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第三十話 迫る影と新たなる出国

数週間に及ぶ修練の末、ひよりは勇者一行の三人から徹底的に魔術の指導を受けてきた。

その最終日が始まろうとしていた。


ひよりは杖を構え、息を整える。

その正面にはガロス、セリア、コーの三人。日常の穏やかさは欠片もなく、眼差しは本気そのものだった。


「ひより、これから俺たちが適当に攻撃を仕掛ける!

全部さばいてみろ。それができれば一人前だ!」


「わかりました!」


「本気で行くわよ。幹部を相手にしているつもりで構えなさい」


「油断すれば、こちらが討たれるぞ」



次の瞬間、三方向から殺到する圧力。

まるで模擬戦などではなく、命を狙われているかのような緊張感が場を支配した。


ブオンッ!


バチチチッ!!

雷を纏ったガロスの斧が轟音と共に宙を裂き、ひよりへと飛ぶ。


「フッ……!」

ひよりは一瞬で身体をひねり、地面を蹴って高く飛翔する。雷光をかすめながら空中へ。


杖を構え、声を張り上げた。

「ラブリー☆フラッシュ!!」


眩い光弾が無数に拡散し、三人を狙って降り注ぐ。


「ぬぅっ!」

ガロスは即座に結界を展開。分厚い障壁に光線が叩きつけられ、火花が散る。

(拡散してこの威力か……並の奴らならこれで沈むだろうな)


その瞬間――

「はあぁっ!」

空中から急降下したひよりが結界めがけて拳を振り下ろす。


ビギィィィン!!

結界が悲鳴を上げ、割れんばかりにきしむ。


「いい拳だ……」

ガロスが思わず目を細めたその背後から、風を裂く音。


ヒュッ――!

「はぁっ!」

コーの蹴りが鋭く伸び、ひよりの胴を狙う。


ガッッ!!

両腕で受け止めたひよりの防御に衝撃が走る

その足元で、冷気が一気に広がった。


パキパキパキッ……!

凍り付く地面、ひよりの足首まで凍結が迫る。


「悪く思わないでね……」

セリアの指先に魔法陣が輝き、黄属性の解放が解き放たれる。


キィィィィンッッッ!!

稲妻のような閃光が一直線にひよりを貫かんと迫る。


(回避……間に合わない!ここは……!)


これまで叩き込まれてきた、滲身・解放・結界

ラブリー☆ビームやフラッシュ、動揺

結界の習得によりかつての魔法少女の技を再び発動する。


「ラブリー☆バリヤー!」


バシュッッ!


分厚いハート型のエネルギーが瞬時に展開。

セリアの高密度の閃光を正面から受け止める。


バチチチチッ!!

シュウゥゥ……

凄まじい熱量をものともせず、光は弾かれて霧散した。


「おぉー、だいぶ動けるようになったじゃねぇか、ひより。とりあえず合格だ」

ガロスが豪快に笑いながら親指を立てる。


「ありがとうございます!……嬉しいです!」

胸の奥から素直に喜びが込み上げる。


コーも腕を組んで、静かに頷いた。

「攻撃の一つ一つが、致命傷になりかねん。短期間でここまで上達するとは思わなかった」


「私は……ちょっとショックかも」

セリアが苦笑を浮かべ、軽く肩をすくめる。


「難なく防がれちゃった。でも味方としてはこれほど頼りになることはないわ。よく頑張ったね、ひより」


「あ、あわわ……そんなに褒められると、恥ずかしいです……!」

顔を赤らめながらも、自然と笑みがこぼれていた。


こうして、ひよりはこの世界での戦い方を着実に身につけ、仲間に認められる存在へと成長しつつあった。



場面は変わり、宿舎。


「明日には出国する。各自、準備を整えておけ」


そんな中、ひよりがそわそわとセリアに声をかけた。


「あ、あの……セリアさん!」


「ん? どうしたの?」


「私、この前の……あの石像の所に行きたいです。その……勇気を貰いたくて」


「勇者ウィールの石像ね。なるほど、いいわ。行きましょう」


コーは少し心配をする。

「セリア……大丈夫なのか?」



「心配いらないわ。私がついてるから」


「ありがとうございます!セリアさん!」


「というわけで、行ってくるわ、ガロス」


「おーう。……くれぐれも変な奴には気をつけろよ」


「変な奴なんて、そうそう出会わないわよ」

軽口を叩きながら、セリアはひよりを連れて宿舎を出た。


だが、その様子を遠くから見つめる影があった。

二人組の男が人混みに紛れ、ひそやかに声を交わす。


「例の少女……外出したぞ。報告だ」

「……はっ」



---


広場。中央にそびえるのは、かの偉人ウィール・マルシャの石像。

聖剣を構え、静かに大地を守護するように立つその姿は、信仰の象徴として多くの者が祈りを捧げる場所となっていた。


「ひより、貴方も信仰とかする派だったの?」

セリアがからかうように尋ねる。


「いえ……私は宗教とかあんまり詳しくなくて……」


「ふふ。アレリアの代理人とは思えないくらいの純粋っぷりね」

セリアは少し柔らかく笑い、石像へと歩み寄った。


二人は並んで立ち、静かに手を合わせる。


(ウィールさん……!どうか私を見守ってください。私、頑張ります……!)

ひよりは心の中で強く念じた。その姿は初詣で祈る少女のように、素直で真っ直ぐだった。


祈りを終え、2人が石像を離れようとしたその時――。


「出国前に、わざわざウィール様へ祈りをするとは……大変信仰深い。いや、これは簒奪さんだつと呼ぶべきですかな?」


重々しい声が背後から響き、ひよりの背筋に冷たいものが走った。

振り返ると、サマエル・ロドリスがゆっくりと歩み寄ってきていた。


セリアは即座にひよりの前へ出て答える。


「これはこれは、サマエル司教……いえ、正しくは剣議卿でしたね。深い意味はないです。魔王討伐への願掛けのようなものです」


「願掛け?この石像は聖剣を抜きし勇者を讃えるために建てられたもの。偽りの代理人などが立ち入るべき場ではありません」


「エドマール国王…貴方と同じ剣議卿が、正式に彼女を代行人と認めました。それに異を唱えるおつもりですか?」


「大問題ですとも。これは信仰の根幹を揺るがす行為だ。聖剣を抜かずとも希望の象徴になれるなど、断じて認められん」


セリアは一歩も退かない。

「アレリアと共に戦った私達が断言します。彼女は同等の力を持ち、聖剣を抜く資格がある。希望を繋ぐ存在なのです」


サマエルは目線を変え

「そちらの“代行人”とやら……」


「……!」

ひよりの背筋に冷たい汗が伝う。


「貴方は本当に、人々の希望となれるとお思いですか? 教会の代表として立つ器があるとでも?」

サマエルの声音は丁寧で穏やかだったが、その一言一言は棘のように鋭く、空気を冷たく重苦しいものに変えていく。


セリアは無言でひよりの前に一歩進み出る。表情は崩さず、しかしいつでも攻撃に転じられるよう魔力を指先に集めていた。


「私は……覚悟を決めています。アレリアさんの代わりになります! そして、必ず世界を救います!」

震えながらも、ひよりは言葉を押し出した。


「……やはり子供。世の理は、それほど単純に運ぶものではありません。

忘れないことです。貴方の一挙手一投足が、人々の運命を左右する。その自覚を持たぬままでは、いずれ希望は絶望に変わるでしょう」


言葉を残し、サマエルは不機嫌さを隠しきれない表情で背を向け、静かに歩き去った。


静けさが戻ると、セリアが大きく息を吐いた。

「まったく……聖剣、聖剣って、あの人本当にうるさいんだから…!」


「……あわわわぁ! びっくりした……」

ひよりは緊張の糸が切れ、へたり込みそうになる。


セリアはそんな彼女の肩に手を置いて微笑んだ。

「でも、よくやったわ。ちゃんと自分の言葉で言えるようになったじゃない」


「セリアさん……ありがとうございます」

ひよりはまだ足を震わせながらも、小さく笑顔を返した。


ーーーー


その夜、マーキスク国の宿舎。


「ガーッハッハ!言っただろう!変な奴に気をつけろってな!」

ガロスは酒を片手に、大声で笑った。


「はぁ……いつか絡まれるとは思ってたけど、多分、あれは前から機会を狙ってたのよ」


「牽制も兼ねているのだろう、ひより、君はもう聖剣教会に強い影響を与えてしまっている存在だと自覚しておけ。危うい立場なんだ」


「は、はい!」



セリアは机に頬杖をつきながら、皮肉混じりに笑った。

「魔術の技術は高くて研究する価値はあったけど……やっぱり厄介なところね、この国は」


「まぁまぁ、明日には出国だ。変な噂はエドマールに任せて、俺たちはさっさと次の討伐に向かえばいい。余計なことは気にすんな」


少しずつ場の空気は和らぎ、部屋には緊張と安堵が入り混じる。

勇者一行と、ひより。

明日からまた過酷な道が続くと分かっていながらも、この夜だけは、束の間の雑談に身を委ねていた。



翌朝

勇者一行は準備を整え、ついにマーキスク国を発つ。


魔車に乗り、城門まで進む彼らを、多くの国民が歓声と拍手で見送っていた。

人々の表情には、ベラフ討伐の安堵と、新たな旅への祈りが入り混じっている。


城門前、国王エドマール・カーヴェルが壇上に立ち、堂々と声を張った。

「勇者一行が出国なされる! 皆よ、敬意と感謝を捧げよ!」


どっと歓声が湧き起こり、空気が震える。

エドマールはそのまま一歩進み、ガロスの前に立つ。


「ベラフの討伐……国王として深く感謝いたす。どうかこの世界に平和を。聖剣の幸運を――」


「感謝する」

ガロスは短く応じ、その声をぼそっと低める。


「サマエルが何やら怪しい……警戒しておけ」


「うむ……ガロス、マーキスクは任せろ。お前も達者でな」


そして、ふと横へ目を向ける。

深くフードを被った少女、ひよりに視線を止めた。


「ひより殿……重い立場だが、どうか宜しく頼む」


ひよりは喉が詰まるような緊張を覚えつつも、静かに頷いた。

その姿は、決意を新たにする者のものだった。


門が開き、魔車がゆっくりと進み出す。

人々の歓声が遠ざかり、マーキスクの城壁が背後に消えていく。


こうして勇者一行は次なる地、スピーリン国を目指し、新たな旅路へと踏み出した。


勇者一行がマーキスク国を出国していく。

遠くからその様子を見ていたサマエルは、冷たい笑みを浮かべた。


「厄介な代行人がやっと出国したか……さて、これからどう動くか」


彼の目には新たな企みの光が宿っていた。


一方その頃マーキスク国を離れてしばらく走る魔車の中。

今回はガロスが魔力を流し込んでいた。


「あの、セリアさん。スピーリン国って、どんな感じなんですか?」

ひよりが興味深そうに尋ねる。


「私も行くのは初めてだけど……比較的、賑やかな国って聞いているわ。

マーキスクに比べると魔術の進歩は遅れてるけど、それでも独自の技術や文化があると思う」


「へぇ、そうなんですね」


「だがヴァイスは目撃情報が少ない。慎重になるに越したことはない」


「おいおい、まだ着いてもいないのに固くなるなよ

今くらいは気を抜け。どうせ嫌でも戦場じゃ張り詰めるんだ」


魔車は揺れながら進んでいく。

陽の光を浴びながら、一行は新たな国スピーリンへと向かっていた。




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