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ちっちゃい僕とパパ三人  作者: 橘可憐


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「いつも嫌な役をやらせてばかりでごめんなさい」


シャルが眠った後、リビングのソファーに座りコーヒーを楽しむレヴィアスの向かい側に調理場の片付けを終えたキラルが座る。


「何で謝る?」

「僕ではああいう風にシャルを叱って教える事はできないよ」

「で、何を謝る」

「わざわざ嫌われ役をやってくれているのかと思ってさ」


キラルは自分で淹れたホットミルクのカップを手に深刻そうな表情でレヴィアスに告げる。


「フン、それぞれができる事をすれば良いとシャルに教えたつもりだが、キラル、お前にも改めて教えなくてはならないのか? 私ではできないお前の役目もあるだろう謝る必要など無い」

「そう、なのかな?」

「ああ、それに嫌われ役になったつもりもない」


キラルには自信が無かった。

レヴィアスのように道理を説いたりエルムのように体を鍛えたりと、自分の役目を持ってシャルに接する事ができているとは思えないでいた。

寧ろシャルに気付かされる事の方が多く、いつだって自分の楽しい事を優先させているという自覚しかない。


「私がどんなに叱ろうとお前がちゃんと癒やしているからシャルはあんなに真っ直ぐに育っているのだ。もっと自信を持て。お前が悩んでいたらシャルが不安がる」

「そうかな」

「お前に悩む姿など似合わん。いつも通り笑っていれば良い」


レヴィアスは話はもう終わったとばかりにコーヒーカップに口を付ける。


「ところでエルムは何処へ行ったんだ?」


シャルが二階へ上がると同時にエルムは何処かへ出かけて行った。

普段ならエルムが何処でどうしようとあまり気にする事も無いのだが、この場の雰囲気を変えたくてレヴィアスは敢えてキラルに尋ねた。


「シャルとの散歩経路を探すみたいだよ。体力向上だとか楽しめる場所だとかなんだか色々考えているみたいだった。これからシャルの訓練はどうしようと考えていたのにレヴィアスに先に早朝散歩されたのが悔しかったんじゃないかな」

「あれはシャルが一人で出かけようとしていたから付き合っただけだ」

「それでもエルムはそうは思っていないよ。本来なら自分が先に散歩を提案すべきだったって本気で悔しがって」


話の途中でレヴィアスがフッと短く溜息を吐くのに気づきキラルは話を中断させる。


「お前はそうやってみんなの事をよく把握している。私には到底真似できない事だ。お前がいなかったら私はシャルだけでなくエルムとも上手く付き合えたか分からない。これでも感謝しているのだがどうも私は伝え忘れていたようだ」

「どうしたの急に」

「急ではない。お前にはいつも助けられている。これからもよろしく頼む」


キラルはレヴィアスにじっと見詰められその漆黒の瞳に引き込まれそうになる。そしてレヴィアスの真剣さが伝わりなんだか心がほわほわしてくるのを止められなかった。


「照れるじゃん。止めてよ恥ずかしいな。別に頼まれなくたって僕はシャルのためにも頑張るから」


キラルが照れたように嬉しそうに笑うのをレヴィアスは満足げに見詰めていた。


生活する上で精霊には睡眠という概念はなく基本寝なくても生活はできる。

しかし闇の精霊であるレヴィアスは闇の魔力が濃い夜の方が活動しやすいとか、光の精霊のキラルはお日様の光が溢れる美しい場所の方が魔力を吸収しやすいといった傾向はある。


契約している少女がこの場に居れば少女の魔力を分けて貰う事で何も問題ないのだが、今は必要魔力の不足分の補給は自分でどうにかしなくてはならない。

精霊として気ままに過ごす分にはそんな必要も無いのだが、人間社会での生活には少なからず魔力を必要とする。特に擬人化を維持するために。


だからか日中レヴィアスは比較的静かに過ごし夜活動的になる。そしてキラルは日中日の光が眩しい場所を好み夜は敢えて眠るようにしていて、エルムは森の中にいる方が比較的魔力を補給し易いらしく好んで森へと出かけやはり夜は眠る事が多い。


そんな三人が揃ってゆっくり過ごしお互いの事を話すなどあまりなく、お互い何を考え何をしているかなどキラルが間に入らなければ殆ど知る術はない。

全員が揃えば決まってシャルが中心で当然話題もシャルの事ばかりだ。


キラルは人の話を聞くのが好きで、また警戒させずに相手の懐に入るのも得意で揉め事を収めるのも上手い。

知らぬ間に色んな相手から殆どどうでもいい情報までを聞き出しているその術はレヴィアスには到底真似できず、羨ましいと言うよりスゴいと感心する事がある。


だからともすれば孤独になりがちで勘違いされやすいレヴィアスにとってキラルは、人間社会で生活する上でとても重要で必要な存在だった。


以前ならともかく、今はシャルを育てなければならないと思うと人間社会で上手くやるのは絶対事項だ。自分のためではなくシャルのために。


なのでこんな所でキラルに挫折される訳にはいかないレヴィアスにとって、明かすつもりもなかった本心を話すのは必要な事で間違っていなかったのだと、嬉しそうなキラルの表情を見て自分を納得させた。


普段は脳天気などと揶揄する事もあるが、その存在がいかに大事かをレヴィアスは自分だけでなくキラル本人にも自覚させるのだった。



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