第21話 ワンワン勇者!?アレリア犬の大奮闘!
それなりに平和な日々を過ごすつばきとアレリア。
今日は二人で動物園へと足を運んでいた。
「ふふん!今日は陽翔くんとのデートの練習もかねて、ここに来たのよ!」
胸を張って宣言するつばき。
「異界の動物……正直、私も興味があるな。これはいい学びになる」
アレリアは真剣な顔で園内を見回している。
「アンタはいつも勉強するのね……」
「アレリアも最近は頑張ってるのだから、怪人が出ない時くらいはリラックスしたほうがいいのだ!」
「いや、これはあくまで個人的な興味だ。励んでいるわけではない」
ふと、アレリアは遠い目をして呟いた。
「私の世界にも、かつて動物を収集して観察する施設があった。たしかメナジェリーと呼ばれていたな」
「へぇ……意外。珍しく似たようなものがあるんだ」
つばきは驚いた表情を浮かべる。
「かなり前の文献で読んだだけだ、今ではもう存在しないようだ。
そもそも娯楽というものが限られている世界だからな」
そんな会話を交わしながら、二人は園内を巡っていった。
ゾウ、キリン、サイ、ライオン……
檻の向こうで動く巨大な生き物を見た瞬間、アレリアの目が大きく見開かれる。
「これは……っ……!」
「いつものやつなのだ……」
「きっと初めて目にする生き物なんでしょうね」
「この人は思ったより反応がわかりやすいですぞ」
やれやれといった調子で流すつばきと使い魔たち。
「確かに、驚いてはいる……。しかし見るのは初めてだ。
実在したのだな」
「どういうことなのだ?」
不思議そうにチュチュが首をかしげる。
「ここにいる生き物のいくつかは、私の世界の古い文献で見たことがある。
だが……少なくとも私は実際に目撃したことは一度もなかった」
一気に難しい方向へ話が進みそうになる。
つばきは慌てて割って入った。
「きっと私達の世界と似てる部分があるってだけよ!
ほら、さっさと次に行くわよ!」
「う、うむ……」
そう答えながらも、アレリアは心の中で思考を巡らせる。
(ゾウやライオンやら… 私の世界に情報だけあった。つばきも言っていたがここは似ている要素が思ったより多い…一体?)
ゆるゆると歩いていると、近くで妙な騒ぎが起こっていた。
「ニャー!ニャー!!」
「お、おい……やけに絡んでくる猫だな?なぁ優香…
あれ、どこいった?」
「ニャー!ニャー!」
「わかった、よしよし……迷子なのかな?」
辺りがざわつき始める。
つばきが首をかしげる。
「なにやら騒がしいわね。動物が逃げ出したの?」
アレリアは目を細める。
「つばき、いつでも変身できる準備をしておけ」
「なによ!猫が逃げただけじゃない」
「つばき、君は最近油断が多い。魔法少女としてそれは危険だぞ」
「うるさいわね!この前アンタだって怪人の技にかかってたじゃない!」
「う……それは君たちを守るためで……ん?」
アレリアの視線が鋭くなる。遠くからこちらをチラチラと見てニヤけている一人の男がいた。
「奴だ!逃がさん!」
アレリアは単独でその男を追う。
「アレリアー!待つのだー!」
「ちょっと!アンタ!もう!」
逃げる男は明らかに普通の人間よりも速い脚力で人気のない通路へ走り込む。
だが、アレリアはすぐに追いつき、その腕をがっしりと掴んだ。
「脚力が普通じゃないな……怪人か?」
「ゾゾゾ……俺に触れたな?」
「何?」
ボォンッ!!
アレリアが白い煙に包まれ
その瞬間、アレリアの目線が急に低くなり、全身に違和感が走った。
「なにをした?」と言おうとしたが、口から出たのは
「ワン!ワンワン!!」
耳がぴんと立ち、尻尾が背後で揺れる。
いつの間にか四つん這いになっていた。
勇者アレリアは無残にも犬に変えられてしまったのだった。
男は変装を脱ぎ
飼育員の様な服、人獣のような獣顔に変貌した。
大きな耳と尻尾を揺らし、牙をむきながら楽しげにステップを踏む。
「かわいいワンちゃんになっちゃいましたね〜。魔法少女さん?いや、魔法成人?どっちでもいいや!」
「ワンワン!(くそっ…!怪人だな!?)」
「そのとーり!俺は怪人アニマーニア!俺に触れたらみ〜んな動物になっちゃうゾゾゾ!」
狂気じみた笑みを浮かべながら、観客のいない通路をスキップするように歩き去る。
「あと、もう一人のやつも動物にしちゃおっかな〜?どこかな〜?」
楽しげに鼻を鳴らし、周囲を物色するアニマーニア。
「ワン!(逃がさん!)」
追いかけようとしたアレリアだったが
コテンッ!
四つ足のバランスにまだ慣れておらず、盛大に転んでしまった。
「ワ、ワンワン!!(ぐっ…!この身体では思うように動けん!)」
「ゾゾゾ〜、可哀想そうに。それじゃ、さいなら〜!」
不気味な笑みを浮かべ、楽しそうに飛び跳ねながらその場を後にするアニマーニア。
怪人が去り、ひとり……いや、一匹だけが取り残される。
小さく尻尾を垂らしながら、犬となったアレリアは低く鳴いた。
「クゥン……(まいったな……)」
そのとき、近くから足音と賑やかな声が。
「だぁー!もう!アレリアすぐ走るんだから!」
「アレリア!どこなのだー?」
「ここにいるはずですが、見当たりませんな」
ぜぇぜぇと肩を揺らしながら、つばき・チュチュ・クナギが駆け込んでくる。
「ワン!ワン!(つばきか!)」
「ワンワンワン!(私だ!アレリアだ!)」
「ひぃっ!?犬!?なんで?この動物園、警備雑すぎじゃない!?」
「なにやらずいぶん吠えていますな……」
「ワンワン!(怪人だ!怪人がやったんだ!)」
だが口から出るのは、ただの鳴き声。
「ワン……ワン……(くそっ、会話ができれば……)」
チュチュが首をかしげながら、じっと犬を見た。
「なんか……しゃべってるように見えるのだ」
「ワン!(チュチュ!私だ!)」
だが次の瞬間、つばきの表情が険しくなる。
彼女はかつてのアレリアの言葉を思い出していた。
(つばき、君は最近油断が多い)
「クナギ!チュチュ!この犬に近づかないで!罠かもしれないわ!」
「ワンッ!?(な、なに!?)」
「……!(まさか私の言葉が仇となるとは……)」
犬の姿で己を恨むアレリア。だが状況は待ってはくれなかった。
園内の至る所で悲鳴が響き渡る。
「キャー!!なんでこんなとこにライオンが!?」
「ゾウまで!?逃げろー!!」
観客が大パニックに陥っていた。
猛獣たちが次々に人々の間を徘徊する。
「えぇぇ!?ヤバすぎでしょこの動物園!」
「絶対に怪人の仕業よ!いくわよ!」
つばきが駆け出す。
「ワン!ワン!(恐らく怪人に触れた人間が変えられたんだ!)」
だがその声は届かず、つばきたちは走り去ってしまう。
動物たちは何故か人を襲う気配はなく、むしろ助けを求めるような鳴き声を上げていた。
グゥオオ……!
ガァァ……!
「もうっ、なんなのよ……!」
混乱する人々を背景に、怪人アニマーニアがにやりと笑い、つばきへと歩み寄る。
「ゾゾゾ……発見!君は小鳥にしちゃおっか!」
その手がつばきへ伸びようとした瞬間
ガブッ!
「ぎゃぁぁぁ!!いってぇぇ!」
「ガルゥゥゥ!!(つばきには触れさせん!)」
犬となったアレリアが、怪人の腕に噛み付いていた。
「ひっ!さっきの犬……いや、その姿……やっぱり怪人か!」
「いかにも!俺は怪人アニマーニア!
ドールをよこしてもらおうか!」
「ワンワン!(つばきには触れささんぞ!)」
つばきを庇うように立ち塞がる犬。その姿にチュチュが首を傾げる。
「……似てるのだ。なんとなく」
「どうしたのよ、チュチュ!」
「そりゃ!翻訳魔法なのだ!」
まさかの魔法に焦るアニマーニア。
「おい!こら!何しやがる!!」
チュチュが光を放ち、犬へとかざす。淡い光に包まれ喋りだす。
「チュチュ……助かった。君はやはり優秀だな」
「やっぱり!アレリアなのだ!犬になったアレリアなのだ!」
「な、なんですってぇぇぇーーー!!?」
「つばき、人気のない所へ移動して変身するんだ。ここは私が時間を稼ぐ」
「時間を稼ぐって……アンタ、今犬じゃん!」
「問題ない。かつて討伐した幹部ラグナは狼型だった。奴の動きは記憶してある。さぁ、早く!」
「どう生きてたら狼の動きを真似できるのよ、もうっ!」
渋々走り去るつばきとクナギ。その背を守るように、アレリア犬が前に立ちはだかる。
「ワンッ!」
四肢を地面に突き、唸り声を上げるアレリア犬。
「くそ……なんで犬の姿で戦えるんだよ……ゾゾ!」
「チュチュ、剣を!」
「えっ!?握れるのかのだ?」
「咥える。前に、こうやって戦う犬のゲームキャラを見た」
「な、なんの参考資料なのだ!?」
パァァァ――!
光とともにアレリアの聖剣が顕現し、犬の口に咥えられる。
その瞳は闘犬の如き獰猛さに燃え、ただ一閃で相手を断ち切らんとする気迫に満ちていた。
「来い、アニマーニア……」
「調子に乗るなよ、ゾゾ!」
アニマーニアは近くの電柱に触れる。
ボゴッ、ミシミシィ……!
鉄がうねり、電線がしなりそれは巨大な大蛇へと変貌した。
「この蛇で……お前を丸呑みにしてやる!」
「シャァァァァッ!」
牙を剥き、咆哮を上げる鉄蛇がアレリアへと襲いかかる
ザザンッ!!
アレリア犬の咥えた聖剣が大蛇の胴を鋭く切り裂き、
巨体は真っ二つに崩れ落ちた。
「い、犬なのに!!つ、強えぞ!!」
「この程度なら……犬でも倒せるぞ」
アニマーニアが歯噛みし、次の一手を繰り出す。
「ぐぬぬぬ……なら、これならどうだゾッ!!」
休憩所の建物に手を伸ばし
ボゴォォォッ!!!建物の骨組みが軋み、変形していく。
その瞬間、巨大なゴリラが姿を現した!
「ウホォォォォ!!!」
ドンドンドン!!!
地鳴りのようなドラミングが動物園全体に響き渡る。観客席のベンチが揺れるほどの衝撃。
アレリア犬が構え直す。
「これは……でかいな」
「さぁ行け!叩き潰してしまえぇ!!」
「ウホォォォ!!!」
巨体が跳躍し、アレリアめがけて両腕を振り下ろす――!
その時。
「アンガー☆バインド!!」
つばきの放った光の網が、電撃のように走り巨大ゴリラを拘束する!
ギギギギ……!と全身を絡め取られ、巨体が動きを止める。
「つばき……!よくやった!」
「コイツは私が止めておくから!あんたはさっさと決めなさい!」
「ヒィィ!!」
ヨタヨタと情けなく逃げるアニマーニア。
しかし――
「今度こそ終わらせてやる!」
犬の姿のまま、アレリアが背後から飛びかかる。
聖剣が閃き――バッサリとアニマーニアを両断した。
「おあぁぁぁぁっ!!」
チュドーン!!!
爆発と共に怪人は断末魔を上げ、霧散する。
ボン!ボン!
園内に響く軽い破裂音。動物へ変えられていた人々が次々と元の姿に戻っていった。
そして――
ボォン!!
犬の姿だったアレリアも元の姿に戻る。
「……戻ったか。やはり、この身体が一番馴染むな」
「アレリアー!」
「ご無事で何よりですぞ!」
チュチュとクナギが駆け寄り、嬉しそうに飛びつく。
その様子を見ていたつばきは腕を組み、ジト目で言った。
「まったく……人に『油断するな』って散々言っておきながら、自分が一番油断してるじゃない!」
アレリアは少し気まずそうに目を逸らしながら答える。
「ぐっ……。……まぁ、今回は私の油断だったな。つばきの言う通りだ」
「そんで……犬になった感想はどうなの?」
ニヤニヤ顔で煽るつばき。
アレリアは淡々と答える。
「四足歩行の効率の良さに気付いたな。つばきも一度体験してみるといい。驚くほど動きやすいぞ」
「ぜっっったいにお断りよ!私は人間で結構だわ!」
軽口を交わす二人の頭上を、夕暮れのオレンジが染めていた。
今日も怪人を倒し、街は再び平和を取り戻す。
こうして、穏やかな一日が静かに終わっていった。




