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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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「ただいま~」

「お帰り」


朝からずっと気配探知でシャルの気配を追っていたレヴィアスは、ガラスドアを開けたシャルに店での自分の定位置であるショーケース内から動かずに声だけ掛ける。


「おぉ、シャルお帰り! どうだ教会は楽しかったか?」


エルムは素早くシャルに駆け寄り跪くようにして目線を低くしシャルを出迎えた。


「うん、今日はシスターのお手伝いをした!」

「シャル、お帰り~」


調理場ではなく住居から出て来たキラルはシャルに渡したい物を抱え、ウキウキした表情でテンションも若干高めだ。


「フッフッフ~、これ何だと思う」

「なに?」

「ジャ~ン! シャルの制服を作ってみました~」


できたてホヤホヤのシャルが店で着るための制服をキラルは大げさな動作で広げて見せる。


「制服ってなに?」

「お仕事をする時に着る服です!」


キラルはシャルが店を手伝う事になったので、急ぎシャルのための制服も作ったのだ。

キラルはシャルを預かってからずっとシャルの身に着ける物のすべてを手作りしていたので、今ではすっかり洋裁もお手のもの。寧ろ他の誰かが作った物を身に着けさせる気もなかった。


「スゴい! キラルパパありがと~。僕頑張る!!」


キラルは調理場を預かるのでコック服っぽい白い服にエプロンを着け、エルムは今日は若草色のシャツに黒のスラックスにエプロンを着けている。

そしてレヴィアスは執事服のようなきっちりとしたスーツなので一人浮いていた。

なので今回キラルはレヴィアスの執事服に寄せてシャルの制服を作り、エプロンをキラルとエルムとおそろいにしてみた。

もっとも着易さ動き易さも重視しているのでレヴィアスほどきっちりしたデザインではないのだが。


「早速着てみようか」

「うん! 今日からお店を手伝って良いんだよね?」

「そうだよ。シャルもこのパン屋さんの一員だからね」


キラルとシャルは着替えのために住居の方へと引っ込んだ。


「子供が一人居ると途端に店の中が明るく賑やかになるのぉ」


イートインスペースでお茶を飲んでいたご近所さんの一人であるらしい老齢の男性が微笑ましげに話し掛ける。

今さっきまではレヴィアスもエルムも必要以上の言葉など発する事なく、シーンとした静かな空間だった店内の雰囲気が変わった事を悪くは思っていないようだった。


「そうですね」


エルムはいつもの取り繕った笑顔を向け、失礼にならない程度の短い返事をする。

シャルが居ない間何組かのお客はいたが、この静けさに耐えられないのか皆長居する事なく帰って行った。

しかしこの老人だけはこの静けさを楽しむようにゆっくりとお茶を楽しんでいた。


「レヴィアスパパ、エルムパパ、見てみて。どう、僕に似合う?」


駆け足で戻ってきたシャルが制服に着替えた姿をクルッと回転しながら披露する。


「ああ、似合ってるぞ」

「おぉ~、シャルもそれを着ると仕事ができそうに見えるぞ」

「ホント!」

「おお、今日から頑張れよ」

「は~い!」


シャルはそう言うとイートインスペースへと回り老齢の男性に挨拶をする。


「いらっしゃいませ!」

「随分と元気の良い子だのぅ。今日から店の手伝いかい?」

「そうなの!」


うんうんと楽しげに頷く老人にシャルは何かに気付いたように姿勢を正す。


「何になさいますか?」

「シャル!」


既にお茶を楽しんでいる老齢の男性に注文を聞き始めたシャルをエルムは慌てて止める。


「あぁ、良い良い。それでは今日のおすすめを聞いても良いかのぉ?」

「分かった、ちょっと待って」


シャルは今日のおすすめを書いたボードの傍に行き、そこに書かれた内容を読み上げる。


「今日のお、す、す、め。この字は今日って読むんだね!」

「お、坊主はもう字も読めるんだな」

「うん、レヴィアスパパがいつも本を読んでくれるから僕もちゃんと字を知ってるんだ!」

「では是非その先も読んで聞かせてくれんかのぉ。儂は最近めっきり目が悪くなって字が読めなくなってしまってのぉ。頼んだぞ」

「分かった!」


シャルは一文字ずつ片言でつっかえながら読み上げていく。老齢の男性はその様子を微笑みながら見守り楽しそうにしているので、レヴィアスもエルムも注意する事無く見守っていた。


「どれになさいますか?」


おすすめメニューを読み終えたシャルは、老齢の男性の傍に戻りキラルに教わった通りに注文を取る。


「それでは儂はそのフワフワパンケーキとやらにしてみるかのぉ。最近めっきり歯も弱ってしまって固いパンを食べるのも大変だからのぉ。フワフワって事は柔らかいんじゃろう?」

「うん、とってもフワフワで甘くて美味しいよ-」


たっぷりのホイップクリームの乗ったパンケーキにその日の気分でメープルシロップを掛けたり果物のソースを掛けたりチョコレートソースを掛けたりできるのも楽しくて、シャルはキラルの作るフワフワのパンケーキが大好きだった。


「じゃぁそれを頼むかのぉ」

「はい!」


シャルは元気よく返事をすると調理場へと注文を通しに行く。


「お付き合いいただきすみません」


エルムが老齢の男性に頭を下げると、老人はなんて言う事もないとばかりに手をヒラヒラと振る。


「すぐお持ちしますので少々お待ちください」


シャルが調理場から戻り老齢の男性にかしこまって言葉を掛ける。多分今さっきキラルに教わったのだろう。


「坊主の名前を聞いても良いかのぉ」

「僕はシャルです。おじいさんの名前はなんて言うの?」

「おお、儂か? 儂はみんなにジャン爺と呼ばれている」

「ジャンジイ?」


微妙なイントネーションで首を傾げるシャルにジャン爺は詳しく解説をする。


「名前はジャンソンじゃがジャンソン爺さんと呼ぶのが面倒らしくてのぉ。それでジャン爺さんじゃ」

「あぁ~、じゃあジャンソンさんだね」


シャルが納得がいったとばかりに頷くと、珍しくレヴィアスが定位置から出て来て注意する。打ち解けすぎた態度にさすがに思うところがあったのだろう。


「シャル、お客様には丁寧にと教えたはずだ」

「あっ! ごめんなさいシャンソンさん」

「そうじゃのぉ、儂は構わんが他のお客さんにはそうした方が良いかも知れんのぉ」

「はい・・・」

「じゃが儂の話し相手をしてくれてありがとうな。この店に来る楽しみが増えたわ。これからも頼むぞシャルよ」


すっかりしょげてしまったシャルを元気づけるようにジャン爺さんはシャルの頭を撫でた。


「はい! 任せて!」


そうしてシャルはジャン爺さんがフワフワパンケーキを食べる間話し相手を務め、新たに来店したお客には元気に丁寧に挨拶をするのだった。



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