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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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エルムは暗い森の中をひとり疾走していた。

木を避け、地面を這う蔦や木の根を軽く飛んで回避し、時には木の枝にぶら下がり体を回転させながら枝に飛び乗り枝から枝へとジャンプで移動する。

途中で襲い来る魔獣はエルムの放つ風の刃かその手に持つ短剣で瞬殺だ。


エルムの身体能力はかなり優れている。特に敏捷性では同じ精霊のレヴィアスやキラルでも敵わないだろう。

だからエルムが本気で走ればまるで一陣の風のように森の中を駆け抜けられる。それはもう信じられないスピードで。

しかし今はまるで何かを振り切るように、または何かから逃げるかのようだった。


今エルムは昼にシャルには絶対に見せたくなかった醜態を晒してしまった事を後悔していた。

シャルの前ではいつでも強くクールでカッコイイパパで居たかったのに、あんな少女の一言に感情を乱された自分の不甲斐なさが情けなかった。


そう反省しながらももっと言い返してやりたかったという思いも何処かにあり、シャルはムシャクシャする気持ちを吐き出すために森に出かけて来ていた。


エルムの気分転換の方法はとにかく体を動かす事だった。

レヴィアスのように思慮深くはできないし、キラルのように善意的に物事を捉えられず、つい反射的にやられたらやり返してしまう。


今までは森に籠もり四人だけの生活だったから比較的問題にするほどでもなかったが、街へと出て来てまさか一番始めに自分がその弊害を生じさせるなど思ってもいなかった。


シャルを立派に育て守る事ばかりを考えていたが、自分も少なからず変わらなければならないのだとしみじみと思い知る。シャルのために。シャルに憧れられる父親像に近づけるように。


(そういえばシャルが憧れる父親像ってどんなのだ?)


エルムはふとそんな事を考えて漸く少し気持ちが落ち着いていくのを感じる。


(やっぱり強くてカッコイイのが絶対だよな!)


強さがただ単に力なのかそれとも精神力なのか、または地位なのか経済力なのかなど突き詰めて考える事をしない。エルムは物事を論理的に考えるより感覚的に捉える方が得意だった。


「はぁ~、戻るか」


かなり気持ちが落ち着いたところでエルムは深く溜息を吐く。一つの事を考え続けるのも苦手だった。

結局これからシャルにもっとカッコイイ所を見せていけば良いのだと結論づけ、エルムは家に戻る事を決め踵を返す。

と、微かに争う音が聞こえる。魔獣が争う音ではなく武器と武器がぶつかり合う金属音だ。


(こんな夜の森で何事だ?)


エルムは一瞬自分には関係ないとも思ったが、今さっき自分も変わるべきだと考え、シャルに憧れられるカッコイイパパになる事を誓ったばかりなので様子を見に行く事にした。

今までだったら自分から人間に関わるなど絶対にしない行動だったが、シャルのためと思えば体が自然と動いた。


エルムは気配を消し急ぎ音のする方へと駆けつけると、五人の小汚い様子の男に囲まれ応戦している二人の男が居た。


(こんな夜に移動するなんて襲ってくださいと言ってるようなものじゃねぇか。バカじゃねえの)


襲われている男達が暗い夜の道を移動していたのにも呆れるが、自分の場所を特定させるかのように煌々とした明かりを照らす魔導具を持っているのにもエルムは呆れた。


どうしても急ぎで移動したかったのだろうが、この世界で安全に移動を考えるなら魔導車に乗るべきだ。

多少料金は掛かるが金を出せば夜でも目的地まで乗せてくれる魔導車もあるし、何なら乗り合いで街から街へと移動する路線魔導車も魔導機関車もある。


それをたとえ急いでいたにしてもわざわざ徒歩で暗い中移動するなど、余程金がないか理由があって人目を避けているかだ。できることなら関わり合いになりたくない。


それにあの明かりは多分魔獣避けだろうが人間相手には効かない。寧ろ魔獣より恐ろしい盗賊に襲ってくださいと知らせるようなものだ。

その旅慣れていない行動からして放置推奨面倒くさい案件決定だろう。


(うん、自己責任ってヤツだな。俺にはどっちの味方もできねぇ)


人間にまったく興味のないエルムにとっては人間の価値観や道徳的考えは実はどうでも良かった。

というよりどちらにも正義があるのだろうとなんとなく考えていた。どちらも生きるために必死なのだと。


だからより強く生きる気力を持つものが生き残るのは当然だとも思う。襲われている方は自分の命を考えたらこんな夜に危険を冒す事もないだろうし、襲っている方は生きるために必死なのだろうと。

世の中弱肉強食で誰にでも自由がある。危険を冒す自由、人を襲う自由、そして助けないという選択の自由。


そうは思うが今は人間が作ったルールの中で生き、エルムはシャルにそれを教える立場だ。


(仕方ない助けるか・・・)


かなり劣勢になっている男達に時間の猶予がないことを悟りエルムは一歩を踏み出す。と同時にレヴィアスから念話が入る。


《その盗賊を捕まえておいてくれ。今そちらに向かう》

《なんでだ?》

《そっちへ行ったら説明する。殺すなよ》

《殺さねえよ、お前じゃあるまいし》


精霊同士レヴィアスとキラルとエルムの間で念話が通じる。

それに特に気配探知に優れるレヴィアスが、エルムの気配を探っていてこの場の様子に気付くのにもエルムは今さら驚かない。

そうしてエルムは今まさに斬り殺されそうになっている男達を助けに入るのだった。



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