第14話 膨張するオービット
冬休み間近の放課後、図書室は静まり返り、窓の外の銀世界が淡く光を反射していた。
あかりは机に突っ伏しながら、星空の観察メモをつける……つもりだったが、頭の中はやはり“肛門宇宙論”でいっぱいだ。
（ふう……ビッグバンって、皺の数と同じくらいの規模で起きるのかな……）
自問自答しつつ鉛筆を動かす。光のことは、まだ誰にも言えない秘密だ。
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図書室のドアが静かに開き、光が入ってきた。
肩に掛けたコートの端に雪が少し溶けて光る。
あかりの心臓は一気に加速し、机の下で足を小さく震わせる。
「……あかり、休んでる？」
「ひ、ひゃあっ！？」
飛び上がった拍子に、あかりはノートをぐちゃっと丸めそうになる。
光は驚いた表情で手を差し伸べた。
「大丈夫か？」
「だ、だいじょぶ……！」
その距離、わずか数十センチ。
あかりの脳内では、勝手にブラックホール妄想が炸裂していた。
（ち、近い……これはもう、イベントホライズン級の接近っ！私の心の情報は全部吸い取られる……！！）
光の指先がノートに触れるたび、あかりは背筋がぞくっとする。
もしここで万有引力が働けば――私たち、潮汐力で引き裂かれて、最終的には合体超新星爆発……！！
「……あかり？」
「えっ！？」
光の優しい声に、あかりは慌てて顔を両手で覆う。
その様子を、廊下の窓から覗く美咲は、腕を組んでクスクス笑う。
（よし、仕掛けは完璧。あとはこの子が勝手に妄想して、自爆するのを楽しむだけ……！）
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数分後、あかりは決意を固めた。
「よしっ！やる……！」
「え、何を？」光が首をかしげる。
「私……この宇宙における“愛の重力方程式”を証明するっ！」
図書室にしんとした沈黙が落ちる。
あかりの瞳は、どこか宇宙の神秘を見つめる光のように輝いていた。
（世界ランク1位のアホ、ここに爆誕……！！）
その様子を、廊下から観察する美咲は、手帳を胸に押し付けて笑いを堪えた。
冬の静かな午後、二人の間には、まだ測れない距離感と、勝手に膨張する妄想宇宙が広がっていた。
