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第十二話 最大解放そして反撃の光


ベルナール会議室


昼下がりの光が差し込む広い部屋の中央に、再編成用の地図が広げられていた。


その周囲を、ガロスを始め主要メンバーが囲んでいる。


「目標の到着予定は、明日の昼頃だ」


地図を指で軽く叩きながら、ガロスが口を開く。


「ネイヴは動きが遅い。それだけは助かったな」


カラムが頷く。


「それまでに魔車の手配と、警備の再配置を済ませよう」


「頼む。それと、今回の編成はおおよそ6人だ」


その言葉に、セリアが眉間を寄せる。


「6人? ……そんな少人数で、本当に大丈夫なの?」


「初討伐のラグナの時は、10人が犠牲になった。

下手に数を揃えれば、それだけ無駄死にが増える」


ガロスの声は低く、しかし迷いはなかった。


「作戦はこうだ。まず、こちらが威嚇し、

奴に黄属性の最大出力解放を撃たせる。

その直撃を、俺とこの国で結界に長けた二人で受け止め、奴の動きが止まった瞬間、ひより嬢ちゃんの解放で叩き返す。


セリア、コー、お前らは周囲の魔族を一掃し、彼女が全力を集中できるように守れ」


重苦しい沈黙を破ったのは、コーの鋭い声だった。


「……ネイヴの攻撃を耐える根拠は?」


「一度は耐えた、今度は三人掛かりだ。必ず耐えてみせるさ」


しばし見つめ合いコーは低く告げる。


「ガロス……あんたの指示はいつも的確で優れてた。

だがもし……ひよりを守れなかったら……俺はあんたを一生恨む」


会議室の空気がさらに張り詰める。

ガロスは、ゆっくりと深く頷いた。


「ああ……その時は恨んでくれていい。ボコボコにしてくれ」


セリアが、ひよりの肩に手をそっと置く。

「……ひより、本当に大丈夫?」


「……はい。頑張ります!」

その声はかすかに震えていたが瞳の奥には、確かな決意が宿っていた。


各メンバーに、それぞれ違う種類の緊張が走る。

そして翌日。


冷たい風が砂を巻き上げる中、作戦地点にガロスの姿があった。


「お疲れ様です、ガロスさん。今日はよろしくお願いします!」


明るく声を掛けてきたのは、門衛ウーリスだった。


ガロスは目を細め、肩を軽く叩く。

「やっぱりお前か……あの時の小僧から随分と見違えたな」


ウーリスはわずかに笑い、すぐ背後を振り返る。


「それはもう大変でしたから……こちらが、もう一人の結界使いです。若いですが、なかなかの才能ですよ」


「……ロベルトです。よろしくお願いします」


短く名乗った青年は、無駄のない動きで一礼したが、その瞳の奥には迷いが見える。


「ああ、今日は頼むぜ、二人とも」


(……帰りてぇ……確かに結界だけなら誰にも負ける気はしねぇ。でも……なんで俺が幹部の攻撃の最前線なんだよ……)


その弱気を察したかのように、ウーリスが肩を軽く叩く。


「大丈夫だ、ロベルト。三人掛かりなら、必ず抑えられる」


「……ウス」


そこへセリアが歩み寄る。

「準備の方はどう?」


ガロス「ああ、大体揃った。観測も間違いねぇ、奴はもうすぐここに向かってくる」


セリア「了解。……ひより、こっちよ」


呼ばれたひよりは、小さく息を整え、ゆっくりと歩み出す。

この世界の戦闘服、それも動きやすい軽装。その上から、セリアが貸したフード付きの外套を深く被っていた。


セリアは彼女の姿を一瞥し、口元をわずかに緩める。


「……様になってるね」


ひよりは小さく微笑もうとしたが、唇は緊張でわずかに震えていた。


「お、いいじゃねぇか、ひより嬢ちゃん。今日は頼むぜ」


ガロスの声は、むしろこちらが頼もしく思うほど力強かった。


「お前にはかなり危険な任務だ。

ネイヴに『コイツは危ねぇ!』って思わせる必要があるからな」


「そ、そうですね……」

胸の奥が高鳴る。怖さと同時に、不思議な高揚感があった。


「威嚇するつもりで魔力をため込んでくれ!

防御は安心しな。俺がついている」


「ひより……私が教えた通りにやればいいの。今日はお願いね」


ガロスとセリアの言葉は落ち着いていて、しかしそこには確かな信頼が込められていた。

その声に、不思議と肩の力が抜ける。


「……はい!」


そんな中、セリアの視線がふとひよりの手元へ向く。


「ところで……それは強化術具なの?」


ひよりは自分の手に握られた杖を見下ろした。

それは、異世界に来てもずっと離さなかった、

自分だけの武器…魔法少女の杖。


「これは……お守りです。私が魔法少女として使命を果たすための……今まで、これで戦ってきました」


「そう……それじゃ必要なものね」


セリアが小さく笑みを浮かべる。

その表情は、これから戦場へ赴く者同士の、静かな覚悟を共有しているようだった。


「ひより……後方に、いつでも出発できる魔車を用意している。もしダメだと思ったら、ためらわずに乗れ。コイツで逃げてくれ」


一行の中で、最も強く心配してくれているコーの声は、

いつもより強く真剣だった。


「コー……いつの間にそんな物を?」

セリアが驚いたように振り返る。


「会議が終わってすぐだ。彼女には逃走の権利がある。

そうだろう?ガロス」


「ああ、もちろんだ。ありがとよ」


「あ……あの、コーさん……」

ひよりはぎゅっと杖を握り、唇を噛む。


「……?」


「……色々、ありがとうございます!」


「俺は君に死んでほしくない。それだけだ」


その言葉が、ひよりの胸の奥に小さな温もりを灯す。


それぞれが準備を万端に整え、戦場の空気は徐々に重さを増していく。


「準備は整ったな……そろそろ来るぜ」

ガロスが鋭い視線を遠くへ向けた。


後方にはウーリスとロベルトが配置されている。

ロベルトは肩をわずかに震わせ、無意識に拳を握っていた。


(……怖ぇ……魔族なら何度か倒した。

だが、幹部なんて見たこともねぇ……怖ぇよ……

アレリア様の姿もない……本当に、これで大丈夫なのか……?)


その小刻みな震えを、ウーリスはすぐに察した。


「ロベルト……! 

俺たちは今日、必ず魔王討伐へ一歩近づく。やるぞ……!」


「……ウス!」


ウーリスの声は力強く、続けて肩を叩く。

「帰ったら、牛肉奢ってやろう。酒もだ、たらふくやってくれ。俺の奢りだ」


ロベルトは小さく笑う。

「……約束ですよ」


その会話に割って入るように、ガロスが振り返った。

「いや、お前らだ。俺が奢ってやる。昇進も期待してろ」


その軽口に、二人の表情にわずかな笑みが戻る。

だが次の瞬間、空気が一変した。


ズッ……ズッ……


地面が低く唸り、地鳴りのような音が響く。

戦場の向こうから、影がゆっくりとせり上がってきた。


「……おおおお……ひとひとひとぉ……」


群がる魔族の群生を従え、幹部ネイヴが、

再びゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。


「来たぞ!セリア!コー!

ネイヴには構うな、魔族を片っ端から討て!」


ガロスの短い号令に、二人は即座に動き出す。

セリアの魔法陣が解放を走らせ、コーの拳が魔族の群れを吹き飛ばしていく。


「……ひより、始めてくれ」


「……はい!」


ひよりは深く息を吸い、杖を胸の前に構える。

意識を一点に集中し、体内を駆け巡る魔力の流れを掴んだ。


その様子を、不審げに思う人物…

ロベルトだった。


(ヒヨリ……? 誰だよ、こんな子……

よく見えないが体格は、

せいぜい十歳そこらの女子……

ガロスさんはいったい何を考えてる……? 

何がしたいんだ……?)


しかし、その疑問はすぐに吹き飛ぶことになる。


グワッ――――ッ!!


大気が、軋んだ。


足元の土が細かく震え、耳鳴りが戦場を覆う。

ドドドドドド……と低く響く振動が、空気そのものを圧し潰すように広がっていく。


「……ッ!?」


その場の戦闘員たちが、思わず手を止めた。

視線が、一斉にひよりへと吸い寄せられる。


勇者アレリアをも凌駕する、圧倒的な魔力を纏った少女。

小さな身体が膨大な光を内包し、周囲の空気すら押しのけるように揺らめいている。


ロベルトの喉が、勝手に鳴った。


(……なんだ……こいつは……!?)


「……!!? ……えぇぇ!? お、おおぉ……!」


――キィィィィン……!

耳を裂くような甲高い音


ひよりが放つ圧に反応したかのように、ネイヴの全身がわずかに震え、

次の瞬間、その異形の顔から眩い光が凝縮され始めた。


「来た……黄属性の最大出力だ」

ガロスが短く息を吐く。


「よし……ここまでは想定通りだ。後は俺たちに任せろ」


「…………」

ひよりは一言も発さず、ただ集中を続ける。


「いい集中力だ、ひより嬢ちゃん」

ガロスの声に、ロベルトの胸が熱くなる。


(すげぇ……! なんだこの魔力……!)

先ほどまであった疑念は消え失せ、代わりに強い信頼と高揚が芽生えていた。


コーとセリアが魔族の群れを確実に削り、

あえてネイヴへ攻撃の自由を与える。


そして……!


カッ!!!!!


視界を焼き尽くす閃光。

キィーーーーーーーーー!!!


前回よりも濃密な黄属性の解放。

その形は、巨大な柱ではなく、鋭く研ぎ澄まされた一本の槍。

まるで結界を正確に貫くためだけに

生み出されたかのような光線が襲いかかる。


ドガァァァァ!!


(クソ……!密度が段違いだ……!)

「正念場だ! 踏ん張れぇぇぇぇッ!!!」

ガロスの怒声が戦場を揺らす。


ウーリスが歯を食いしばる。

その横で、ロベルトは額から汗を滝のように流しながら必死に魔力を注ぎ込む。


「おおおおおおおおお!!!」

「うあああああああッ!! 死にたくねぇぇぇ!!!」


ビキッ……ビキビキビキ……


結界の表面に無数の亀裂が走る。

砕けるか、押し返すかその瀬戸際。


ネイヴの光と三人の結界が、互いの力を押し付け合い、

空気が爆発寸前の圧力で歪む。


そして――


バリィーーーーン!!!!!


乾いた破裂音と共に、結界が粉々に砕け散った

しかし…ネイブの解放もここで途切れる

その刹那、ガロスの口元に笑みが走る。


「……よし……! かませ、ひより嬢ちゃんッ!!!」


ネイヴの巨体がわずかにたじろぎ、攻撃を止める。

絶好の反撃の好機だ。


「お、おおあああ」


魔力を限界まで溜め切ったひよりは、強く息を吐く。


(大丈夫……やれる……! 皆がここまで繋いでくれた……無駄にはしない!)


その瞬間

手に握っていた、お守り代わりの魔法少女の杖が、突如として震え始めた。

杖の宝石が淡く、しかし脈動するように強く光り出す。


(……え?なんで……?でも……出来る……!

理由は分からないけど……!)


両手を前に構え、解放を撃つ………はずだった。

しかし、自然と杖を突き出していた。


「ラブリー☆ビーム!!!」


カッ!!!!


耳をつんざく轟音と共に、杖の先端から奔流が解き放たれる。

それはネイヴの黄属性の一撃すら上回る

凝縮された高密度の光。


「お、おあああああ……ろろ……!」


ネイヴは慌てて黒属性、超能力の壁を展開する。

だが、その防御は何の抵抗もなく貫かれた。


ズバァァァ!


光の槍は一直線に頭部を撃ち抜く。


「あぁ……あ……ざ……んね……」


ドザァァァン――!


大地を震わせ、幹部ネイヴの巨体が崩れ落ちる。

その瞬間、魔族の群れが一斉に糸の切れた人形のように倒れ伏した。


「や……やった……のね……ひより」

セリアが、信じられないものを見たように息を呑む。


「信じられんが……どうやら、そのようだ」

コーの声もまた、現実感を失っていた。


二人の目の前で、信じられない勝利が刻まれていた。


「はぁ……はぁ……打てた……」


膝から力が抜け、ひよりはその場にポテリと崩れ落ちた。

全身を駆け巡る疲労と、まだ残る杖の震え。


そこへ、弾かれたように駆け寄ってくる声。


「やったぞ!!ひより嬢ちゃん!!ネイヴ討伐成功だ!!犠牲なしだ!いやぁ……たまげた!」

満面の笑みを浮かべるガロスの声が、戦場に響く。


「あ……よかった……です……」


次の瞬間、勢いそのままに抱きついてきたのはセリアだった。


「ひより!!本当に良く頑張ったわ……!ありがとう……」


「セリアさんも……魔族を……」

そう言いかけたが、魔力を使い果たした体は重く、声はかすれていく。


そんな二人の横に、震えた足でゆっくりと歩み寄る人物…。


コーだった。


「……君のおかげで……娘の仇を討てた……

本当に感謝しかない…うっ…う…」


「そ……そんな、コーさん……私はただ……」


言い切る前に、コーはその場に膝をつき、顔を覆って泣き崩れた。

その背中に、戦いの重みと、長年の哀しみがにじむ。


勝利と涙が、戦場を包んだ。


少し離れた場所で、その光景を眺めていた

ウーリスとロベルト。


「言っただろ?俺たちは今日、魔王討伐へ一歩近づくって」


「ええ……そうですね……まさかこんな隠し玉がいたとは」


「ロベルト、今日はガロスさんの奢りだ。

付き合ってくれるか?」


「遠慮なく。たんまり飲み食いしましょう」


そう言って笑い合う二人の背後には、夕日が差し込み、戦場の影を長く伸ばしていく。

誰もが胸の奥に、それぞれの“勝利の想い”を抱きながら。




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