第17話 学園祭デート♡! 無自覚すぎる勇者様
つばきは授業中、机に頬をつけてウトウトしていた。
「夜野さん……夜野さん〜?」
「……ん……むにゃ?」
担任が黒板をトントンと叩きながら言う。
「学園祭の話、聞いてた?大事なことだからちゃんと覚えてくださいね」
「えっと……なんだったっけ?」
クラスメイトが小声で教えてくれる。
「一人につき、招待は1名までだって」
「ひとり1名まで招待……!」
(やった!!これで陽翔くんと学園祭デート…!)
しかし次の瞬間、追い打ちのように先生の言葉が響いた。
「ただし、原則として男性はNGですからね」
「ガーーーーーン……!」
机に突っ伏して崩れ落ちるつばき。
その日の放課後、自宅。
「……ということで、私に同行しろと」
本を読んでいたアレリアが顔を上げる。
「そうよ!ほんとは陽翔くんを誘いたかったけど、女性限定なんだもの!ありがたく思いなさい!」
「その言葉も、何度耳にしたことか」
ため息をつきながらも、アレリアは本を閉じた。
「う…うるさいわね!とにかく、明日8時には出発するんだから、それまでに支度しておきなさい!」
つばきは指をビシッと突き上げる。
「あと、チュチュ!アレリアの着替えとメイクお願いね!」
「のだ!」
バタン!
勢いよく扉が閉まり、再び静寂が戻る。
アレリアは腕を組んで小さく呟いた。
「学園祭か……。なるほど、祭りがあるのだな」
チュチュは楽しげに語る。
「そうなのだ!つばきちゃんの学校は特に豪華で有名なお祭りらしいのだ!僕も楽しみなのだ!」
「貴族の会合や祝典には参加したことがあるが
少女たちが主催する祭りとは。はたして大丈夫なのか?」
「だいじょうぶなのだ!百聞は一見にしかず、というのだ!」
「ふむ、いい言葉だな、チュチュ。君は案外賢いな」
「……あ、ありがとなのだ」
ーーーー
そして翌日。
コンコン。
ガチャリ。
「ごきげんよう!行くわよ!」
勢いよく部屋に入ったつばきは、思わず固まった。
椅子のそばに立つアレリアは、髪を丁寧に結い上げ、落ち着いたメイクを施し、上品なワンピースを身に纏っていた。
まるで舞踏会にでも出かけるお嬢様のような姿。
「準備は整った。よろしく頼む」
バタン!
扉が勢いよく閉まる。
「……なにか服装に不備でもあったか?」
「なのだ?」
その堂々とした姿に、つばきの心臓がドクンと跳ねた。
「あわわわ……!!め、めちゃくちゃ美人なアレリアが……私を待ってる……!!」
扉の外から、息を整えるつばきの声。
(ど、どどどどうしよう……っ!!)
慌てながらも落ち着かせるクナギ
「つばき様…!深呼吸ですぞ」
「そそそ、そうね…スーハースーハー…よし!」
数秒後、再びガチャリと扉が開き、つばきが顔を出す。
「し、失礼したわね……。行きましょう!」
「よく分からんが……任せるぞ」
白百合学園の門をくぐった瞬間、アレリアとチュチュの前に広がったのは、まるで王宮の祝典を思わせる華やかな世界だった。
磨き上げられた石畳の道の両脇には、垂れ幕や花々で彩られた模擬店が並ぶ。
フレンチのフルコース、彩り豊かな懐石料理、そして湯気を立てる中華料理。
中学校の祭りとは到底思えない優雅さで、通う生徒達が手際よく客をもてなしていた。
「わぁ〜!すごいのだ!
これがつばきちゃんの学校の学園祭なのだ!」
チュチュが目を輝かせて飛び跳ねる。
その横で、アレリアはじっと立ち尽くしていた。
表情は変わらず、冷静そのもの。
「……………」
つばきが眉をひそめる。
「珍しく無反応ね。……もしかして、アンタの世界ではこれくらい当たり前だったの?」
ヒョコッと、チュチュが解説する。
「いや、多分これはリアクションしたくないだけで感動しているのだ」
「……………」
アレリアの微妙な沈黙がそれを肯定していた。
つばきは小さくため息をつき、肩をすくめる。
「ああ…そういうことね」
「それじゃ、案内するわ」
そう言ってつばきが案内しようと校舎へ踏み込んだ瞬間
「えっ…誰?外国の人??」
「キャーー!」
「めちゃくちゃ美人!!」
一気に黄色い歓声が湧き上がり、廊下はざわめきに包まれた。
注目の視線が一斉にアレリアへ集まる。
アレリアはきょとんとした顔で呟く。
「一体何が起こっているというのだ?」
つばきは顔を引きつらせながら、小声で答える。
「みんな、あんたに当ててんのよ」
「どこの国の人ですか?」
「名前はなんていうんですか?」
「つばきちゃんとはどこで知り合ったんですか?」
生徒たちから矢継ぎ早に質問が飛び交う。
まるでスターを囲むような空気の中、つばきは冷静を装って手をひらひら。
「はいはい!今日は私の招待した人だから!また私が答えるからね!」
そう言って半ば強引にアレリアを連れて、自分のクラスの模擬店へ腰を下ろす。
そこは高級カフェを模した空間。重厚なカーテンに調度品、机には白いクロスが敷かれ、香り高い紅茶と洋菓子が上品に並べられる。
アレリアは一口、紅茶を含み、もう一口と慎重に味わう。
「……いつも飲んでいるやつより、うまいな」
つばきは胸を張り、ふんと笑う。
「当たり前よ!ここの模擬店の品は、全部私が揃えたんだから!」
「アレリアは、人目を浴びて疲れないのだ?」
アレリアはカップを置き、少し視線を落とした。
「……まぁ、あっちの世界でも過剰に目線を浴びていたからな。慣れてはいる。
しかし、教会の連中に向けられた視線と違って、ここの人達の目は純粋で……少し……照れる」
淡々とした声のまま、だがわずかに頬が朱に染まっている。
つばきはその姿を見て、紅茶を思わず噴き出しそうになった。
「……!?」
(アレリアが……照れた!?信じられない……!)
アレリアは紅茶を口にしながら、ふと過去を思い出す。
(私がこのくらいの頃は戦線にいた。同じ年頃の仲間たちは、ひたすら戦士や魔導師を目指して訓練していたな……。
この世界の平和は、つばきやひよりが守ってきたのだな)
「つばき、君はひよりと共に頑張ってきたんだな」
つばきは、アレリアの様子から内心の複雑な気持ちを察する。
(アレリア……また何かに浸ってるわね……)
「私が守ってきたの!ひよりはせいぜい私のサポート!よね?クナギ」
「もちろんでございます!」
すかさずチュチュが反論する。
「そんなー!ひよりだって頑張ってるのだ!
ドールの数はひよりの方が多いのだ!」
「むきー!うるさいわね!あえて譲ってあげてるのよ!」
わいわいと賑やかに言い合う様子を、アレリアは静かに眺めていた。
その口元には、生まれて初めて浮かぶ柔らかな笑みがあった。
その後も模擬店を回り、演奏や舞台を楽しみ、日が落ちる。
学園全体はイルミネーションに包まれ、幻想的な光が広がっていた。
「きれいでしょ、このイルミネーション」
「そうだな。黄属性の光とはまた違った表現だ。素晴らしい」
「……相変わらず解説口調ね」
つばきが呆れると、少し間を置いてアレリアが口を開く。
「つばき。今まで私は、こういう体験をしている暇はないと思っていた。……私も、体験してよかったのだろうか?」
アレリアを励ますように強く反応するつばき。
「何言ってるの!当然よ!勇者にも魔法少女にも休息は必要!美味しいお菓子を食べて、楽しいことして、好きな人と過ごして……それが当たり前なの!」
アレリアはふっと安堵の表情を見せる。
「そうか……そうだな。怪人の出ない日くらいは、こうしてもいいかもしれない。ひよりのことは最優先だが……。
私は君に出会えてよかったよ、つばき」
その純粋な微笑みは、まるで心を射抜くような破壊力。
つばきは顔を真っ赤にして固まった。
「!!!!!……!!」
プシューッ
「つばき?どうした?」
クナギが横からぽつりと漏らす。
「アレリア様……貴方は罪な女性ですぞ」
「私のせいか?……済まなかったな。大丈夫か?」
「む、無自覚って怖いのだ……」
つばきは陽翔とはまた違う、もう一人の王子様のような存在と、忘れられない学園祭デートを楽しんでいたのだった。




