放し、新しい時代を選びました。」


「……それは……かつての信仰では、“魔王”という脅威を救えなかったからだ。」


「そうです。」


「価値観も文化も、時代によって変化するのです。

今、まさにその変化の渦中に、私たちはいるのです。」


「いや…しかし…」


「サマエル殿。貴方の信念を否定するつもりはありません。

むしろ、貴方の信仰に救われた人々が多くいたことも知っています。


私たちは聖剣を否定するのではないのです。

その意味を、次の時代にどう引き継ぐかを考えているだけ。

聖剣の解釈を、再認識する、ただそれだけです」



会議堂が静まり返る。

緊張に包まれた空気の中

ついに、中央に座していたロヴ・マグヌスが、ゆっくりと口を開いた。


「……もうよい。」


低く、重い声。

その一言で、全員が息を呑む。


「サマエル。お前の信仰心は疑っておらぬ。

だが――」



「ヨーレ…異界より来たりし少女。

ウィール・マルシャ様の禁断の術――“異次元干渉”によってこの地に呼ばれた者。

アレリア殿がそうであったように……ヨーレもまた異界の力を継ぐ存在だ。」

まるで神の裁きのように空気を震わせた。


「彼女の存在こそ、聖剣が選んだもう一つの奇跡。

私はそう、認識しておる」


「大剣皇……そんな……!」

サマエルは愕然とし、膝をついたまま顔を上げることもできなかった。


ヨーレの存在が

正式に、教会の意志として認められた瞬間だった。


「フリードリヒはドーツルにて指揮を。

エドマールは各国への支援の斡旋を。

イザベラとサマエルは市民の治安維持、そして混乱の沈静化を――」


大剣皇ロヴ・マグヌスの声が、荘厳な会議堂に重く響いた。

「……ここが人類の正念場だ。すべての力を一つにせよ。」


その一言を合図に、剣議卿たちは一斉に席を立ち、それぞれの任務へと散っていった。


ただ一人――サマエルだけが、その場に膝をついたまま動けなかった。

彼の心は、信仰と後悔の狭間で崩れ落ちていた。


「……なぜ……私は……」


その肩に、柔らかな声がかかる。

「サマエル殿……行きましょう。」


振り返ると、そこにはイザベラがいた。

深い悲しみを湛えた瞳で、しかし確かな強さを宿していた。


「今はそうしていられる時間もありません。

貴方は不服でしょうが……今こそ、人類が力を合わせる時です。」


「………………」


信仰ではなく責任――

それこそが、今の彼に課せられた罰だった。


ーーーー


数週間後 ドーツル国


瓦礫と再建の入り混じる戦地。

灰色の空の下、補給と魔導兵器が絶え間なく行き交う。


「――ということがあってだな、ガロス。」


「なるほど……それで、これほどの援軍がようやく来てくれたわけですか。」


「そうだ、皮肉にも……コー殿の戦死が、決定を早めたのだ。」


「……そうですか。」


ガロスは唇を結び、拳を握る。

「なにはともあれ、助かります。

明日には人類の命運が決まりますから。」


フリードリヒは静かに頷いた。

「心得ている。だからこそ、ありったけの兵を呼び寄せた。

……前線は、頼んだぞ。ガロス・グレンハルト。」



「もちろんです。必ず、やり遂げます。」


ドーツル国…その大地に、

今や各国から選りすぐられた戦士と魔導士たちが集結していた。


誰もがわかっていた

今日で全てが決まる、と。



「ガロスさん!失礼します!」

一人の憲兵が駆け寄り、息を切らせながら報告する。


「おう、どうした?」


「改良型の大斧が完成しました!出力は以前の比ではありません!」


「間に合ったか、ありがとな。」


「はい。セリアさんの技術提供のおかげです。

これにより武器や道具に安定して術式を刻めるようになりました。

すでに各色の兵へ配備済みです。」


「ほう……あいつ、そんな研究をしてたのか。

コソコソ何をしてると思えば……まったく、偉いもんだな。」


「はい。

どうやら異界の魔術の応用が鍵になったようで……

それと、セリアさんの遺書に“これをヨーレ様へ渡してほしい”と記されておりました。」


「……ヨーレに?」



ドーツル高台にて


夕日が沈みかけ、赤く染まる空の下。

ひよりは一人、戦場を見下ろしていた。


「よう……ひより。調子はどうだ?」


「あ、ガロスさん……少し緊張してますけど、大丈夫です。」


「そうか……」

ガロスはしばらく黙って空を見上げ、

ふと、口の端を歪めた。


「ひより……すまねぇな、俺は冷酷な指揮官だ。

明日、お前を魔王の元へ送る……血も涙もねぇ冷てぇやつだよ。」


その声には、これまで誰にも見せたことのない疲労と哀しみが滲んでいた。

彼の背中が、ほんの少しだけ弱く見えた。


「ガロスさん……そんなこと言わないでください!」


「ひより……」


「うまく言えませんけど……

ガロスさんは、セリアさんやコーさんを失って、

私なんかよりずっと辛いはずです。

それでも……ずっと前を向いて、戦ってて……」


ひよりの瞳がじわりと潤む。


「そんな頑張ってる人が、

“しんどい思い”をするのは……私、見たくないです。

私は……ガロスさんに出会えて、本当に良かった。

最初は何もできなかった私を、ここまで引っ張ってくれたのは――

ガロスさん達なんです。

だから……私も、絶対に頑張ります!

ガロスさんも……一緒に、頑張りましょう!」


沈黙のあと――

ガロスはゆっくり笑った。


「……はっ。そうだな。あともう一踏ん張りだ。

すまねぇな、ありがたい言葉をよ。

まったく……“ヨーレ様”に救われちまった。」


「ふふ……救うのは、これからですもんね。」


「だな。それと…これを渡しておく。セリアからだ。」


「……? なんでしょう?」


ガロスは革袋を取り出し、そっと差し出した。

ひよりが中をのぞくと――


そこには、ピンク色のフリルがついた衣装が丁寧に畳まれていた。


「これ……消えたと思ってた……」


――転移の時、ひよりが身に着けていた魔法少女の服。


懐かしさと、胸を締め付けるような想いが込み上げる。

あの頃の自分が、遠い記憶になっていたことに気づかされた。


「……セリアさん、ありがとう……」


ひよりは静かに衣装を抱きしめ、

涙を淡く輝かせていた。



「その服にも魔力強化が編み込んであるんだとよ。

……まぁ、魔女のご加護だな。

人類を救うぞ、魔法少女としてな。」


「はい……!

魔法少女ラブリー☆ガール・ひよりは必ず、魔王を倒します!!」



翌日 ドーツル国外・前線基地


夜明け前。

荒野に立ち込める霧の中で、数千の兵が整列していた。

それぞれの顔に、覚悟と緊張が刻まれている。


今日――この戦で、すべてが終わる。


「ヨーレは魔王と一騎打ちで戦う!

外野は俺ですら足手まといだ!

俺と結界使いはゼルハザの足止めに専念!

他の者は周囲の魔物を討伐しろ!!」


「おおおおおーー!!!」


ガロスの号令に、兵たちが一斉に咆哮を上げる。

その響きが戦場全体に広がった。


準備を終え、各部隊が配置につく。


「ガロスさん!お久しぶりです!」

駆け寄ってきた青年に、ガロスは目を細める。


「おお……ウーリスじゃねぇか。

お前もすっかり出世したな。」


「今日はよろしくお願いします。

俺もこの戦場で戦う覚悟はできています!それに彼も。」


ウーリスの隣に、もう一人の青年が現れる。


「ロベルトです……お久しぶりです、ガロスさん。」


「お前ら……ネイヴ戦で一緒だったな。

あの時、結界で俺達を救ってくれた二人か。

今日も頼むぞ。」


「はい!」


ガロスが見渡すと、そこには懐かしい顔ぶれが並んでいた。

同僚、部下、先輩、後輩――

皆、それぞれの想いを胸に、最後の戦場へと立っていた。


「……本当に、助かるぜ。」

ガロスは小さく息を吐く。


「これより――突撃を開始する!」


「お前ら、今日は人類が勝つ日だ!!

気を引き締めろッ!!」


「おおおおおおおおおおおおお!!!」


鼓動のような歓声が荒野に響く。



ガロスが後方を振り返ると、そこにひよりがいた。

彼女は静かに頷く。

その身を包むのはかつてトーキョーで纏っていた、ピンクの魔法少女衣装と杖。

その上から、セリアの白いフードを被っていた。


「決まってるな……ひより。」



彼自身も、左腕にはコーの腕巻きを結びつけていた。

それぞれが、仲間の意志を継ぎ、戦うために――。


「ヨーレ……お前は飛行で城に向かえ。

そして魔王に、一発食らわせてやれ。」


「はい……!」


こうして…

最後の戦いが、静かに幕を開けた。



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