表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/62

第23話 アレリア就活!最強の見習いメイド

のどかな日常が続く大きな屋敷に、

今日も今日とて、つばきの声が響き渡った。


「え〜〜!?今日、メイドさん休みなの!?」


「申し訳ありません……体調不良でして」

執事が深々と頭を下げる。


「そんなぁ〜!私のデザートタイムはどうすればいいのよ!」


「本日だけは、我慢して頂きたいかと……」


しょんぼりと肩を落とし、長い廊下をとぼとぼ歩くつばき。


「つばき様、もしよければ私がお作りしましょうか?」

隣を歩くクナギが控えめに申し出る。


「いやよ!私は素敵なメイドさんからもらうデザートがいいの!」


「そ、そうですか……」


そんなやり取りをしていると、廊下の向こうからアレリアとチュチュが歩いてきた。


「つばきか。随分と不機嫌そうだな」


「いつものことなのだ」


するとつばきは、アレリアをじっと見つめた。


「じぃーーーー……」


「? どうした?」

怪訝そうに首をかしげるアレリア。


ーーーー


というわけで今日は一日、私専属のメイドよ!」

胸を張るつばき。


「なにやら……また動きづらい服装を着せられたが。メイドとは具体的に何をすればいいんだ?」

フリルのついたメイド服を着せられ、困惑気味のアレリア。


「簡単に言えばお世話よ! 美味しいお菓子を用意したり、身の回りの掃除をしたり……あとは私の言うことを聞けばいいの!」


「……なるほど、従者の役目か。理解した」


その横で、使い魔同士がひそひそ声を交わす。


「最近、つばきちゃん……

アレリアを好き勝手に使い回してるのだ……」


「まぁ……否定はできませんな……」


「聞こえてんのよ!そこ!!」 


「というより、アンタいつまでもこの部屋でダラダラされちゃ困るわ! 働くのよ!」

腕を組みながら睨みつけるつばき。


「ダラダラはしてないが……まぁ、確かにここでは無職同然だな。しかし私は報酬は特に欲しい訳ではないし」


「そ、それなら……高級洋菓子でどうよ!?」

即座に条件を出すつばき。


「………うむ……検討しよう」

アレリアが小さく頷いた。


「アレリアが、お菓子に負けたのだ!」


「ひとまず、ある程度は執事に説明を受けてちょうだい!」


「かしこまりました。それではこちらへ」

執事が静かに先導する。


「宜しく頼む」


ーーーー


給仕室にて


連れてこられたのは屋敷の奥にある給仕室。


「こちらがシェフが仕上げたショートケーキです。これをつばき様のお部屋までお持ち下さい」


白い皿の上で、真っ赤な苺が艶めいていた。


「……思ったより簡単そうだな」


「ですが、その服を纏いメイドと名乗っている以上、つばき様への敬意をお忘れなく」


執事は背筋を伸ばし、真剣に告げる。


「承知した」


「いえ、態度は宜しいのですが……こう、言葉遣いを」


「む……」



つばきの部屋


その頃、部屋ではつばきがソワソワと落ち着かず椅子に腰掛けていた。


「……まだかしら。指導に時間かかってるのかしら」

足をパタパタと揺らしながら時計をちらり。


コンコン――。


「い、いいわよー!」


ガチャリ。


「失礼します」


ドアの向こうには、銀のトレイを持ちメイド姿のアレリアが立っていた――。


(うっひゃー!!やっぱり私の見立ては正しかった!素敵なメイドさんが来ちゃったわー!!)


つばきは心の中で絶叫しながら、思わずニヤニヤ顔になっていた。


「……ニヤニヤしているが、何も面白くはないと思うが?」



「!そ、そんなんじゃないわよ!あっ、あと敬語!アンタは見習いメイドさんなんだから!」


「それは失礼致しました。つばきお嬢様」

流れるように言葉を正すアレリア。


「うひゃーーー!!」

つばきは思わず椅子から転げ落ちそうになった。


「つばき様……どんどん暴走されておりますぞ」


「歯止めが効かないのだ……」


しかし当の本人アレリアは不満な顔をせず返す。


「チュチュ、クナギ。私は問題ない。これがつばきの負担を減らすのであれば、それで構わん」


「そうよ! 負担を減らしてもらわなきゃ困るわ!」

つばきは顔を真っ赤にしながら胸を張る。


「こちら、デザートになります」


アレリアは盆をそっと机に置いた。


「続いて、お部屋のお掃除を致します」


「あ〜……至福〜」


ソファに身を預けながら幸せそうに目を細めるつばき。

その笑顔を横目に、アレリアは黙々と業務をこなしていく。


「……失礼しました」

一礼し、部屋を後にするアレリア。


一人になったつばきは、名残惜しそうに溜息をつく。

「はぁ……美人メイド……でも、私はドジっ娘メイドを期待してたんだけど……。卒なくこなされちゃったわ」


「アレリアは勇者なのだ!きっと要領がいいのだ!」


「そ、そういうことにしておくわ……」



――廊下。

台車を押しながら歩くアレリア。


「国王や教皇に仕える者は見てきたが……これで良かったのだろうか?」


ひとり言を漏らしたところに、執事が声をかける。


「アレリアさん、お次の仕事ですが」

「む、はい。すぐに参ります」


やがて、時刻は夜の9時を回った。

再びつばきの部屋を訪れるアレリア。


コンコン――。

「失礼します」


扉を開けると、クナギが迎えた。

「おや、アレリア殿。お疲れ様ですな」


「クナギか。つばき……お嬢様は?」


「寝られております。ついでにチュチュも」


「すやぁ……すやぁ……へへ……」

枕を抱きしめ幸せそうに眠るチュチュ。


そしてベッドの上、年相応の無邪気な笑顔で熟睡しているつばきの姿があった。


アレリアは思わず立ち止まり、その寝顔を静かに見守った。


薄暗いランプの灯りに照らされた部屋。

ベッドの上では、つばきが子供のように安心しきった表情で眠っていた。


アレリアはその寝顔を静かに見つめ、口を開く。

「……いい顔で寝ているな」


「ええ……ここ最近では稀に見るほど、安らかな寝顔でございます」


アレリアは視線を少し落とし、ふと遠くを思い出すように呟いた。

「私の世界の子供達も……皆が、この顔で眠れるといいのだが」


「きっと、出来ますよ。必ず……貴方は強く、そして逞しい勇者なのですから」


アレリアは一瞬驚いたようにクナギを見て、

それから小さく笑った。


「……使い魔に励ましてもらえるとはな」


「使い魔だって、励ましますとも」


部屋に再び静寂が戻る。

ランプの柔らかい灯りが、つばきの寝顔と、微かに笑みを浮かべたアレリアの横顔を優しく照らしていた。

アレリアは、つばきの肩に布団をかけ直したその時。


ゴソッ……。

遠く、庭園から微かな物音。


「……!」

アレリアの瞳が鋭く光り、音の方向へと振り向く。


「アレリア殿、どうかしましたか?」


「……侵入者だ」


「えぇっ!?」


ーーーー


庭園の隅、夜の影に紛れて潜んでいた強盗団の姿が浮かび上がる。


「いいか、夜野家はこの時間がベストだ。手っ取り早くやるぞ!」

リーダー格の男が仲間に囁く。

「邪魔する奴は返り討ちにしてやれ!」


「おぉ!」と低い声が重なる。


奴らが倉庫へと侵入しようとした、その時。


「……待て。貴様ら、そこで何をしている?」


背後から突き刺さるような声。

振り返った強盗たちの目に映ったのは、月明かりに照らされる一人の女性、清楚なメイド服を纏ったアレリアが静かに立っていた。

その瞳は氷のように冷たい。


「ここは夜野家の御屋敷だ。馬鹿な真似はやめろ」


「くそっ、見つかったか!仕方ねぇ、やってやる!」

強盗の一人がナイフを抜き、突きかかる。


ヒュッ――ガシッ!

アレリアは片手で刃を掴み取った。


「どこの世界にも下衆はいるものだな」


パキンッ!

ナイフは、彼女の手の中で砕け散る。


「ひ、ひぃっ!?ナイフを片手で!?」


「行け!相手は女一人だ!数で押せばいい!」


怒号と共に、十人の強盗団が一斉に襲いかかる。


アレリアはわずかに息を吐き、スカートの裾をまくしあげる。

「まとめて相手をしてやろう」


「アレリア殿!ど、どうか殺生だけはお控えを!」


「大丈夫だ。……手加減はする」


瞬間、庭園に轟音が響き渡った。

次々と吹き飛ぶ影。呻き声。草花を揺らす衝撃波。


騒ぎを聞きつけ、部屋で寝ていたつばきが目を覚ます。


「うるさいわねぇ……何事よ……」

寝ぼけ眼で部屋を出て、ゆっくりと廊下を進む。


ガチャ……と扉を開けたその瞬間。


「ひ、ひぃぃぃ!!!」


そこには、返り血を浴びたメイド服姿のアレリアが立っていた。

優雅にスカートを直し、深々と頭を下げる。


「つばきお嬢様、お騒がせしました」


その眼差しは、戦場で鍛え上げられた戦士のもの。

清楚なメイドの姿でありながら、恐ろしく冷徹な光を宿していた。


つばきは腰を抜かし、青ざめた顔で思考を巡らせる。

(わ、忘れてた……見た目は美人だけど、この人は死線を潜ってきた戦士……。あまり調子に乗ってたら、今度は私が……!)


「あわわわ……!」


アレリアは返り血のメイド服姿のまま、表情ひとつ変えずに告げる。

「どうか、このままゆっくりとお休みください」


「できるわけないでしょ!何があったというのよ!」


その時、慌てて駆けつける声がする。

「つばき様ー!ご無事ですか!」


「クナギ!何があったのよ!」


クナギが簡潔に経緯を説明する。


「な、なるほどね……まさか家に侵入者が……」


「物騒な世の中になったのだ!」

いつの間にかチュチュも目を覚ましていた。


クナギは心配そうに言う。

「つばき様、しばらくは送迎と護衛を強化して……」


「え〜、そんなの悪目立ちするじゃないの」


「しかし身の安全が第一ですぞ」


つばきは悩んだ末、血まみれのメイド服で淡々と掃除をしているアレリアを見て、何かを閃いた。


「……そうだわ!」


ーーーー


数日後


白百合学園の校門。友達と下校するつばきの姿。


「つばきちゃん、大変だったね……送迎なくて本当に大丈夫なの?」


「大丈夫よ!私には――世界一強いボディガードがついてるんだから!」


その少し離れた場所。

地味めな服にサングラス姿で、周囲を冷静に見渡すアレリアの姿があった。


「これから下校か……今のところ問題なしだな」


「アレリアもここで仕事ができて良かったのだ!」


「そうだな。私も外に出る機会が増えてありがたい」


こうして、異界の勇者アレリアはトーキョーにて「就職」を果たしたのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ