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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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「で、この状況は?」


旅人襲撃現場にたどり着いたレヴィアスはエルムに説明を求める。


「でって、お前が殺さずに捕らえておけと言ったんだろうが」

「コイツら全員盗賊って事か?」

「あぁ~、その小汚いヤツらが襲っていた方でその小綺麗な方が襲われてたヤツらだ。面倒くさい事になりそうだから纏めて意識を刈り取っておいた」


エルムは下手に誰かの意識を残し自分が関わった痕跡を残すのを避けたのだ。

それに助けた方にお礼と言う名目で纏わり付かれるのも面倒だし、さらに厚かましく街まで連れて行けなんて言い出されでもしたら折角落ち着いた気分がまた悪くなる。


人間は何処までも自分中心で厚かましい生き物だとエルムは思っている。

こちらに何の利も無い事でもそれが当然とばかりに『お願い』とか『助けて』と言えば人を思い通りに動かせると考えているところがまず許せない。やって貰って当然と勘違いしているところも許せない。


『お礼を』なんて言ってもエルムが欲しいものを提供された事など一度もないし、気持ちが大事とか言ってまずすべてが自己満足的思考なのが許せない。


この場にシャルが居て助けてあげようよと言えば従うかも知れないし、キラルが居れば当然のように助けるという行動に出るかも知れないが今はシャルもキラルも一緒ではない。

だからエルムは何の遠慮もなく今まで通り思うままに行動していた。


「こちらの二人はこの場に放置しておくしかないな」

「魔物避けの魔導具もあるし大丈夫だろう。俺はそこまで面倒みきれない。そもそも俺が助けなきゃこの場で命を落としていただろうからな」

「私は何も言ってないぞ」


エルムが誰かに言い訳でもするように話すのをレヴィアスは軽く受け取る。

なんだかんだ言ってもエルムは何処かで罪悪感を抱き始めているのをレヴィアスは感じていたのだ。


出会った頃のエルムはもっと人間に対して無関心で非情だったのを思えば今はかなり丸くなったと言える。

エルムもシャルを育てるようになった事でかなり人間を受け入れられるようになったのだろうと、レヴィアスはエルムに気付かれないようにそっと小さく笑う。


「それでコイツらなんなん?」

「依頼だ」

「依頼?」

「はぁー」


レヴィアスは大きく溜息を吐くと仕方ないとばかりにエルムに説明を始める。


「この街で生活する上で私達だけでは解決できない問題もある。シャルの将来を思えば権力者と関係を築いておくのも必要だろう」

「どこにそんな必要ある? 俺たちで解決できない問題なんてないだろう」


エルムは大抵の事はレヴィアスとキラルと自分が居れば解決できると本気で思っていた。

まず自分達に敵う実力を持った者などこの世界には居ないと確信している。契約している少女を除いてはだが・・・。

だから力さえ強ければ怖いものなど何もないだろうと。


「シャルの戸籍も必要だったし、権力者の後ろ盾は利用の仕方によってはこの上ない力にもなる。それにこの件と引き換えにシャルが十歳になるまでに学校を作らせる」

「が、学校?」


エルムの思ってもいなかったレヴィアスの返答にエルムは間の抜けた表情を晒してしまう。


「剣術や魔術を専門に学ぶ場所だ。この国にはまだ王都にしかない。王都にはお前もできれば行きたくはないだろう」

「そうだな」


海に近く森もあり自然豊かでそこそこ賑わっているこの街だからシャルを育てる場に決めたのだ。

たとえシャルのためとはいえ自然も少ない王都での生活は精霊の自分達にはキツいものになるだろう事を指摘され、エルムは一瞬シャルと離れて暮らす事を想像する。

そしていずれはシャルと離れる事になったとしてもそれは今じゃないとエルムは激しく首を振る。


確かにシャルにはできるだけ多くの事を学ばせ将来的に多くの選択肢を作りたいとは考えていたが、まさかこの街に学校を作る事まで考えているとは思ってもいなかった。


「でもその権力者とやらは本当に約束を果たしてくれるのか?」

「フッ、ヤツとは一応長い付き合いだ安心しろ。それにヤツが権力者だったのもこの街を選んだ理由だ」

「それで依頼って」


いったいどんな内容なのか聞こうとしてエルムは止める。聞いてもレヴィアスが話すとは思えなかったし、自分らしくもなく関係ない事に首を突っ込もうとしていると気付いたからだ。


シャルの話をしていた延長上でつい興味を持ってしまったが、元々レヴィアスもキラルもエルムも個人のする事にそこまで干渉しあう事はなかった。


「とある人物の奪還もしくは復讐だ。どちらにしても根絶やしにする予定だがな」


レヴィアスの不敵で冷酷な笑顔にはエルムでさえも背筋が凍ることがある。

奪還という事は攫われでもした人物を奪い返すのが目的だろうが、もしかしたら既にって場合も考えられる。

その時は復讐する事になるのだろうが、根絶やしにすると発言したからには多分エルム以上に躊躇する事なく、本当にコイツらの命を刈り取るのだろうとエルムはゴクリと唾を飲み込んだ。


この盗賊達がここに居るコイツらで全員かどうかも分からないが、それを今から聞き出しアジトを突き止めるのも多分簡単ではないだろう。

しかしレヴィアスはそれをたった一人でやろうとしているのだと知り、レヴィアスの本当の恐ろしさをエルムは初めて知った気がしていた。

そして自分には到底マネはできないと思うのだった。



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