第12話 共同研究者現る
放課後の廊下。
あかりは大切な医学書を胸に抱きしめながら歩いていた。
(眞鍋海斗もまた宇宙の秘密を解き明かそうとしていたなんて、こんな身近にまさかライバルがいたなんて…これは研究のスピードを上げるしかない…けど、仲間を増やすにしても光にはこんな話し絶対できないし、あーーー!
どうすればいいのーーー)
その時――
「わっ!」
「きゃっ!」
角を曲がったところで、誰かと真正面からぶつかってしまった。
バサァッ! と派手な音を立てて、抱えていた医学書が床に落ちる。
「いたた……あ、ごめん! あかり!?」
「……み、美咲!?」
目の前にいたのは幼なじみの 段原美咲 だった。
彼女の視線が床に落ちた本に釘付けになる。
「……えっ、ちょっと待って。これ……医学書?」
「ち、ちがうの!これは光に頼まれたやつで、私のじゃなくて、その……!」
聞かれてもないのに、全力で否定するあかり。
「ふーん……」
美咲はにやりと笑い、半ば強引に本を手に取った。
「ちょっと見せてよ」
「だ、だめっ!返してーっ!」
慌てて手を伸ばすが、美咲の方が一歩早い。
パラ……パラ……。
彼女がページをめくっていくと――そこで、手が止まった。
「……な、なにこれ……」
開かれたのは 肛門括約筋の解剖図。
円形の筋肉に、放射状に走る美しいヒダ。
美咲の瞳が一瞬だけ真剣になる。
「……き、綺麗……」
「えっ!?」
あかりが顔を赤らめる。
しかし次の瞬間、脳内で妄想が爆発する。
(そうだ……!脳のシワひとつひとつに記憶が刻まれるように……肛門の皺ひとつひとつにも“宇宙の情報”が刻まれているんだ!!
放射状の線……これは太陽の光線……ビッグバンの痕跡……!)
勢い余って、あかりは美咲に身を乗り出した。
(美咲ならきっと理解者になってくれるはず!)
「美咲っ!! 驚かないで聞いて欲しいの…
実は……私……、“肛門宇宙論”を研究してるの!」
「は……?」
廊下中に響きそうな声で打ち明けてしまった。
美咲は一瞬ポカンとしたあと、心の中で呟いた。
(……こいつは……ホンモノのアホだ……)
脳裏にランキング表が浮かぶ。
各業界に世界一と評される人はいる。
•モハメド・アリ→ボクシング世界王者
•ウサイン・ボルト→人類最速の男
•そして――あかり → 世界ランク1位のアホ
(世界一のアホだあああああ……!!!)
美咲は必死に笑いを堪えながら、真顔を作った。
「……あかり。これ、すごい発見だよ。私も協力する」
「えっ……!本当!? 美咲……ありがとう!」
瞳をうるませ、心底ほっとするあかり。
――その隣で、美咲は心の中で爆笑していた。
(ぷぷぷ……肛門……宇宙論……!
でもこんなネタ、近くで見てないと損だわ……!)
かくして、“共犯者”が誕生してしまったのだった。