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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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シャルは教会へ行くのが楽しみすぎていつもより早く目覚めてしまう。日が昇る前のまだ暗い朝はシャルにとってはとても新鮮な体験だった。

いつも何気に聞こえる人々の生活音やざわめきが無く空気も澄んでいて、時折遠くから聞こえる鳥の鳴き声が夜とは違うのだと知らせている。


シャルはベッドから起き出しカーテンを開けベランダに出てみると、ひんやりとした爽やかな風が頬を撫でるのが気持ち良かった。


家がちょっとした高台に建つお陰でシャルの部屋のベランダからは二百三十度に広がる半円形の水平線が望める。

薄らと明るくなり始めたオレンジ色の水平線を眺めながらシャルはおもいっきり伸びをして元気をたっぷりチャージした。


「チョビ散歩に行こうか!」


チョビは街へ出てきてからずっと大人しく元気がないように思えた。

人間が大勢居る世界に馴れていないせいか、それとも森での生活とは勝手が違うせいか、チョビ本人にも理由が良く分かっていないらしい。


レヴィアスパパがそんなチョビを案じて店とシャルの部屋に止まり木を作ってくれたので、今は大抵の時間をその止まり木で過ごしている。殆ど寝ていると言っても過言ではないくらいに本当に大人しかった。


「クゥ~」


チョビも初めての街の散歩に興味があるのか、それとも久しぶりのシャルと二人での外出が嬉しいのか嫌がる素振りはない。


シャルは急いで着替えチョビを連れて階下へ降り店に出ると、店のイートインスペースにレヴィアスパパが居た。シャルの気のせいでなければ今さっきまで誰か居た気配がある。


(お客さんだったのかな?)


相手が他のパパならば店のテーブルではなく家のダイニングやリビングを利用するだろうと考えた。

しかしシャルはレヴィアスの顔を見てそんな疑問を一瞬で吹き飛ばし、いつも通り姿勢を正し挨拶をする。


「レヴィアスパパおはようございます」


レヴィアスパパは特に挨拶には厳しかった。挨拶の仕方返し方で相手の性格や人間性が分かると良く口にしている。そして相手とどういう付き合いをするかは挨拶で決めるとも言っていた。

シャルにはまだ良く理解できていなかったが、少なくともレヴィアスパパに失望されないように挨拶だけはきちんとするように心がけていた。


「ああ、おはよう。こんな朝早くにどうした」

「チョビと散歩に行ってくる!」

「それは良いがどこまで行くか決めているのか?」


シャルは聞かれて始めて自分がどうしたかったのかを深く考える。

チョビに元気になって貰いたいという思いもあったが、なんとなく朝日が昇るのを見てみたくなったのだ。


「えっと、お日様が昇るのを見てみたい」

「ならば急がないとな。シャルが迷っている間にすぐにお日様は昇ってしまうぞ。今日は私がとっておきの場所を教える。散歩ルートは追々自分で決めなさい」

「レヴィアスパパも一緒に行ってくれるの。ありがとう!」

「急ぐぞ!」


シャルは店を出ると早足で歩くレヴィアスの後を懸命に追いかける。チョビはそんなシャルの後を追うように飛んで付いて来ていた。


シャルの体力的にはまったく問題なかったが辺りの景色を確認している余裕がなく、どこをどう通ったか覚えるのが大変だった。

これが森の中ならば目印を付けながら進む事もできるが街中だと同じようにはできなくて、シャルはどんどん焦りを感じ始めていた。


森の中で迷うのは命取りだ。だから絶えず自分の現在地を把握し、家までの帰り道を見失わないようにとエルムパパに教えられていた。

シャルはそれを実践しようとしていたがやはり街の中は勝手が違う。


「ここは森とは違う。そんなに焦らなくて大丈夫だ」


そんなシャルの様子に気付いたレヴィアスがシャルに声を掛ける。


「迷ったりしない?」

「方向さえ見失わなければ街の中は簡単だ。それでも不安なら誰かに聞けば良い」

「そっかぁ、聞ける人がいっぱい居るんだね。聞けば良いのか」


シャルはさっきまでの焦りを吹き飛ばし、気を楽にした分ちょっと楽しくなってレヴィアスの後を追った。

そうしてたどり着いたのは海沿いの崖の上だった。


ここへ来るまでにちょっとした森に入りトンネルのようになった木々の間を潜ったので、確かに秘密の場所っぽい感じは十分にある。

それにここだけが少し海に突き出て陸側が岩に囲まれ、シャルの家の庭より少し大きめな広場みたいになっているのが空間を感じさせなんとなく落ち着く。


「朝日を見るならここが一番だ。誰にも邪魔されないのも私のお気に入りだ」

「レヴィアスパパも朝日を見に来るの?」

「ああ」


シャルと一緒にこの街に越してきたはずなのにレヴィアスはもう既にお気に入りの場所を見つけていたと知り、シャルはレヴィアスに尊敬の眼差しを向ける。

そんなレヴィアスの表情は水平線よりももっと遠くを見ているようで、何かいつもと違うとシャルは感じていた。


「僕のお気に入りにしても良いの?」

「その為に教えた」

「ありがとうレヴィアスパパ」


チョビもこの場所を気に入ったのかシャルの頭上を鳴きながら旋回している。


シャルは水平線に差す後光のような鮮やかな光に感動し、水平線からゆっくりとその姿を現し始めたお日様を黙って見詰めた。

そして今日はとっても良い日になりそうだとそんな予感を抱きながらウキウキしていた。



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