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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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「レヴィアス。シャルはちょっとヤバいぞ」


パン屋の店先で教会へと向かうシャルをしばらく見送った後、エルムは急ぎ店に入りレヴィアスに詰め寄る。


「何がだ?」

「素直すぎるというか、純粋すぎるというか。他人との距離感がちょっとヤバいっていうか」


早朝エルムと散歩へ出かけた帰り、シャルは出会う人出会う人に挨拶をしていたらしい。

その中でパン屋の開店時ちょっと親しくなったお姉様に声を掛けられシャルは喜んで応対し、案の定またパンを頼まれる。


エルムはシャルがどんな対応をするのか黙って見守った。

レヴィアスに叱られていたシャルはきちんと断る事ができたが、教会で神父に『人の役に立て、人には親切に』と教わった事もあり、何か悪い事でもしたかのように逆に悩んでしまったらしいく表情を暗くする。


一方シャルに断られたお姉様はそんなシャルに気づきもせずに、今度はエルムに何かと話しかけるので、エルムはシャルの手を取り逃げるようにその場を去った。


「店のパンは売れないけど僕が代わりに他の店に買いに行ってあげれば良いのかな? そうすればあの人に喜んで貰えるよね」


俯き加減に歩きながらまだ悩むシャルにエルムは元気づけるつもりで一応返事をする。


「シャル。あのおばさんはただのご近所さんだ。そこまでする必要は無いと思うぞ」

「でも神父様は人は助け合わないといけないって言ってたよ。僕も誰かの役に立ちたい」


エルムは正直そんな必要ないとはっきり言いたかった。

あんなババァの利己的で一方的な頼みを聞いて、善意を働いたと自己満足に浸るのは気持ち悪いぞと。そんなのは助け合いとは言わないのだと。


既にエルムの中ではいい年をして色目を使ってきた気持ち悪いババァとう評価に成り下がったお姉様に対する同情の余地は一ミリもなかった。


エルムは自分の容姿に反応する人間(特に女性)を何処か馬鹿にし信じる事ができずにいる。

だから大抵の場合取り繕った笑顔を仮面のように貼り付け、相手に有無を言わせない近寄らせないという手段を使っていた。


なので親しくもない人間に発する言葉など最低限。というか相手にしたくもないという思いが強かった。

しかしせめてもう少し礼節をわきまえてくれていればご近所さんとして仲良くする選択肢はあった。シャルのために。


だがシャル相手にそんな本音を言えるはずもなく、かといって他にどんな言い方でシャルを説得したら良いか思いつかないほどエルムも気分を悪くしていた。


(あのババァ、シャルに大人の手伝いができるのは偉いと言いながらシャルを便利使いする気満々だったし、この俺様に俺たちじゃ教えられない事を教えてやるとか上から目線でベタベタしやがって。あぁ~ムカつく! 俺たちに教えられないどんな事をシャルに教える気なんだ。マジ許せねぇ)


エルムはお姉様に気付かれない早業で膝カックンをお見舞いし、少々膝を痛める程度の嫌がらせで済ませて来た事を後悔していた。


「って事があったんだ」

「何故朝食時にその話題を出さなかった。出せばその場で話し合う事もできた」

「あの時は俺の本音抜きで話すのは無理だったな。まさかシャルには聞かせられないだろう。俺はシャルの前ではカッコイイパパでいたいからな」

「はぁ・・・」

「安心して、シャルの元気が無かったから話は聞いておいたよ」


レヴィアスが呆れた表情で溜息を吐いていると、話を聞きつけたキラルが奥から現れた。


「おぉ、さすがキラルだ」

「エルム。こういう事はちゃんとその場でシャルを納得させないとダメだよ。父親として減点だからね」

「スマン・・・」


キラルに窘められガックリと肩を落とすエルム。しかしすぐに元気を取り戻しキラルの両肩に手を置き問い詰めるように迫る。


「で、なんと言って納得させたんだ?」

「同じご近所さんなのに誰か一人を特別扱いにはしない方が良いって説明した。それよりももっと広くみんなの役に立つ事を考えようって」

「うんうん、それでそれで?」

「このお店を手伝わせる事にした」

「店の手伝いだと!? シャルにはまだ早いだろう!!」

「良いよねレヴィアス」


キラルは騒ぐエルムを無視してレヴィアスに了解を求める。


「そうだな、教会じゃ文字も計算もあまり熱心には教えていないようだしな。案外この店を手伝わせる方が覚えが早いかもしれん」

「だけど昨日みたいに客が大勢入ったらどうすんだよ」

「シャルは邪魔にはならないと思うな。シャルは賢い子だから大丈夫だよ」

「シャルに注文を取らせ、エルムお前が料理を提供する。そうすれば問題ないだろう。寧ろお前もその方が助かるんじゃないのか」


意味深にニヤリと笑うレヴィアスにエルムは嫌そうな表情を浮かべる。


「じゃあレヴィアスお前はシャルに計算を教えるんだな。そこで突っ立ってるだけなんだから余裕はあるよな!」

「その言い方は見過ごせないが、まぁ当然だ。私がシャルに文字も計算もきっちり教えるから安心しろ」


確かに会計とショーケースの商品販売を担当しているレヴィアスはショーケース内から動く事は無い。しかしそれは日中静かに過ごしたいというレヴィアスの性質的には仕方のない事だった。


本来店が忙しくなる事など想定していなかったので、エルムは比較的広く店の中を動き回る自分だけが忙しいと勘違いしている節があるのはレヴィアスも気付いている。

そんなエルムにキラルやレヴィアスも想定以上に大変だと説いても納得しないだろう事も分かっていた。

だから無駄な論争を避ける事にしたレヴィアスは敢えて今は思いを飲み込み、いずれ分からせてやると静かに心にあるエルム手帳に記帳する。


「それじゃぁ教会へはもう通わせないの?」

「学習だけで言ったらそうなるが、元々シャルには人間社会を学ばせ友達を作らせるのが目的だっただろう。もっともシャルには既にチョビという友達が居るからな。教会へ行くか行かないかはシャルに決めさせれば良い」

「それもそうだね」


こうしてシャルは当初予定になかった店の手伝いをする事になるのだった。



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