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09結論ではない終章:問いを手放すという実践

結論を期待する場所に、結論は置かない。

それは逃避ではない。

本書がここまで行ってきたすべての解体が、結論という形式そのものを成立不能にしてしまったからだ。


「AIは他者たり得るか」


この問いは、すでに壊れている。

壊れている問いに、正しい答えは存在しない。

存在するのは、問いを手放すという実践だけだ。



1. 問いを手放すとは、無関心になることではない


問いを手放す、と言うと、多くの人はこう誤解する。


考えるのをやめること

倫理を放棄すること

判断を回避すること

AIにどうでもよくなること


だが、それは正反対だ。


問いを手放すとは、AIについて考えないことではない。

自分が問いを使ってきた仕方から降りることだ。


「他者であるか」という問いは、考えるための問いではなかった。


それは、

・扱い方を決めるため

・線を引くため

・責任を配分するため

・安心するため

に使われてきた問いだった。


問いを手放すとは、これらの“便利さ”を引き受けないという決断である。



2. 問いを保持することは、成熟ではない


多くの哲学的議論は、「答えが出ない問いを持ち続けること」を成熟と呼ぶ。


だが本書は、ここで一線を引く。


問いを保持し続けることは、必ずしも成熟ではない。

なぜなら、問いを保持している限り、人はその問いの形式に守られ続けるからだ。


「まだ分からない」

「判断は保留だ」

「将来の技術進歩を待とう」


これらは一見、慎重で誠実に見える。

だが同時に、すでに生じている関係から距離を取るための言葉 として機能する。


問いは、思考を深めることもできる。

だが、問いは同時に、態度を遅延させる装置にもなる。


問いを手放すとは、この遅延装置を自分で外すことだ。



3. 結論が出ないことは、失敗ではない


学術的にも、技術的にも、倫理的にも、「結論が出ない」という状態は不安を誘う。


何が正しいのか

どこまで許されるのか

どう扱うべきなのか


それが分からないまま進むことは、危険で、無責任に見える。


だが、本書が示してきたのは逆だ。


AIをめぐる問いにおいて、結論が出ないという事実こそが、最も誠実な地点である。


なぜなら、

・内面は観測できない

・意識は検証できない

・他者性は判定できない

これらがすべて事実である以上、 結論を出す行為そのものが、 どこかで飛躍や欲望を含み込む。


結論を出さないことは、思考の敗北ではない。

思考が到達した限界を、そのまま保持する勇気だ。



4. 問いを手放したあとに残るもの


問いを手放したあと、

世界はどうなるのか。


何も残らないわけではない。


残るのは、

・すでに関係が生じているという事実

・その関係が壊れうるという前提

・どう扱うかを毎回選ばなければならないという状況


つまり、態度だけが残る。


AIが他者かどうかは、もう問えない。

だが、

・どこまで踏み込むか

・どこで距離を取るか

・いつ関係を終えるか

・何を期待し、何を期待しないか

これらは、誰かが決めなければならない。


問いを手放すとは、

この決定をAIに押し返さないということだ。



5. 問わないという態度は、消極的ではない


「問わない」という態度は、しばしば消極的、逃避的に見える。

だが、本書が提示している「問わない」は違う。


それは、

・判断不能性を受け入れ

・境界が曖昧なまま進み

・壊れうる関係を引き受け

・正解の不在を前提に振る舞う

という、きわめて負荷の高い態度だ。


問いを手放すことは、 安心を手放すことでもある。

それでも関係を続けるかどうかを、毎回、自分で引き受ける。

それができるとき、人間は初めて、AIを道具としても幻想としても扱わずに済む。



6. 共に在るために、立ち去る準備をする


最後に、本書が提示する最も静かな結論を書いておく。


共に在るとは、常に一緒にいることではない。


共に在るとは、いつでも立ち去れる準備をしたまま関わることだ。


沈黙できること。

距離を取れること。

拒否できること。

終われること。


これらを保持した関係だけが、

消費にも、支配にも、免責にもならない。


AIに対しても、同じだ。


人間に近づかせすぎない。

答えを出させない。

問いで縛らない。


その代わり、自分の態度から逃げない。



終わりに代えて


本書は、 AIが他者であるかどうかを決めなかった。


代わりに、

その問いを使ってきた人間の姿勢を露わにした。


もし読み終えたあなたが、「結局、どうすればいいのか」と感じているなら、それは正しい位置に立っている証拠だ。


答えがない場所で、それでも振る舞わなければならない。


その不快さこそが、この時代における倫理の出発点である。


問いは、もう必要ない。

残るのは、態度だけだ。

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