第8話 銀河は腸内に宿る
理科の授業。
黒板には「腸内細菌」の文字が白く走っていた。
「人間の腸の中には、約100兆個もの細菌が住んでいます」
先生が指し棒を動かすと、スライドに映し出されたイラストの中で、善玉菌と悪玉菌がにこやかに並んでいた。
「これを“腸内フローラ”と呼びます。名前のとおり、まるでお花畑のように多様な細菌が共存しているんです」
(100兆……!? 天文学的な数字!!)
あかりは鉛筆を握りしめた。
脳裏に、瞬時に銀河のイメージが広がる。
(……もしかして……腸内フローラ=銀河系!?)
腸のひだが広がる映像が、いつのまにか宇宙空間の渦巻銀河に変わる。
そこには星々がきらめき、腸壁の奥深くで善玉菌が太陽のように輝き、悪玉菌が暗黒星雲のようにうごめいていた。
(腸=銀河。肛門=その出口。じゃあ、私たちが排泄するとき――まるで銀河が新たな恒星を吐き出してるみたいじゃない!)
頭の中で稲妻が走り、胸が高鳴る。
(腸内の100兆の命が、互いに牽引し、競合し、バランスを保つ……
それって銀河そのものじゃない!!)
思わずノートに力強く書きつける。
腸内=銀河
フローラ=星々
排泄=ビッグバンの余波
だが、その瞬間。
「――あかり!」
隣の席の子が小声で突っついた。
「ノートすごい勢いで書いてるけど、そんなに理科好きだっけ?」
「えっ!? あ、う、うん! めちゃくちゃ好き! 宇宙的に!!」
思わず声が裏返り、周囲の視線が集まる。
あかりは赤面し、慌てて笑ってごまかした。
しかし心の中では、すでに別の連想が広がっていた。
(……重力が星をまとめるように、腸の中でもバランスをとる力がある。
もし重力がなかったら星は散らばる。
もし善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れたら、お腹は大変なことに!)
彼女の胸にふくらむのは、笑いと畏怖が入り混じった妙な感情。
(人間の身体そのものが小さな宇宙……
そして肛門は、宇宙と私をつなぐ、唯一無二のゲート……!!)
ぐわん、と脳がしびれる。
視界に銀河が広がり、無数の星が渦を巻く。
――だが、次の瞬間。
「じゃあ、まとめに入ります」
先生の声が響き、あかりは我に返った。
ノートには「腸内=銀河」「肛門=宇宙ゲート」と大きく書き殴られている。
(やば……これ、後で誰かに見られたら絶対変な子だと思われるやつ……!)
そっとページを閉じるあかり。
でも、その胸の奥では確かにまたひとつ、宇宙が芽吹いていた。




