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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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それぞれ思うところは違えど、これからシャルに何があっても守ってみせるというのは三人のパパ達の共通の思いだった。


エルムは早朝散歩にさらに熱を入れ基礎体力を鍛え体術を教え、キラルはいつも以上にシャルの話を聞くようにし、レヴィアスはシャルが使った転移の解明を進めると共に魔力操作の練習をさせるようになった。


なのでシャルはまたさらに忙しくなってしまったのだが、シャル本人は三人のパパ達それぞれと過ごす時間が増えたことが嬉しくてけして嫌ではなかった。

寧ろ自分の知らないことを教えられ新しくできることが増えるのは楽しかった。


そしてチョビには元々小動物や魔獣を狩る習性があった。それは魔獣の活動が活発になる夜が多いと知るレヴィアスは、シャルには内緒でチョビを深夜の時間にそっと野外に解き放つ。

シャルに内緒にしたのはシャルも一緒に活動したいと言い出されることを避けるためだった。


シャルの性格からしたらチョビ一人で何かあったらどうするんだと言いだし、自分も一緒に行くと駄々をこねるだろう。下手をしたら教会へ通うのや店の手伝いを止めてでも付いて行くと。


そうなると説得するのに苦労するのは目に見えている。できれば今の状況はあまり変えたくないとレヴィアスは思っているので、必然的にシャルだけでなくエルムやキラルにも知らせない事にしたのだ。

それにチョビも一人で自由に狩りをする方がきっと成長も早いだろうとも考えていた。


「お前もシャルのために少しでも成長し力を付けてくれ」

「クゥ~」


チョビにレヴィアスの言葉は通じなかったがその思いは通じるものがあり喜んで窓辺から飛び立つ。

どのみちチョビは昼は店の止まり木で眠っているだけなので、チョビからしたら深夜外出は魔獣も狩れて返って嬉しい事だった。


そうして店の客から見たら表面上何も変わらない日々が続いていたが、店の雰囲気は若干変わり始めていた。


「ふぅ~。もうホント嫌になっちゃう」

「お姉さんも大変なんだね」

「そうなのよ。私の体は一つしか無いっていうのに無理ばかり押しつけてきてさぁ、先輩に逆らう訳にもいかないしホント疲れるったらないの」

「でもお姉さんの頑張りはきっと女神様が見てくれているよ」

「そ、そうかな」

「うん、だからこれ飲んで元気出して」


キラルのキラキラ笑顔に負けない癒やし効果がありそうなほのぼの笑顔を浮かべ、シャルは果実水を提供する。

魔力操作をするようになってから身体強化を覚えたのか、シャルはゆっくりではあったが店のメニューの提供も手伝うようになっていた。とは言っても今のところひっくり返しても被害の少ない果実水だけなのだが。


そして聞き上手のシャルに愚痴を話すお客も増えていて、シャルの人気は確実に高くなっていた。


「ねぇシャル君、良かったら私の話も聞いてくれない?」


別のお姉さんからもシャルに声が掛かる。

お姉さん達もただ聞いて欲しいだけの人が多く、あまりよく分からないながらも相槌を打ってくれたり、励ましてくれるシャルになら気軽に話せるのだろう。

後はただ話し相手が欲しいという場合もあるが、どんな場合でもシャルは丁寧に相手をするので何気に喜ばれているようだ。


「ねえねえ、君可愛いね。良かったら僕と話をしない? そんな子供と話すよりよっぽど楽しいと思うよ」


この店が女性に人気で女性客が多いのを知り、ナンパ目的の男性客も増えていた。

しかし女性客の殆どはエルムの親衛隊で、エルムに自分から話し掛けない、エルムと二秒以上見つめ合わない、絶対に目立つ行動はしない等の厳しい掟が設けられしっかりと統率されている。


そして次いで人気なのがシャル、そしてキラル、若干ではあったがレヴィアスのファンも居て、同じくこの店を守る仲間としてエルム親衛隊に一緒に統率されていた。

なのでこの手のナンパになびく女性はこの店には誰一人居ない。


「今日はこの卵焼きサンドをシェアしようか」

「私はこっちの卵たっぷりタルタルサンドの方が良いな」

「私はこのお月見サンドっていうのが気になる~」


声を掛けられたお姉さんはナンパ男を無視して今日シェアするサンドイッチを決めるべく友達と話し始める。

最近は果実水だけで粘るお客も少なくなり、遠慮無くお高いサンドイッチを何人かでシェアするのが流行っていた。


「やだなぁ、僕を無視するってもしかしてもっと構って欲しいって感じなのかな? 僕達も三人だし君達全員面倒見れるよ」


何をどう面倒見るんだろうと話を聞いていたシャルは不思議に思いながらいつも通りに応対する。


「ねぇねぇ、お兄さん達は何にしますか? 僕まだ注文聞いてなかったごめんなさい」

「チッ、子供は大人しく引っ込んでろ」


シャルに話しかけられイライラを隠そうともせずにシャルを追い払うようにするナンパ男。


「ハイ、アウト! 店の商品に興味が無いなら退場願います」


女性客が絡まれているのは黙って見ていたエルムは、シャルを雑に扱ったナンパ男に少々凄みを利かせ店から出て行くようにと迫る。


「なにぉぉ」


下から見上げるようにして凄みを利かせ視線を鋭くしたナンパ男だったが、エルムと目が合った瞬間に目をパチクリさせる。

今にも射殺されそうな鋭い視線がその美しさを際立てるエルムにナンパ男は一瞬でタジタジになってしまう。強さも容姿も何一つ敵いそうにないとはっきりと分かる。妬む隙も与えないほどに。


「「「きゃぁぁぁ~~~」」」


店内からお姉さん達の悲鳴のような声が一斉に上がる。


「いや~んエルム様~」

「眼福眼福」

「ナンパ男はウザいけどこういう事もあるからねぇ」

「ホントホント、今日のは何よりのご褒美ですわね」

「皆さんお静かにここは店内ですよ!」

「「「は~い」」」


女性客達の騒ぎが収まるとナンパ男達はバツが悪そうに暴れること無くすごすごと店を出て行った。


「シャル男の客は相手にしなくて良いぞ」

「どうして?」

「さっきので分からなかったか。この店の商品が目的じゃ無いからな。これからは男の客は追い出すっていうか店に入れないにしよう」

「それはダメだよ。ジャンソンさんは男だよ。ジャンソンさんが悲しむよ」

「あぁ、例外も勿論ある」

「例外かどうかは簡単に判断できないでしょう。だからさっきみたいに注文をしないお客さんだけ帰って貰えばいいんじゃないかな」


エルムはシャルに論破され、はぁと溜息を吐くしか無かった。

しかしそれでもシャルの成長が嬉しくてエルムは思わずシャルの頭に手を乗せる。


その様子を見ていた店内の客が一斉にヒソヒソと何かを囁き合うのを無視してエルムは仕事に戻る。

そしてシャルは話を聞いて欲しいと言っていたお姉さんの傍に戻り、お待たせしましたとほのぼの笑顔を届けるのだった。



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