表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/62

第39話 すれ違う心、譲れぬ恋、託された想い

陽翔からの遊びの連絡を受け、つばきは自宅へ招待することにした。

その日、敷地内は朝からドタバタしていた。


「わーーー!寝坊よ!!なんでこんな時に限って!!」

慌てふためきながら身支度を整えるつばき。


一方で、すでに準備を終えていたアレリアは落ち着き払っていた。

「まったく……訪問の日に備えができていないとはな」


「今は言い争ってる暇ないの!!……って、その格好、アンタ一人で着替えたの?」


アレリアはシンプルながらもおしゃれな服装を身にまとっていた。

高級ではないが、細部に気が配られたコーディネートだ。


「どう見られれば違和感がないか理解するのに苦労したが……理解してみれば案外いいものだ」


「……相変わらず要領いいのね」


「つばき様!髪のセットは私にお任せください!」


「おおお……!た、頼むわ!」


ドタバタの準備は続く。

そして――お昼過ぎには、いよいよ陽翔がやって来る。


つばきにとって、大切な一日が始まろうとしていた。



屋敷の門前。

手土産を手にした陽翔の姿があった。


「お待ちしておりました……陽翔様。どうぞこちらへ」

執事が深々と頭を下げ、丁寧に案内する。


「う、うひゃ〜……すごい家……」

圧倒されながらも靴を脱ぎ、磨かれた玄関の大理石を踏む。


長い廊下を抜けると、そこには——


「陽翔くーん!!ようこそ!!」

明るく手を振るつばきの声が響いた。


「お待ちしておりましたぞ!」

クナギも元気にお辞儀をする。


その少し奥、紅茶を手に座っていたアレリアとチュチュが静かに出迎える。


「元気にしていたか?」

「なのだ!」


盛大な歓迎に、陽翔は少し頬をかきながら笑う。


「なんか……すごいところに来ちゃったみたいだな、はは……」


柔らかな光が差し込む豪華なリビング。

空気はどこか張り詰めているようで、けれど温かい。


屋敷の門が閉じ、静けさが戻る午後。

テーブルの上には空になった皿とティーカップ。

笑い声が絶えなかった時間の余韻がまだ漂っていた。


「あ、つばきちゃん…今日はありがとうね。これ、つまらないものだけど」


陽翔が差し出したのは、上品な箱に詰められたデパートのクッキー。

手渡しながら、少し照れたように笑う。


「ああぁ!!ありがとう!!陽翔くん!!これは飾っておくわ!」


「いや、食べてくれたら嬉しいな」


「そ、そうね……と、とりあえず食事にしましょう!」


昼食


3人と2匹はダイニングへ。

一流のシェフが振る舞うコース料理が並ぶ。

スープの香り、焼きたてのパン、丁寧な盛り付け。


「う……うまい……初めて食べた……」

陽翔は感動でフォークを止めた。


「ほほほ!そうでしょう!」



シネマルーム


食後は屋敷のシネマルームでゲーム大会。


「アレリア!追いつかれるのだ!」

「大丈夫だ。バナナを三つほど背負ってる。対策は万全だ」


「い、いつの間にそんなに上達してんのよ……」


「あはは、アレリアさん器用だなぁ」


アレリアは真面目に取り組みつつも、談笑を交えながら楽しんでいた。


そして少しして、アレリアが立ち上がる。


「つばき、私は少し鍛錬へ向かう。後は二人でやってくれ」


「えっ!?ちょっと!勝手な行動しないでよ!!」


「アレリアさん、なにもこんな時に……」


だがアレリアは、つばきの耳元で小さく囁いた。


「……つばき。二人にしてやるというのだ」


「……!?」


「そ、そうね!!アンタは日課の筋トレでもしてなさい!!行きましょう!陽翔くん!」


「え……?いいの?」


アレリアとチュチュが庭へ向かう。

静かに見送る背中は、どこか優しかった。


「アレリア……素敵な気遣いなのだ……」


「私は恋には無縁だったが……つばきにはちゃんと“権利”がある。………たとえどんな結果になろうとな」


「のだ?」


つばきの部屋。


扉を開けた瞬間、陽翔は思わず息をのむ。

壁いっぱいの装飾、観葉植物、ホテルのスイートルームそのもの。


「凄いなぁ……俺のリビングより広い……」

「い、いやいや!そんなこと……!」


つばきの鼓動が高鳴る。

(私……言うのよ……好きって……付き合ってって……言うの……!)


彼女の胸の奥で、恋と勇気が静かに火を灯していた。


静かな午後。

つばきの部屋には柔らかな紅茶の香りが漂っていた。


テーブルを挟んで向かい合う二人。

ティーカップから立ちのぼる湯気が、どこか落ち着いた空気を作り出していた。


「陽翔くんがあの時、交通事故から守ってくれたから私がいるわ!」


「それを言ったら、俺の方が怪人から助けられてるよ」


ふたりは笑い合いながら、過去の出来事を懐かしむ。

何気ない会話の中に、確かな絆があった。


「は、陽翔く……ん……」


「ん? どうしたの?」


「ちょっと……お話が……」


陽翔の瞳を正面から見据えながら、つばきの心臓はどくん、と大きく鳴った。


「う、うん……」


「私……ね」


その言葉を口にしようとした――その瞬間。


「つばき様!!すみません!お父様がお呼びでございます!!」


勢いよく扉が開く。


「!!えーー!?緊急なの?」


「はい! なにやら進路の話だそうで!」


「も〜〜!空気の読めないパパね!まったく!!!」


バタバタと立ち上がるつばき。


「陽翔くん!ごめん、少し外すわ!ちょっと適当にしてて!」


「あ、うん!」


ドタドタと足音が遠ざかっていく。


部屋に静けさが戻る。


「……何を言うつもりだったんだろうな……」


陽翔は小さくつぶやき、カップの中で冷めかけた紅茶を見つめた。

ふと、窓の外に目をやると、庭で何かを振り回す姿が見える。


「……アレリアさん?」


——庭では。


「はっ! はっ!」

重りをつけた剣で黙々と素振りを続けるアレリア。


その背後から、陽翔の声がした。


「アレリアさん、いつもこんな事してるのですね」


アレリアは剣を止め、振り返る。


「……陽翔か。ああ、習慣だからな」


静かな午後、もう一つの会話が始まろうとしていた。


「もう!まったく…!私の成績がどうとか今どうでもいいじゃない…!!今はもっと大事な場面なのよ!」

つばきはドタドタと廊下を歩く。


「つばき様…しかしなかなか成績が伸び悩みですぞ…」

クナギが控えめに言う。


「きーー!!いいじゃない!大体学校が朝の八時からあるのがおかしいのよ!午後1時からにしなさい!」


「むちゃくちゃです……」


慌ただしくも、再び決意をしようと自分の部屋へ


「陽翔くーん!帰ったよー!……ってあれ?いない…?どこに?」


窓際に駆け寄り、外を覗くつばき。

そこには、庭で真剣な顔をして話しているアレリアと陽翔の姿があった。


「えー…?何話してるのよ…」


「さぁ、私もわかりませんな」


つばきは気になって仕方なく、あえてコソコソと銅像の裏に身を潜めた。

クナギも慌てて後をついていく。


「二人あんなに親密にして……!気になるわね…!」


「むむむ…私も気になります」


銅像越しに、二人はそっと耳を澄ませた。


ーー


一方その頃、庭ではアレリアが陽翔に自らの過去を話していた。


「つまり……アレリアさんは……神と同等に扱われていたと……」

陽翔は難しい顔をして聞いていた。


「ああ……私はただ、自分の責務を全うしているだけだがな……正直、かなりの重荷だ」


「そうですか……」

陽翔は握った拳を膝の上に置き、俯いた。

アレリアの声には、戦場では決して見せなかった「人間としての重さ」が滲んでいた。



「……すまないな……こんなこと、君に言っても困るだけだろう」

アレリアは小さく息を吐きながら言った。


しかし陽翔は首を振る。

「でも、そう思いながら俺に話すってことは……それだけ思い詰めてたことですよね?」


「……ふっ……確かに。誰かに聞いてほしかったのかもしれぬ。勇者としての責任、矜持……一行の誰にも言えなかったことだ」


陽翔は少し笑みを浮かべて言う。

「なら……何も関係ない、ただの男子はどうですか?」


アレリアの口元が、初めてほんの少しだけ上がった。

「……そうだな。無関係な男子くらいには、愚痴を言ってもいいかもしれぬ……普段は決して言えぬことだからな」


「怪人に何かされない限りですね、笑」


「面白い冗談だな」


そのやりとりの間に、アレリアの胸の奥に溜まっていたものが、少しずつ解けていく。

この世界に来てから“勇者”という鎧を外すことができたのは、初めてかもしれなかった。

人間らしさを、少しだけ取り戻した気がした。


銅像の裏でつばきは感激していた


「う〜〜!陽翔くん…なんていい人なの!!素晴らしいわ!」


「アレリア様も色々とありますな…」


「私だって聞いてやるってのに…!まったく!」


引き続き会話を盗み聞きするつばき



「……それより、ひよりのことなのだが……」


「陽翔、ひよりは君にとって大切な人…なのか?」

アレリアの落ち着いた声が風に乗って届く。


「………はい……俺の幼馴染ですが………片思いの人でもあります。…まだ想いを伝えていませんが…」

陽翔の声は決意を秘めていた。


「……やはり…そうか……本当にすまない。必ずここへ連れて帰る…約束する」

アレリアは真剣に言い切った。


銅像の陰で聞いていたつばきは、息を呑んだ。

胸に鋭い痛みが走る。


「……え…?嘘……?」

小さな声が漏れる。


「つばき様……」

クナギも困惑し、つばきを見つめた。


つばきの指先は小刻みに震えていた。

胸は激しく脈打ち、息が詰まった。

心の奥に隠していた思いが、一瞬で踏み潰されたような感覚だった。

自分の気持ちを伝える前に、すべてを否定された気分──その場に立っていられなかった。


「………!!!」


せめてもの気遣い。

陽翔とアレリアに気づかれぬよう、つばきはコソコソと後ずさりし、その場を離れた。


しかし、アレリアだけはその一瞬を見逃さなかった。


(つばき……!?そこにいたのか……!!ということは、さっきの会話を……クソっ、なんてことを……!)


「ア、アレリアさん…どうかしました?」

陽翔が不思議そうに問う。


「……いや、なんでもない」

アレリアは表情を変えずに答えた。


チュチュも全てを察し、黙っていた。


ーーーー


屋敷に戻るなり、つばきは階段を駆け上がった。


ダッ!!


「つばき様…!!」


「来ないで!!今は一人にして!!もうどうでもいい!!」


バタンッ!!


扉を閉め、自室に飛び込むと、ベッドに顔を埋めてむせび泣いた。


「うっ……!うぅ!!なんで!!ひよりなの…!?私じゃないの……?!」


涙と嗚咽の中、次第に歪んだ考えも浮かんできた。


「そうだわ……アレリアのドール箱と私の合わせれば……願いが……これで陽翔くんと……ひよりの事はまたもう一回集め直して…大丈夫…うん。きっと大丈夫…あの子も強いし…もう少し待って貰えるはず…!」


しかし、その先の言葉は続かない。

拳を握り締めながら、つばきは頭を振った。


「うぅぅ!!うっ!出来ない!!嫌だ!!ひよりが帰ってこれないのも…!無理やり陽翔くんを奪うのも……!アレリアが帰れなくなるのも……!嫌だ…!!でも……なんで私だけ……こんな目に……」


つばきは悩んだ。

願いを私利私欲に使えば、たった一言で解決する。

だが、それは「正義の魔法少女」としての自分を壊すことでもあった。

その境界線に立ちながら、彼女は泣き続けた。


ーーーー


「そろそろ戻りましょうか!ボードゲームでもどうですか?」

陽翔が笑顔で提案する。


「いや……その、今は……」

アレリアは何とか陽翔を引き止めようとするが、言葉が続かない。


その時、廊下から慌ただしい足音が近づいてきた。


「二人共〜!!」

クナギがせかせかと駆け込んできた。


「す、すみません!! つばき様が体調不良で……本日はお引き取りを……」


「ええっ!!それは大変だ……何か、出来ることはあるかな?」

陽翔は心底心配そうに立ち上がる。


「えっ……と……少し休めば大丈夫でございます……!心配なさらず!」

クナギは必死に取り繕うように言った。


「………そうか、了解した」

アレリアは頷いたが、何か言いたげな表情を浮かべていた。


何も知らず心配する陽翔と、すべてを察しているアレリアとチュチュ。

3人の間に、重く冷たい空気が流れた。



夜も更けた頃。

アレリアは廊下の奥、つばきの部屋の前に静かに立っていた。

扉の隙間から漏れる灯りが、床に細い線を描いている。


コン、コン——。


「つばき……大丈夫か?」


少しの沈黙の後、

かすれた声が返ってきた。


「うっさい!!!!今は構わないで!!」


アレリアは短く息をつき、

「……分かった。何かあったら言ってくれ」

それだけ言い残して、静かにその場を離れた。


自室に戻ると、チュチュとクナギが待っていた。


「つばきちゃん……大丈夫かなのだ?」

チュチュがしゅんとした声でつぶやく。


「これに関しては……私もなんと言えばいいのやら……」

クナギも耳を垂らし、気まずそうに首をすくめる。


アレリアは無言で椅子に腰を下ろし、

両手を組んでじっと床を見つめていた。


「正直……色恋というやつは、私にもわからない。

こういう時、セリアがいれば……もう少し上手く、話を聞いてやれたかもしれないな。」


小さく、懐かしむような声。


チュチュはためらいがちに問いかける。

「アレリア……知ってたのだ?陽翔くんが、ひよりを想っていたことを……」


「……ああ。だが、まさかこうなるとはな。」


「陽翔くん、みんなに優しいから……気づかなかったのだ……」


長い沈黙。

三人の間に、言葉では埋められない重苦しい気配が漂う。


窓の外では、夏の終わりを知らせる虫の声だけが響いていた。

やがてアレリアは小さくつぶやく。


「……つばきにとって、今夜は長い夜になるだろうな。」


その言葉の通り、

誰も眠れないまま、夜は静かに過ぎていった。


翌朝。


部屋には、アレリア・チュチュ・クナギの三人が集まっていた。


「朝だが……クナギ、つばきの様子はどうだ?」


「いえ……確認するには余りにも恐ろしいでございます……」


「なのだ……」


そんなやりとりの最中——


ガチャッ、と静かに扉が開く音がした。


「「「……!!?」」」


振り向いた先に、つばきが立っていた。

普段よりずっと落ち着いた表情で、手にひとつの箱を抱えている。


「つばき……!」


「ごきげんよう……アレリア。アンタに渡すものがあるわ」


そう言って、つばきは手にしていたドール箱を差し出した。


「これは……?」


「ドール箱よ。そこに30体……あるわ。アンタのと合わせて93体……全部譲ってあげるのよ」


「しかし……君は……」


「待って、最後まで言わせて。……ひよりを無事に返ってこさせれること……約束できる?」


「つばき………。ああ、必ず…必ず約束する。

ひよりをこの世界に返す……すまない。本当にありがとう」


「ぼ……僕からもなのだ!ありがとうなのだ!」


しばしの沈黙。

つばきは強い目でアレリアを見返し、口角をあげて言った。


「……勘違いしないで」


「?」


「私は……こんなもんにも頼らなくても……!!絶対に!!陽翔くんを落とすんだから!!!ぜーーったいによ! 例えひよりとくっついても!!」


「り、略奪ですぞ……!」


「うるさーい!!気が変わるなんて割とあることよ!!やられっぱなしは私の性に合わないわ!!」


アレリアはドール箱を受け取り、静かに見つめながらつぶやいた。


「君はこの世界でも、ウェルミールでも、類まれない強い人だ。それこそ勇者を託す資格があるほどに」


「そんなのお断りよ!!!あーもう!陽翔くんも帰ってしまったし……!!お腹すいた!!ご飯よ!!」


「つばきちゃん、かっこいいのだ〜!!」


「貴方に従えて嬉しいですぞ……!!」


「ふふ……私も君に出会えて良かった」


「な……なによ!!みんなして気持ち悪いわね!!もう!!」


屋敷の空気は少しだけ軽くなっていた。

100体集めるまであと7体……物語は確実に終盤へと近づこうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ