第26話 肛門タイムワープ、突入!
放課後の図書室。夕陽がページをオレンジ色に染める中、あかりは分厚い医学書に顔を埋めていた。今日のテーマは——肛門管と歯状線、そして括約筋の構造。
「なるほど……外肛門括約筋は骨格筋で、ゴムみたいに締まってるのね……。内肛門括約筋は平滑筋で、自動的に閉じる……ふむふむ」
ノートには円筒形の肛門管、外側と内側の二重リングを丁寧に描く。あかりの指はページの真ん中、ギザギザの歯状線に止まった。
「……こ、これが歯状線……!? このギザギザ、どう考えても境界線よ!」
頭の中で妄想エンジンが点火する。あかりは自分を小型宇宙船のパイロットに見立て、肛門をタイムマシーンへの入口だと思い込む。
《外部ゲート、開く!》
操縦桿を握るあかり。目の前にはゴムのリング状の外肛門括約筋が迫る。
——最初の抵抗。リングを押し広げるようにプローブを進めると、手に伝わる弾力と微かな痛覚。
(ここを抜ければ……未知の時空……!)
内肛門括約筋の前で、圧力センサーが警告音を鳴らす。筋肉がゆっくり広がる感覚。ゴムを押し伸ばすような弾力。視覚化すると、まるで時間の渦が渦巻く稲妻の中に船が突入するイメージだ。
「こ、これって……タイムホールに突入する瞬間と同じ感覚!?」
次に待ち受けるのはギザギザの歯状線。体性神経支配の領域。痛みを感じる敏感なゾーンだ。微かな圧迫感と鋭い痛覚が、船体を揺らす。
《警告! ここから先は痛覚領域!》
《嵐を抜ければ別世界!》
あかりは歯を食いしばり、ゆっくり押し進める。突起にぶつかる感覚。視界が稲妻のように光る。両手で操縦桿を握り、心拍は加速する。
「……こ、これって……ブラックホールの事象の地平線を越える感じ……!?」
そして、ついに——歯状線を通過。ゴムの抵抗も痛覚も抜け、視界がスッと開ける。
——スコーン!!
内臓性神経支配の直腸側。痛みはほぼ消え、圧力感だけが淡々と伝わる異次元空間。まるで時空の裂け目を抜けたかのように、全てが静寂に包まれる。
あかりの妄想はさらに暴走する。直腸空間は銀河、ヒューストン弁は月、肛門柱は星団、肛門洞は暗黒星雲。プローブの進行は流星群の移動とリンクし、タイムワープの光跡を描く。
「……肛門って、宇宙……いや、時間まで操作してるのかもしれない……!」
美咲は隣で小さく笑う。
「……あかり、また宇宙に行ってるのね」
あかりは手元のノートを赤と青で塗り分け、歯状線を越える瞬間の“時空の裂け目”を描く。机上は宇宙艦橋のような錯覚に満ち、息が荒くなる。
「決めた……私の肛門宇宙論は、タイムワープまで網羅する……!!」
夕陽は図書室の床に長く伸び、静寂の中で少女の妄想宇宙は拡張を続けた。




