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第28話 休日は宇宙デート?

 週末の夜、洗面所から湯気が漂い、あかりは濡れた髪をタオルで拭きながら自室に戻る。

パジャマに袖を通し、布団を整えると、部屋には石けんの香りと一日の終わりの静けさが満ちていた。


昨日の図書室での妄想タイムワープの余韻がまだ残る。机に広げたノートには、肛門管の断面図、歯状線、ヒューストン弁が色鮮やかに描かれ、あかりは思わず自分の興奮を再現するかのように、指で線をなぞる。


スマホを取り出すと、光からのメッセージが届いていた。


「明日、予定ないなら、ちょっと買い物付き合ってくれよ」


その一文を見た瞬間、あかりの心臓は跳ね上がった。

(え? 二人っきり? これは……デ、デート!?)


けれど次の瞬間、脳内で冷静な自分が囁く。


『落ち着け、あかり。ただの用事かもしれない。光のやつ、どうせ漫画の新刊とか買うだけだろ……』


理性は必死にブレーキをかける。しかし、その努力はあっという間に妄想エンジンに飲み込まれてしまう。


机に突っ伏すあかりの頭の中では、すでに「買い物」という平凡な言葉が、未知の宇宙冒険に変換されていた。


(光と行く……宇宙デート……! 肛門宇宙を超えて、次は商店街銀河をワープするんだわ……!)


瞼を閉じると、脳内にはすぐさま映像が展開する。

商店街のアーチが巨大なワームホールに姿を変え、店先の提灯が惑星のように輝き、八百屋のキャベツが緑色の衛星に見える。


「うわぁぁぁ……! ここはオリオン商店街銀河団……!?」


心の中で叫ぶあかり。

光が隣を歩けば、その姿は宇宙服をまとったパイロット。彼女自身は銀河探査艇の副操縦士。


——二人で並んで歩くたび、視界の片隅にあのギザギザの歯状線が浮かび、ヒューストン弁が小さく光を放つ。

どこを歩いても、あかりの脳内では時間と空間が交錯し、あり得ないタイムワープが発生する。


「……ああっ、心臓が! この鼓動、まるで肛門括約筋をプローブで通過したときの抵抗と同じ……!」


頬を赤らめながら枕に突っ伏し、声を抑えて悶える。


——さらに妄想は拡張する。


レジの行列は、宇宙ステーションに入港する探査船の渋滞。

本屋の自動ドアは、恒星間ワープゲート。

店員さんの「次の方どうぞ〜」は、宇宙管制官の通信。


そして、光が振り向き、レジ袋を片手に笑いかけてくる。

その瞬間、あかりの脳内では銀河が弾け、超新星爆発の光が広がる。


「ぎゃあああ……! 眩しい! 光が、光がまぶしすぎるっ!!」


——現実では、布団の上で一人、枕に顔を埋めてジタバタしているだけだ。


(いや、待って。これ……ほんとにデートなの? それとも単なるおつかい要員?)


冷静な自分がまた囁く。けれど、その声はもはや耳に入らない。

心臓の鼓動はますます速まり、布団の中で丸まりながら、彼女は思考を制御できなくなっていた。


「もし映画館に寄ったら……もしファーストフードで隣同士になったら……もし帰り道が夕焼けで染まっていたら……」


一つ妄想するたびに、銀河が広がり、時空が歪む。

やがて部屋の天井すら星空に変わって見え、布団の中は宇宙船のコックピットに。


(だめだ、これ以上考えたら……! でも考えずにはいられない……!)


枕に顔を埋めながら、あかりはバタバタと足を動かす。

冷めきった現実の布団が、いつの間にか次元航行艇のベッドポッドになり、彼女はそこで眠る宇宙飛行士となる。


——だが、眠れない。


心臓がドクンドクンと暴れて、目は冴えっぱなし。

考えれば考えるほど、明日の「ただの買い物」が、あり得ないほどの大冒険に化けていく。


「あーーーーーっ! こんなんじゃ眠れないよーーーーっ!!」


布団の中で思わず叫び声をあげ、枕に顔を押し付ける。

窓の外では秋虫の声が響いているのに、彼女の心臓の音だけが大音量で宇宙に鳴り響いていた。


こうしてあかりは、胸の鼓動を抑えることもできず、眠りに落ちることもできないまま、銀河のように広がる妄想を抱え、布団の中で転がり続けるのだった。

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