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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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「シャル君は今日も元気かな」


ガラス扉を開けて、いつもの時間いつものようにジャン爺さんが姿を見せる。


「ジャンソンさんいらっしゃいませ~。今日のおすすめはレタスたっぷり照り焼きサンドとクリームたっぷりあんバタサンドです」


シャルも何度も練習していたとおり、いつものように今日のおすすめを早速知らせる。


「それはまた究極の二択じゃな。困った~」

「究極の二択?」

「甘いのとしょっぱいの、主食とデザートみたいじゃないか。儂はどちらも嫌いじゃないからなぁ。どちらにしたらいいものか、これは困った」

「僕もどっちも好き!」

「そうかそうか、何でも食べるのは偉いぞ」


口では困ったと言いながら困った素振りなど微塵も見せず、ジャン爺さんはシャルの頭に手を乗せて嬉しそうにシャルを褒める。


「ではレタスたっぷりを店でいただいて、クリームたっぷりは持ち帰るとしよう。それと飲み物は今日は紅茶にしようかのぉ。シャル頼めるかな」

「かしこまりました-」


シャルは今受けた注文を伝票にゆっくりと一文字ずつ書いていく。最近は文字を読むだけじゃなく書くのもしっかりとできるようになっている。

勿論計算も単純な足し算引き算なら間違えることなく全然大丈夫だが、割り算でお一人様いくらの会計計算はまだまだまったくダメだった。当然かけ算も。


「チョビはまた大きくなったか?」


止まり木で眠るチョビを見てジャン爺さんがレヴィアスにそっと尋ねる。


「成長期のようですので」

「ただのフクロウでは無いのだろう。大丈夫なのか?」


この店を訪れる客の殆どはチョビを置物か何かだと思っていて気に留める者など殆ど居ない。なのでこの質問にはレヴィアスは少し驚いた。

というより事実このまま成長し真の聖獣の姿になった時の想定をしていなかった。


今はフクロウのようにも見えるチョビだが、その真の姿がどのようなものなのかをレヴィアスは知らない。姿形だけでなく大きさも何もかも知らない事だらけだ。

いつまでこの店の止まり木で眠っていられるかそろそろ考えなくてはならないかとレヴィアスは思う。


「ご助言ありがとうございます。少しシャルとも話し合ってみます」

「余計な口出しでなかったのなら良かった。それとまた頼みたい事がある。後で使いをよこすがいいかな?」

「今宵私の方から出向きましょう」

「ではお願いした」


ジャン爺さんは小さく頷くといつもの自分の指定席へと向かい悠々と座る。

注文を伝票に書き終えたシャルは調理場へと届けた後、話し相手をすべくジャン爺さんの指定席の傍に立った。


「レヴィアスパパと何を話していたの?」

「たまには焼き菓子でも買って帰ろうかと相談したんだがの、考えてみたら今日はクリームたっぷりがあるんだったわ」

「あのクッキーは明日食べても美味しいよ!」

「おっシャルは商売上手じゃのぉ。儂にあの焼き菓子も買って帰れと勧めるのかな」

「えっとそうじゃなくて・・・」

「分かっておるわ。儂のことを考えてくれたんじゃろう。では、あの焼き菓子は明日買って帰るとしようかの」

「ありがとうございます!」


シャルはジャン爺さんがクッキーを買ってくれると約束してくれた事で、なんとなくレヴィアスの仕事の手伝いもできたような気がして嬉しくなり顔を綻ばせる。


カランカランカラン


エルムの手によってジャン爺さんのところへ紅茶が運ばれて来たのが合図のように次のお客が訪れる。


「いらっしゃいませ~」


シャルの元気な挨拶が店内に響く。が、レヴィアスは硬い表情のまま軽く頭を下げるだけで、お客を迎えるために言葉を発することはない。かなりお高くとまったどんな高級店だといった感じだ。

エルムは一応微笑んでみせるが、その仕草がまるでいちいち高貴な王子様のようでお客に緊張感を与えてしまう。

なのでこの店はシャルが居なかったら、きっとどんな客にとっても敷居の高い店となっていただろう。


「シャルく~ん、また来ちゃった」

「あっミデルお姉さんいらっしゃいませ」

「やだぁ、名前を覚えてくれてたの~」


ミデルお姉さんはシャルに抱きついて感激した。


「はい。教えていただいたので忘れません」


以前話し相手をした時に聞いた名前を覚えていたのでふと呼んでみただけなのだが、名前を呼んだ事でこんなに喜んで貰えるとは思っていなかったシャルはちょっとだけ緊張し体が硬くなった。


「ねえねえシャル君、私の名前はレリィーよ。覚えてくれる?」

「レリィーお姉さんですね」

「やだぁ~、お姉さんはいらないわ。レリィーって呼んで」

「じゃぁレリィーさんでいいですか」

「う~ん、この際それで許しちゃう」


シャルにはレリィーお姉さんは何が不満なのか良く分からなかったが、どうやら納得して貰えたと取り敢えず安心する。


「なんだか今日はとっても気分が良いからこのケーキ食べちゃおうか」

「そうね勿論一人一つずつよ」


お姉さん達はショーケースを覗き込みそこに飾られるように置かれているケーキを選び出す。

シャルはそれを見てまたまたなんだかとても嬉しくなる。そしてお客さんの名前を覚え名前を呼ぶのはとても大事な事なのだと思うのだった。


「私はこのガトーショコラください」

「私はこっちのチーズケーキをお願いします」

「あっ、勿論店内で食べていきます!」

「ねぇねぇ、じゃあ飲み物はどうする?」

「そうねケーキなんて初めてだもの何を飲んだらいいのかしらね」

「すみません、このケーキに合う飲み物を教えていただけますか?」


レヴィアスは図らずも少々忙しくなった状況に、そっと知られぬように溜息を吐くのだった。



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