第37話 禁断の恋!?とろける心、甘美なる怪人の罠
夏休みも終わり、アレリアはいつものように
つばきを護衛しながら登校路を歩いていた。
「今日の午前の任務も完了だ」
「いつもお疲れさまなのだ!」
「雇ってもらっている身だからな。半端な任務はできん…さて、午後まで少し時間があるな」
「今日は何か予定があるのだ?」
「少し行ってみたい場所があってな」
ーーーー
街のカフェにて
「ブラックコーヒーを一つ。そして……イチゴパフェを大盛りで」
「かしこまりました」
慣れた様子で注文を済ませるアレリアを、チュチュは感心して見ていた。
「すっかり馴染んできたのだ!」
「まぁな。いい加減これくらいできるようにならねば」
やがて運ばれてきたコーヒーとパフェ。
アレリアはまずパフェにスプーンを伸ばし、ゆっくりと味わう。
「ふむ……美味いな、このパフェは」
(牛乳に砂糖を混ぜて作れると聞いたが、本当に信じられん。このイチゴという果実も、我が国で見たどんなものよりも上質だ…)
目を輝かせながら語り出すアレリア。
文明の発展と食文化の豊かさに感嘆してやまない。
「発展とは、これほど素晴らしいものか…チュチュ」
「そ、そうなのだ……」
(これは……長くなるやつ、なのだ…)
案の定、アレリアは延々と感動を語り続ける。
だがチュチュも経験を積んでおり、相槌を打ちながら上手に聞き流す術を覚えていたのだった。
アレリアはカフェのカウンターへ歩み寄り、静かに告げる。
「非常に美味であった。会計を頼む」
「はい、1500円です」
(美人だけど…なんだかクセが強い人だなぁ…)
会計を済ませ、店を出ようとしたその時――
ピコピコピコピコ!
「怪人なのだ!」
「来たか…どこにいる?」
「えっと……あー!つばきちゃんの学校の近くなのだ!」
「なに!?」
急いで向かおうとするアレリア。だが、その時――
「シュガーー!!」
カフェの奥から、甲高い声が響いた。
「僕ちゃんはシュガーツ!厳しいこと大っきらい!人生は甘々じゃなくっちゃね!」
姿を現したのは、巨大なパフェを模したような怪人。
頭にはクリームとチェリー、体はアイスやチョコで覆われ、両手はスプーンとフォークに変形していた。
「な、なんでここから出てくるのだ!?」
「……敵が出現した。とりあえずはそこに集中するんだ!」
アレリアは身構え、チュチュはあたふたする。
カフェの空気が、一気に張り詰めていった――。
「魔法少女のドール箱はもらっちゃうからね〜!」
「怪人だ〜!逃げろ!」
店員とお客は慌てて外へ逃げ出していく。
「チュチュ、変身だ!」
「了解なのだ!」
「変身!」
いつものように華麗に変身を済ませるアレリア。
怪人シュガーツは、両手を大きく広げ挑発した。
「シュガー!さぁ来い!魔法少女!」
アレリアは小声でチュチュに問いかける。
「チュチュ…言おうか迷っていたが、この世界の怪人はなぜ変身を待ってくれるんだ?」
「えぇ……そ、それは多分、怪人にもプライドがあると思うのだ…」
「なるほど、そういうものか」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ!くらえ、シュガーシャーー」
ザシュッ!!
アレリアの一閃が放たれる。
その瞬間、怪人シュガーツの体が砕け――
パリーンッ!!
白い砂糖の塊となり、サラサラと床に崩れ落ちていった。
「すまないが、早急に倒させてもらった」
「やったのだ!!」
しかし、勝利の余韻に浸る暇もなく、アレリアは険しい顔をした。
「……待て。ドールにならない。これは…偽物か?」
「えええ!?まじかなのだ!?」
「本物はつばきの方か……!」
アレリアとチュチュは急いで学校へ向かう。
しかし、外へ飛び出した瞬間、目に飛び込んできたのは異様な光景だった。
「アナタ〜好き!♡」
「俺もだよ!♡」
少し熱めなカップル……これならまだ分かる。
だが、次に聞こえてきた声はあまりに異常だった。
「いい筋肉してるな…♡」
「お前こそな!♡」
「マキちゃん…愛してるよ…♡」
「私も…♡」
本来なら怪人が出現すれば、辺りはパニックになり逃げ惑うはず。
それなのに人々は不気味に頬を染め、互いを見つめ合い、甘ったるい言葉を囁き合っていた。
そして、街の至るところに現れていたのは、無数のシュガーツの分身体。
「み〜んな、甘ぁ〜い恋を抱こうねぇ♡ 僕ちゃんが協力してあげるからね〜♡」
分身体が舞い踊るたび、次々と人々が「激甘人間」へと変わっていく。
「くそっ……!完全に手遅れか……!」
アレリアは歯を食いしばり、剣を強く握った。
「チュチュ、学校へ行くぞ!」
「了解なのだ!」
ドゥンッ!
二人は飛行しながら急行する。
――そして、たどり着いた白百合学園。
そこはすでに甘ったるい異様な空気に包まれていた。
「シュガー!授業なんて受けなくてもいい!みんなで甘〜く行こうぜぇ♡」
生徒同士が、先生同士が、
互いに手を取り合って見つめ合い、甘い言葉を囁き合っている。
教室も廊下も、まるで恋愛ドラマの最終回のような混沌。
「これは……完全に侵食されているな」
「本体はどこにいるのだ?」
「この先の教室なのだ!」
「チュチュ……頼みがある。もし私が――」
「……! わかったのだ!」
バァンッ!
教室の扉が勢いよく開かれる。
「怪人! 成敗してくれる!」
「シュガー♡ よくぞここまで来たなぁ〜。でも成敗なんて言葉、今どき古すぎるよ♡」
剣を構え前へ踏み出すアレリア。
だがその瞬間――
「キャーッ!!美人すぎる!!♡」
「素敵! 私と恋人になって!♡」
「むしろ結婚してぇぇ!!♡」
次々と白百合学園の女子生徒たちが、熱に浮かされたようにアレリアへ殺到する。
「ぐっ……くそっ、邪魔だ!」
剣を振るうわけにもいかず、アレリアは押し寄せる“甘々”な女子生徒たちに翻弄されてしまう。
教室の奥で、シュガーツがにやにやと笑っていた。
「シュガー♡いいねぇ!みんなアレリアちゃんに夢中だよ!恋されるのって気持ちいいでしょ?♡」
そんな混雑の中、大きな声が響いた。
「アレリアー!♡♡ 大好きぃ!♡」
ドンッ!
魔法少女の姿をしたつばきが、強くアレリアに抱きついてきた。
「つばき……君までか!」
「今までツンツンしちゃってごめーん!♡本当は大好きなの!♡」
「ちなみに私はつばき様が好きですぞ!♡」
クナギまでもが、甘ったるい笑顔で叫ぶ。
「シュガー♡そういうこと!先にこっちを“無力化”しておけば、絶対に貴方が飛び込んでくるって計算済みなんだよ〜!」
女子生徒とつばきの両方に絡まれ、アレリアは完全に拘束されてしまった。
しかもつばきは魔法少女の姿…尋常ではない力で、まるで鉄の鎖のように抱きついてくる。
「ねぇアレリア〜♡ 私のものになって!」
「ま、待て!つばき!目を覚ませ!怪人に洗脳されているんだ!」
だが戦闘を始めようにも、この状況では巻き添えが必至。
つばきの拘束は特に強烈で、アレリアは身動きが取れない。
「ヒヒヒッ……終わりだぁ〜!シュガーーシャワァァァァーッ!」
シュガーツの頭部から放たれた、きめ細かい砂糖の光線がアレリアを直撃する。
「ぐあああああっ!」
アレリアの視界が甘い白に覆われていった――。
そして数分後――
チュチュが慌ただしく合流する。
「アレリア…!つばきちゃん…!クナギ…!どうか無事でいてほしいのだ!」
ガラッ!
教室の扉を開けたチュチュが目にしたのは――
「つばき…君はなんて美しいんだ…♡」
「アレリアこそ…見惚れるわ…♡」
「キャーー!禁断の恋!!」
「お似合いの二人ですぞ!」
甘々オーラを放つアレリアとつばき、その周囲でうっとりと酔いしれる生徒たちとクナギ。
「わーーーーー!!!めちゃくちゃなのだ!!!恐ろしいのだ!!」
その様子を高みから見下ろし、怪人シュガーツが不気味に笑う。
「シュガー♡ おやおや、これはチュチュ。もう見ればわかるでしょ?勝負はついた。ほら、ドール箱を渡しなよ〜♡」
「まだなのだ!!!」
チュチュは自動販売機から買ってきた缶コーヒーを高々と掲げる。
その中にはあらかじめ「解呪の呪文」を封じ込めてあった。
「解呪のコーヒー!!!受け取るのだアレリア!!!」
ビシャッ!
冷たい黒い液体がアレリアに降りかかる。
「なっ!?コーヒーだとぉぉ!!?そんなもので……!?」
途端にアレリアの体から甘ったるいオーラが剥がれ落ちていく。
「くそ!こうなったらもう一度…!」
シュガーツは頭部を振りかざし、再びシュガーシャワーを放とうとする。
しかし――
パリーン!!
「シュガー!!め、目がぁぁ!!」
アレリアの両腕が振り抜かれ、シュガーツのガラス製の目を粉砕した。
「貴様らは……毎度……毎度、精神攻撃ばかり仕掛けて……クソが…」
その声には静かな怒りが宿っていた。
アレリアの剣が閃き、容赦のない斬撃が次々と怪人を刻む。
ザシュ!ズザザッ!
「ギャアアアアーーー!!」
剣の連撃を浴び、シュガーツの体はズタボロになっていく。
そして――
「ラブリー☆ファイヤー!!」
つばきの放った炎の魔法が追い討ちをかけるように直撃。
「ごわわわわぁ〜!! とける〜♡!」
チュドーーン!!
轟音とともに、甘ったるい砂糖の香りを残してシュガーツは爆散した。
シュガーシャワーの効果も切れ、周囲の人々は次々と正気に戻っていった。
「えっ?なんで私、あんな恥ずかしいことを…!」
「うわぁ!お嫁に行けなくなる〜!」
混乱しながら顔を真っ赤にする生徒や先生たち。
「ふぅ…どうやら本体を倒せたようだな。チュチュ、保険をありがとう」
「どういたしましてなのだ!……でも、なんでコーヒーだったのだ?」
「甘いものには苦いもので対抗、と。なんとなく思いついただけだ」
そして――正気を取り戻した人々の中には、あの少女も。
「あ、あわ……あわわ……ああぁ……」
「つばき様!?どうかご無事を!」
「つばきか、大丈ーー」
「わーー!ー!!!早退します!!」
顔を真っ赤にしたまま、つばきは駆け足で学校を飛び出していった。
「つばき様!お待ちくださいー!」
アレリアは深いため息をつき、ほんの少し口元をゆるめた。
「……元気そうで何よりだ」
ーーーー
そしてアレリアの部屋にて。
「ぐぬぬ…!なんで最近の怪人はこんな卑劣な手ばかり使うのよ…!!」
「それは私も同意だ。」
「うるさい!アンタもかかっておいて、よく平気な顔してられるわね!」
ピクッ!…プルプルプルプル……
「……へ、平気なわけなかろうが……」
アレリアも必死に痩せ我慢していた。
「まったくもう…!陽翔くんがいなくて良かったわ!」
わやわやとした空気が部屋を包む中――
ピコンッ!
「誰よこんな時に……って、ええええええ!?」
「どうしましたか!?」
「何事だ!?」
「のだ!?」
つばきの顔は一瞬で真っ赤に染まる。
「は…陽翔くんからメッセージが……」
【夏祭り行けなくてごめん!今週の土曜日、良かったら遊ばないかな?】
「き、奇跡ですぞ……!」
「こんなこともあるのか…のだ……」
「まさか…向こうからお誘いだなんて……」
部屋の空気が一気に緊張感に包まれる。
「ど、どういうことだ?チュチュ」
「陽翔くんが直々に“遊ぼう”って言ってるのだ!」
「そうか、それはいいことだ。時には心を――」
「いやいやいや!!今そんな解説いらないの!!」
つばきは拳を握りしめ、決意の表情を浮かべた。
「……よし、決めた!陽翔くんを家に呼ぶ!!」
「「なにーー!!」」
クナギとチュチュが同時に驚きの声をあげる。
この先、何が待っているのか――誰にも予想できなかった。




