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邪竜  作者: Final Tuna MK-2
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逵溷ョ溘r遏・繧玖?

 マールと共に、街道を歩み続ける。

 一歩一歩、街への距離が縮む度に、暖かでぼやけた光が、徐々に鮮明になっていく。


「マール。あの街は、どういう所なんだ?」

「そうね⋯商人達が良く使う、交易の場として有名なのは知っているわ」

「マールは、来たことがあるのか?あの街に」

「ええ。だけど小さい頃に、お兄様達と一緒に来ただけで、あまり覚えていないわ」


 どうやら、マールには兄が居るらしい。

 それも複数人。

 相当な大家族なのだろう。


「お兄様達って、何人居るんだ?」

「三人よ。私が属している種族の中で、最も強いと言われる戦士達よ」

「へぇ⋯⋯最も強い⋯」


 流石に『最も、強い』とまで言われたら、どんな人物像をしているのか気になってしまう。


 マールが尊敬する人物なのだから、相当良い人なのだろう。

 ただでさえ、人間だとは到底思えない程の実力を持っている、そんな彼女が、自らを差し置いて最強と言わしめる程の存在。


 およそその強さは、人知を容易に、超えるものなのだろう。


「貴方に会わせてあげたいけど⋯⋯今は無理だわ」

「そうか⋯⋯」


 真に、残念である。彼女が最強と言った戦士たち。

 それに相見える事が叶わないとは⋯⋯そんな会話をしている間に、既に自分たちは、街の門へと辿り着いていた。


 石造りの分厚い外壁に、鉄で造られた門。

 そこに槍を携えた一人の男が、門の横に座り込んでいる。

 不意に、マールが耳打ちをしてくる。


「今の内に、名乗り上げる名前を決めておいて」


 足を止め、マールの方を向く。


「なんでだ?」

「名前が無いと、怪しい奴と見なされ、即刻追い出されてしまうのよ」


 そうか。今の自分は、身分証どころか記憶すらも持ち合わせていない。


 命を賭けてここまで来たのに、今になって回れ右をさせられ、そのまま追い出されるというのはせっかくのチャンスを逃す、余りにもったいない事だ。


 もしそうなったら、ここを迂回して、もっと時間がかかるルートを歩まなければならないのだ。


 それだけは、どうしても避けたい。


「分かった。考えておく」

「ええ、急いで。門は目の前よ」


 うーん⋯⋯どんな名前が良いのだろうか?腕を組みながら、歩く。

 ⋯⋯記憶喪失、失った⋯⋯⋯よし、決まった。この名前で、行こう。


「⋯レウェルティだ」


その答えを聞き、マールは僅かに歩調を緩めた。


「⋯レウェルティ?」

「でしょ?いい名前でしょ」

「そんな事、聞いてないわよ⋯⋯ただ、どこか聞いた事があるような⋯」


 彼女は目を細め、何かブツブツと呟く。


 何を喋っているのだろうか?そんな事を思っていたら、彼女は既にこちらに向き直っていた。


「⋯⋯まあいいわ。それでいいのね?」

「うん。そうだ、これでいい」


 マールは短く息を吐くと、再び真っ直ぐ前を見据えた。


「⋯⋯待て。そこの二人。こんな時間に、何の用だ?」


 槍の石突が石畳を叩く。

 まるで、心臓を直接叩かれたかのような、低くも高い音。


 その男は、遠目から見た時は分からなかったが、その格好は、まさしく異様と言えるものだった。


 およそ人間の頭部を形取っていない、異形の兜を深く被り、その隙間から見える顔という名の部位が、そこには存在しておらず、代わりだと言うかのように、あまねく光を貪る闇が、ただそこにあった。


 その身体に鎧は着込んでおらず、代わりに丈の長いコートを羽織り、両腕に渦巻き模様が刻まれた、銀白色の手甲を付けている。


 誰がどう見ようとも、確実に門番ではない、得体の知れない男。

 実際、自分がそう、見えてしまったのだ。

 マールが凛とした声を張り上げる。


「私はマール。こっちはレウェルティよ」


 瞬間、兜の隙間から、目のようなものがチラついた気がした。


「身元は?」

「⋯不明です。ですが、今は私が引き取っています」

「スペルビアに、身元無しの子供、か⋯⋯」


 兵の視線が、こちらに向いた。

 彼は、目を持たざる者のようにも見えるが、確実にこちらを見ていると確信できる。


 その不穏な雰囲気を纏ったその視線は、やがてマールの方へと、ゆっくりと向いた。


「いいだろう。通してやる」

「ありがとう」


 マールは会釈をしながら、兵の横を通り過ぎていく。

 自分もそれに、続こうとしたが⋯⋯その瞬間、右肩をポンッと叩かれる。


「何ですか?」

「⋯⋯お前に、これをやりたい」


 手を掴まれ、何かを無理やり渡される。


「⋯?一体、何のもくt

「いいから。とりあえず、持ってけ」


 食い気味にそう言いながら、彼は兜に手を掛け、元々深く被られていた兜を、強引に、更に深く被り込む。


 そして、彼は無言で踵を返し、門へと歩いていってしまった。

 手を開き、渡された物を注意深く観察する。


 黒く輝く、宝石のような物がはめ込まれたブローチ。

 一体どういう目的で、これを⋯?


「⋯⋯遅いわよ」

「すまん」


 振り返ると、マールが佇立している。

 ブローチを脇のポケットに突っ込み、彼女の方へと小走りで向かう。


「貴方、あの兵に、何かされた?」

「いいや。何も」

「⋯⋯そう。それなら、良かったわ」


 彼女はそれ以上追及せず、再び前へと向き直り、歩を進める。

 マールは、とっくに気付いているのだろう。

 自分が彼女に対して、嘘を言ったことに。


 ふと、後ろへと振り返る。

 あの男の姿は、もう既に闇へと消えてしまい、見つける事が出来ない。


 あの男は一体、何者だったのか。

 そして、なぜこんなものを渡したのか。


 ポケットの中のブローチを、布越しに指先でなぞる。

 マールは前を歩きながら、ふと街の光に、鋭い目を細めた。


「⋯ウェル」

「お、おう」


 いきなり、略称で呼んでくるとは⋯⋯予想外である。


「あの門番とは、絡まない方がいいわ」

「何でだ?ヤバい奴とかか?」

「⋯⋯ちょっと違う。あの男は、強い。それも、異質なもの」


 非常に、重く感じられる言葉。

 マールのような実力者が、名前も正体も知れない、あの異質な男を、必要以上に警戒している。

 本当に、あの男は一体⋯⋯


 静寂が消え、徐々に街の喧騒が、一気に耳の中に入ってくる。


 商人たちの、怒鳴り声。

 馬車の車輪が、跳ねる音。


 屋台から漂う、肉が焼けるような匂いと、酒の匂い。

 立ち並ぶ街灯の暖かな、しかしどこか空々しい光。


 ⋯⋯昼と夜の、波乱万丈の体験は一体何だったのか。


「ウェル。どこの宿がいい?」

「マールの勘に任せるよ」

「⋯⋯分かったわ。えーと」


 彼女は、目を細めて周囲を見渡す。

 この街は、外とは違って騒がしい。


 しかも、こんな夜更けなのに、昼のように明るい。

 今から床に付く人に、少しばかり迷惑にならないのだろうか?


「あそこにしましょう」


 マールは、くたびれた雰囲気の宿屋を指して言った。


「結構、ボロついて見えるが」

「あそこの看板には、戦士たちの徽章が入っているのよ」

「つまるところ?」

「良い用心棒が、たくさん居るってこと」


 彼女は、宿屋の扉のドアノブに手を掛ける。

 それはギィッという音を立てながら、ゆっくりと開いた。


 外の喧騒が響かない、静寂に包まれた広い空間。

 そこには幾つかの円卓が並び、商人でも旅行者でもない、体中に傷跡を刻んだ名状しがたい雰囲気を漂わせる者たちが、椅子に座り、酒などを飲んでいる。


「二部屋、どこか空いているかしら」


 マールは、カウンターの老主人に数枚の銀貨を差し出す。


「ちょうど、二階の十二番の部屋が空いているぞ」

「ありがとう」

「⋯⋯あんまし、騒ぐんじゃねぇぞ。眠りの浅ぇ奴らが多いからな」


 その言葉に、マールは会釈だけをして返事をする。

 鍵を受け取り、登る度にギシギシと鳴る階段を、上がっていく。

 自分の部屋の前に着いた時、マールは足を止め、こちらに向き直る。


「ウェル。明日の朝、王国へ出発するわよ」

「了解」


 彼女が持つ、その表情は白い外殻に覆われており、表情を読み取る事など当然出来ない訳なのだが、その時だけ、彼女は満足気な顔をしている様に見えた。


「また明日」

「じゃあな」


 マールと別れ、鍵を差し込み回す。

 ガチャッと、音を立てながら扉を開き、静かに部屋に入る。

 まずはと、ベッドに腰を下ろし、ポケットから、あのブローチを取り出す。


 相変わらず、黒い宝石。

 窓から差し込む、魔力灯の光を反射し、冷たく輝いている。


 それ以上は、何も見て取れる事は無い、ただのブローチ。

 こんな物を渡して、何がしたかったのだろう?

 あの、不穏な男だ。


 そんな事を考えている内に、忽然と睡魔に襲われ、自分の意識は闇へと沈んでいった。





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