第29話 勇者アレリア、剣道クラブに参上!
休日。
珍しくアレリアが街を歩いていた。
「たまにはフリーの外出もいいのだ!」
「うむ。ここに来てだいぶ経ったが、まだ知らぬことの方が多い。見学も必要だろう」
「相変わらず固いのだ…」
そんな折、背後から声が響いた。
「あ、アレリアさんだ!おーい!」
振り返ると、陽翔が手を振りながら駆け寄ってくる。
「この声……陽翔ではないか」
「お疲れ様です!今日もパトロールですか?」
「む……?まぁ、大体そんなところだ」
「魔法少女って大変ですね……。よかったら飲み物どうですか? 自販機ですけど、俺が奢りますよ。チュチュの分も」
「それはありがたい。いただくとしよう」
「のだ!」
――コトンッ。
陽翔は自動販売機で缶コーヒーとジュースを買い、近くのベンチへ腰を下ろす。
「……ふぅ」
温かい缶を手に、アレリアはわずかに安堵の息をついた。
陽翔は少し照れながら切り出す。
「アレリアさん……俺、実は剣道クラブに入ったんですよ。その……俺も、何か力になれたらいいなって思って」
「剣道……剣を扱うための指導か?」
「はい!大体そんな感じです!…よかったらアレリアも見学しますか?」
「……なるほど、興味深い。私も同行してみるとしよう」
「えっ!?即答!?」
陽翔は驚きと期待を入り混ぜた顔で目を見開いた。
ーーーー
休日の学校体育館。
床一面に木の音が響き、掛け声が飛び交う。
「面っ!」「胴っ!」
剣道クラブの練習風景に、アレリアは感心して目を細めた。
「これは……素晴らしい活気だ!平和な世界であっても訓練を怠らないのは良い事だ!」
「はは……アレリアさんの国も似たような訓練があったんですか?」
隣で竹刀を抱えた陽翔が尋ねる。
「そうだな。子供から大人まで、多種多様な者たちが剣を学び、己を鍛えていた」
「よかったら……少しやってみませんか?」
「いいのか? ――是非とも」
「アレリア、大丈夫かのだ?」
心配そうにチュチュが首を傾げる。
「心配はいらん。私もかつては指導を任された身だ。加減は容易い」
師範代の男性が前へ進み出て、にこやかに頭を下げる。
「海外の方に関心を持ってもらえるとは光栄です。こちらで防具をどうぞ。ルールもご説明いたします」
防具を着込んだアレリアは、自然な所作で面を締める。
その仕草だけでクラブの生徒たちが「おぉ……」と小声を漏らした。
「それでは、軽く手合わせを…安全にいきましょう」
対面するのは屈強な体格の男性部員。
互いに座り、場の空気が一気に張り詰める。
「準備はよろしいですか?」
「うむ」
「始め!」
審判の声が体育館に響いた
相手選手は肩の力を抜いたまま、竹刀をゆるっと構えた。
「外国の美人さん、まずは打ち込んでごらん」
軽口を叩いたつもりだった――が。
フッ――。
「え?……消え――」
パァン!!
常人離れした踏み込みで、アレリアが面を打ち抜く。
体育館に乾いた衝撃音が響き渡った。
「え……あ!め、面あり!……なのか?」
審判ですら動揺して判定を口にする。
アレリアは竹刀を下ろし、首を傾げる。
「軽く手合わせのつもりだったが……ここの訓練兵は滲身を使えないのか?」
対戦相手は慌てて審判に頭を下げた。
「す、すみません!ぼーっとしてました!次は本気でいきます!」
「ああ。私も規定を覚えたてで曖昧だったが……もう大丈夫だ」
再び構える二人。
「――始め!」
二本目が始まる。
(いや……ぼーっとしてたんだ。さっきは。でなければ消えたなんて……そんな馬鹿な)
相手が思考に囚われた瞬間、アレリアの姿が視界から消える。
「ドォッ!!」
バァァァン!!!
彼女の掛け声と同時に、鋭い胴打ちの衝撃音が体育館を震わせた。
「ええ……!?あ!胴あり! 一本!」
観客の生徒たちからざわめきが起こる。
「……は?」
呆然と竹刀を下ろす男性部員。
「お、おいおい、美人だからって見とれてたんじゃねぇのか?」
横から茶化す声が飛ぶ。
「ち、違う!ちゃんと構えてたんだ!」
ざわつく中、次の生徒が前に出る。
「じゃあ次は俺が!」
だが結果は同じ。
アレリアの一撃は鮮やかに決まり、一本。
「ぐっ……信じられねぇ……!」
その後も「我こそは!」と立ち上がる部員が次々と挑むが、誰ひとり勝てなかった。
体育館には、衝撃と歓声が入り混じる。
アレリアは竹刀を握り直し、静かに息を吐く。
「懐かしいな……この感覚…!さぁ、次は誰だ?」
その姿に、生徒たちは誰もが圧倒され、口を開けたまま動けない。
小声で囁く部員の一人。
「なぁ……陽翔。彼女、何者なんだよ?」
「えっと……海外から来た、すごく強い人……かな」
ざわざわと騒ぎ立つ部員たち。
「コーチ!貴方しかいません!」
「師範代!!」
「あの人、元全国一位だぜ!?行ける!」
そんな声が次々と上がる。
師範代は苦笑しつつ、アレリアへと向き直る。
「ま、待て待て皆……そこのお方。よければ、うちのクラブに入部しませんか?」
「参ったな……騒ぎにするつもりはなかったが」
アレリアは困惑しながらも軽く肩をすくめる。
「ちょっとやりすぎたのだ……」
その空気を破ったのは……
ピコピコピコピコ!!
「怪人なのだ!」
「ここでか……よりによってこの時間に。どこにいる」
警戒するアレリアの視線の先、体育館の扉がガラリと開いた。
そこに立っていたのは、漆黒の甲冑に身を包んだ異様な存在。戦国武将を思わせるマスコットのような姿だが、纏う気配は鋭く冷たい。腰には鈍く光る日本刀を2本携えていた。
「我が名は…ブシード。強き者に挑むため、ここへ参った」
「か、怪人!皆、逃げろ!」
わぁぁっ!と部員たちが一斉に避難を始める。
だが、その中でただ一人、前へ踏み出した男がいた。
「コーチ!」
「私が時間を稼ぐ!おぉぉ!」
「まて!ここは私がーー」
アレリアの呼び止めを無視し
師範代が竹刀を構えて突進する。
しかし――
バキィッ!!
竹刀の根元が一瞬で斬り落とされた。
「ひぃっ……!」
「弱い……所詮はただの人間だが、先ほどの試合を見ていた。――そちらの女。お主だ、我が一騎打ちの相手は」
アレリアは一歩前に出る。
「……いいだろう。怪人にしては律儀だな」
竹刀ではなく、聖剣を静かに構える。
「陽翔、その人を頼む」
「はい!……コーチ、こちらへ!」
「うう……すまん……情けない……」
体育館には、アレリアとブシード、そしてチュチュだけが残った。
「アレリア……変身しなくても勝てるのだ?」
「勝てるか勝てないかではない。勝つ形に持っていく」
そう言いながらも、アレリアの眉間には僅かな皺が寄っていた。
(この怪人……今までの奴らとは異質だ)
ブシードはゆっくりと刀を抜き、静かに構える。
「……参る」
ガァァッン!!
日本刀と聖剣がぶつかり合い、鋭い火花が散る。
「……!?」
「ほう、やりおるな」
アレリアとブシード互いに相手の実力を即座に察知した。
息を呑むほど速い攻防が続く。
(やはり……かなり強い……!変身する暇すらない……滲身に集中しろ!)
アレリアは魔力を深く身体に染み込ませ、さらに力を引き出す。
ガインッ!!
しかし、それでもじりじりと押され始める。
「ぐッ……!」
カァーーン!!
ついに聖剣が弾かれ、床に転がった。
「あわわわ……アレリア……!変身するのだ!」
チュチュの声が響く。
「ふん……足りんな」
バッ!!
アレリアですら反応できなかった速度でブシードが間合いを詰め、チュチュを鷲掴みにした。
「うわー!離すのだ!!」
「くっ……チュチュ!」
「これは人質だ。ここでは人目につく……山奥の開けた場所で再戦を申し込む。逃げるなよ」
そう言い残し、ブシードはチュチュを抱えたまま体育館を飛び出す。
「クソッ……情けない……!」
アレリアはすぐに追いかける。
体育館から出ると、避難を終えた陽翔が駆け寄ってきた。
「アレリアさん!怪人が……!」
「これから奴を追う!陽翔。
君はつばきを呼んでくれ!これはかなり危険な状況だ!」
「……!わかりました!」
陽翔は即座に走り出し、アレリアは剣を握り直してブシードの影を追う。
山奥の開けた空間。
草木のざわめきが静まり、ただ冷たい風だけが流れていた。
中央に立つブシード。そして、無理矢理掴まれたままのチュチュ。
「くそー!そろそろ離すのだ!」
必死に暴れるも、ブシードは無反応。ただ、冷徹に一点を見据えていた。
「……来たか」
木々を押し分け、前方から聖剣を携えたアレリアが現れる。
「人質とは卑怯な奴め。チュチュは戦闘できるような使い魔ではない。解放しろ」
「…………」
一瞬の沈黙の後、ブシードはパッと手を放した。
「うわ〜!アレリア!来てくれてありがとうなのだ!」
慌ててアレリアの足元へ駆け寄るチュチュ。
(……あっさり解放しただと?なぜだ)
「変身しろ。ベストな状態で来い」
「舐められたものだな……チュチュ!」
「わかってるのだ!こんな奴、コテンパンにしてやるのだ!」
掛け声とともに、アレリアは堂々と決めポーズを取り変身を完了する。
「さて……よいな」
ブシードは静かに日本刀を地面に突き立てた。
すると刀身を中心に光が走り、ドーム状の巨大な結界が膨らみあがる。
空間そのものが閉ざされていく。
「……これは……結界か」
「うむ…これで魔法は使えぬ。己の力と技量のみ……正真正銘の一騎打ちだ」
「いいだろう」
キィィン!
再び聖剣と日本刀が交わり、火花が飛び散る。
「技量は互角か……!」
ブシードはアレリアの剣筋を読み取りながら、低く唸った。
「規定内では、な」
次の瞬間、アレリアは脚力を爆発的に込め、縦横無尽に斬りかかる。
一歩踏み込むごとに風圧が生じ、その速度は肉眼で追いきれないほどだった。
「ぬっ!」
予想を超えた速さ。ブシードは、変身後のアレリアの実力を完全に見誤っていた。
百年に一人の奇跡の戦士が、魔法少女の力でさらに強化されるとどうなるのか。
ババッ! ババッ!
「ぬああぁっ!」
辛うじて受け流しながらも、押され続けるブシード。
「アレリア、速すぎるのだ……勇者はやはり強いのだ!」
チュチュが驚きに声を上げる。
「すまないな。私は元より、人外と戦うために鍛えられた戦士だからな」
次第に防戦一方へ追い込まれるブシード。
「小癪な!」
彼は脇差を抜き、二刀流の構えを取る。
だが――。
「遅い」
アレリアはすでに背後へ回り込んでいた。
「はぁっ!」
ズバァッ!
鋭い一閃が走り、ブシードの甲冑を斜めに断ち割る。
パラパラと火花のように結界が砕け、夜の闇へと溶けていく。
「見事なり……強き人間よ。ふ……自惚れはよくないな」
崩れ落ちながらも、ブシードの声には確かな敬意が滲んでいた。
「まともに会話できる怪人は初めてだ。……ついでに教えてくれ。お前たちはなぜドールを狙う?」
アレリアは腰の小さな箱――ドールを示す。
「我ら怪人は……“解放”を掲げている。それ以上は語れん」
「解放……?」
アレリアの眉が僅かに動く。
「まあいい。認めたくはないが……お前との一騎打ち、楽しかったぞ」
「ふ……我もだ。さらば」
ボフンッ!
ブシードの身体は白煙に包まれ、人形へと変わり果てた。
ーーーー
少し離れた空。
「きぃーーっ!!寝坊だわ!クナギ、今回は何回起こしたのよ!?」
「4回でございます!」
「次から5回にしなさい!あぁもう!折角の陽翔くんの頼みなのに!」
「もうすぐ着きますぞ、つばき様!」
焦りながら飛行するつばきとクナギ。
そして現場へたどり着くと。
「アレリアだわ!……って、もう倒しちゃってるじゃない。あーあ、私の見せどころが~!」
「チュチュも無事でよかったですな」
駆け寄るつばきとクナギに、アレリアが振り向く。
「つばき、クナギ、ちょうどいい。……チュチュにもだが、色々と聞きたいことがある」
「何よ、今さら」
「なんなのだ?」
「今回の怪人からドールを狙う理由を聞いた。……やつらは解放を掲げていると」
「なぜ、チュチュとクナギは魔法少女を探し、怪人を倒させている?そして解放とはなんだ?…教えてくれ」
「そういえば私も……魔法少女になって怪人を倒してくれ、そしてドールを100体集めると願いが叶うって、それくらいしか聞いてないわ。どうしてなの?」
問い詰められ、空気が重くなる。
やがてクナギは深いため息をつき、静かに口を開いた。
「……詳しく話すと、長くなりますな。これは、私とチュチュが別の惑星にいた時の話でございます……」
使い魔たちの過去が静かに語られ始めようとしていた。




